第四十五話「異変の先に」連載小説「奪われるースパイ天国・日本の敗戦ー」
スパイ防止法がないこの“天国”・日本で、知らない間に国が「奪われる」──。 表向きの歴史やニュースの裏側に潜む、冷酷な国際諜報戦と、個人の運命が国家間の巨大な陰謀に巻き込まれていく壮大な安全保障サスペンス小説、ここに爆誕。
舞台は、女性初の内閣総理大臣・高地きみえが熱狂的な支持を背景に「強い日本」を目指す日本。彼女は長年の懸案である日本人拉致被害者の奪還を決意し、極秘裏に北朝鮮の金正恩総書記との会談に臨む。しかし、その外交交渉の裏側では、すでに北朝鮮の体制に「影」が差し込み、巨大な隣国・中国の思惑が絡み合っていた。
第四十五話「異変の先に」
日本の国会議事堂では北朝鮮や中国の「異変」とは対照的に、いつも通りの淡々とした質疑が繰り広げられていた。「もう、くだらない野党の質問は邪魔なだけや」。関西出身の与党議員がヤジを飛ばしている。だが、高地きみえ首相の一言をきっかけに異様な緊張に包まれた。
野党議員の質問のテーマは台湾有事だった。「中国による台湾侵攻の可能性について、どのように考えているのか。高地首相は台湾侵攻があった場合、集団的自衛権を行使するつもりか?」と鋭く迫った。高地は毅然とした表情で答弁席に立った。「『台湾有事は日本の有事』です。集団的自衛権を行使する事態、すなわち存立危機事態と言える可能性は排除できないと思います」。その答弁は、ただちに国内外に波紋を広げた。
同盟国の米国は支持をすぐに表明したが、中国政府は「内政干渉」と激しく非難した。中国外務省の報道官は記者会見で「日本は歴史を忘れたのか? 高地首相の妄言は両国関係を破壊するものだ」と表明。中国の反応はその後もエスカレートしていった。
まず、日本製品に対する不買運動が始まった。自動車や家電などが標的にされ、中国市場での売上が急落した。さらに中国発のサイバー攻撃が疑われる事件が次々に発生し、日本企業はハッキングの打撃を受けていった。そして、中国外務省は駐中国日本大使を呼び出し、猛烈な抗議を向けた。「高地首相の無責任な発言は両国の信頼を損なう。直ちに撤回せよ」。だが、高地はこれを拒否し続けた。あらためて国会で真意を問われたが、「事実に基づく見解だ」として撤回することはなかった。
日本政府内でも意見が分かれた。外交ルートを通じて中国との対話を試みようとする穏健派と、「撤回すれば弱腰だと見られる」という強硬派の意見は平行線をたどった。外務省は「冷静な外交努力を続けてきましたが・・・」と言い淀んだ。中国側との各種行事は相次いで突然キャンセルされるなど両国のチャンネルは閉ざされていった。