兄弟の夫や妻の「代わりにサポートするよ」が相続をこじらせる 相続専門税理士が見てきた”うちは大丈夫”な家族の落とし穴
「うちは財産なんて大してないし、兄弟仲もいいから大丈夫」——親の相続について、そう考えて先延ばしにしている人は少なくないだろう。
だが、相続専門の税理士として数多くの家族と向き合ってきた桑田悠子氏は、親の意思能力がなくなった段階では、相続税対策の選択肢は『全部ゼロ』になると言う。しかも、揉めやすいのはむしろ仲のいい兄弟で、遺産1,000万円以下の家庭でも調停・審判に発展しているのが現実だ。
なぜ、”うちは大丈夫”な家族ほど危ないのか。円満相続税理士法人の副代表を務める桑田悠子氏に、税理士に転身した経緯と、「もっと早く相談してくれれば」と感じてきた相続トラブルを聞く。
みんかぶプレミアム連載「取り返しのつかない相続」全3回の第1回。
親の意思能力がなくなったら、相続税対策の選択肢は『全部ゼロ』になる
私が税理士を目指したきっかけは、祖父が亡くなり、相続の問題に直面したことです。祖父の相続を通じてさまざまな手続きや対応に苦労し、「相続で悩んでいる人や困っている人は多いのではないか」と感じました。現在は円満相続税理士法人の副代表として、相続税申告、生前対策、事業承継、国際相続などを担当しています。
私がこれまでに受けた相談で多いのは、親御さんの判断能力が低下してから相談に来られるケースです。判断能力がまだ残っていればいいのですが、「もう判断能力がないですね」となった段階では、いくら私がアイデアを持っていても、何も実行できません。なぜなら相続税対策には、親御さん自身の意思による行動が必要だからです。
相続税を減らす対策というのは、親御さんの財産について、親御さん自身が贈与をする、遺言を書く、不動産を売買する、保険に加入するといった行為をして初めて成立するものです。これらはすべて、本人に意思能力がなければできません。判断能力がなくなった状態でできるのは、せいぜい「亡くなった後にどう分けるか」を子ども同士で話し合っておく程度です。
ただし、認知症の診断が出たからといって、100%意思能力がないと決まるわけではありません。軽度の認知症の場合は状態に波があることも多く、たとえば午前中は受け答えがしっかりしていても、午後になると難しくなる、というケースもあります。そうした場合は、契約を結ぶ際に医師の診断書などで「契約当時、意思能力があった」ことを客観的に示せれば、認知症の診断後に行った契約行為であっても、後から無効を主張されずに済むことがあります。
遺言は何度でも書き直せる。介護した子と遠方の子、家業を継いだ子と継がなかった子——すれ違う不満が火種になる
相続税がかかる方であれば、1日でも早く、1年でも早く対策を始めていただきたいと思っています。遺言は何度でも書き直せるものなので、「今の時点で最適な内容」をまず作っておき、家族構成やお孫さんの誕生といった状況の変化に応じて更新していけばいい。とにかく早いうちに専門家に相談しておくことが大切です。
相続税がかかるかどうかにかかわらず、親御さんが元気なうちにご家族で話し合い、専門家にも相談しておく。これが結局、一番の近道だと感じています。そして、起こりやすいトラブルはご家族ごとに全く違います。相続税の負担そのものが問題になるご家庭もあれば、兄弟間で遺産の分け方をめぐってトラブルになるご家庭もあります。