「技術で勝って、ビジネスで負ける」を終わらせられるか……日本の新たな産業政策の勝算
日本はこれまで、さまざまな分野で産業政策を打ち出してきた。しかし、巨額の資金を投じても、必ずしも産業の成長にはつながらなかった。なぜ、過去の政策はうまくいかなかったのか。政府が新たに打ち出した「日本成長戦略」では、その反省をどう生かしているのか。日本成長戦略会議の構成員を務める東京大学公共政策大学院教授・鈴木一人氏が、過去から得た教訓とそれでも残る課題について解説する。
みんかぶプレミアム連載「鈴木一人 地政学×経済安全保障=地経学」
「日の丸半導体」はなぜ失敗したのか
日本はこれまでにも、何度も成長戦略や産業政策を打ち出してきました。それにもかかわらず、なぜ十分に成長できなかったのか。今回の日本成長戦略を考えるうえで、この問いは非常に重要なものです。
過去の産業政策がうまくいかなかった理由は、大きく二つあります。一つは、産業構造を十分に理解していなかったこと。その典型的な例が半導体です。かつて日本では「日の丸半導体」という言葉に象徴されるように、設計から製造、後工程まで国内で完結させることにこだわった政策が進められました。
しかし世界の半導体産業は、すでに水平分業へと移っていました。設計は米国、製造は台湾、材料や製造装置では日本企業が強みを持つ、といった具合に、国境を越えた分業によって一つの産業が成立するようになっていたのです。
それにもかかわらず、最初から最後まで日本だけで完結させようとした。世界の産業構造と政策が合っていなかったのです。現在の半導体政策は、その反省を踏まえ、ラピダスもIBMなど海外企業と連携しています。
過去の失敗のもう一つが、「入口」にお金をかけすぎたことです。設備投資したい企業に対し、政府が補助金を出し、新しい工場や設備をつくる。ところが、そこでつくった製品が売れない。これでは産業は育ちません。
市場から退出する企業を補助金で支え続ければ、補助金がなくなれば立ち行かない企業、いわば「ゾンビ企業」を生み出してしまうことになります。
今回の成長戦略が過去と異なるのは、供給側への補助だけではなく、「出口」、つまり需要をつくることを重視している点です。政府自身が調達者となり、一定の需要を保証する。
企業は将来の需要を見通せるから設備投資できる。そして政府需要だけに依存するのではなく、それを足掛かりに民間市場や海外市場へ進出していく。こうした形をつくれるかどうかが、今回の産業政策の成否を左右します。
370兆円という数字に、それほど意味はない
今回の成長戦略については「2040年度までに370兆円超の投資を行う」という数字が大きく報じられました。しかし私は、この370兆円という数字そのものには、それほど大きな意味はないと考えています。
ある程度の規模感を示し、「日本はこれだけの投資をしていく」と宣言する効果はあるでしょう。しかし、それより重要なのは、民間投資を動かすために、どのように公的なお金を使うのかです。
これまでの産業政策では、企業に補助金を出し、研究開発や設備投資を支援する「入口」に重点が置かれる傾向がありました。しかし、設備を作っても、製品が売れなければ産業にはなりません。そこで今回重要になるのが「出口」です。
例えば政府が、「今後、年間10万機のドローンを調達します」と明確に示したとします。
企業からすれば、10万機を買う顧客がいることが分かれば、工場を建て、人を雇い、設備投資をすることができます。投資家も「これだけの需要があるなら投資できる」と判断できます。
つまり政府が需要をつくることで、民間企業に予見可能性を与えるのです。造船ではすでに、官民による大規模な投資が設備更新などに向かい始めています。政府と国内造船業界は、2035年までに国内の年間船舶建造量を現在の2倍(1800万総トン)に引き上げる目標を掲げており、この計画に伴って政府側・民間側がそれぞれ3600億円を拠出する方針を表明しています。そして実際に名村造船や今治造船は設備投資や機器の更新を進めています。