「AIに人間を感動させることはできない」を覆した700万再生ラップ…街録ch三谷三四郎が唸った『もらいもん』に潜む、二次創作者の”諸刃の剣”
地上波からNetflix、さらにはAbema、U-NEXTまで――。コンテンツが乱立する今、人を真に熱狂させるのは「面白い」の先にある「ヤバい」番組だ。1000人以上の剥き出しの人生を記録し続けてきた『街録ch』ディレクター・三谷三四郎が、エッジの効いた一作を独自のバイアスで読み解く。
連載「今、ヤバい番組」第12回は、公開から約1ヶ月で700万回再生を突破しているあのミュージックビデオ。
700万回再生の”大人ドラえもん”
「THE FIRST TAKE」を彷彿とさせる、薄くグレーがかった空間。そこに立つのは、3DCGでつくられた大人になったドラえもんのキャラクターたちだ。のび太(黒人)、ジャイアン(ボディビルダー並みのマッチョ)、スネ夫(黒目が無い)、しずかちゃん(純粋な美女)、出木杉くん(病人)、そしてのび太の母親(黒人)。
サムネイルが醸し出す「ドラえもんのキャラクターを使ったおふざけネタ動画」という雰囲気とは裏腹に、そこから流れてくる映像と楽曲のクオリティの高さに、度肝を抜かれた。
「CGなのに実写越えレベルのMV。魂の言葉を綴った歌詞がすんなり身体に沁み入る。そのどれもが美しい」
「泣かせんじゃねぇよクソッタレ。2児の父43歳。癌なんかに負けねぇぞチクショウ」
コメント欄には、6000件を超える絶賛の声が溢れている。AI生成のラップや歌、ふざけた設定のCGキャラであるにも関わらず、多くの人々がこの動画に涙しているのだ。かくいう自分も、その一人である。
のび太、ジャイアン、スネ夫……マイクリレーで綴られる”生きづらさ”の物語
導入はのび太のラップ。ドラえもんがいなくなっても強く生きるという覚悟と、育ててくれた母親への感謝が、とてつもないスキルと固い韻で繰り広げられる。
続いてジャイアン。非行を繰り返し刑務所へ服役した彼は、小学生時代、母の愛情こもった弁当をトイレに捨てていたことを監獄の中で思い出す。「自分は愚か者」と、これまでの生き様への後悔をラップに乗せる。
のび太とジャイアンが母への感謝や愛を語る一方で、スネ夫がラップするのは共感されづらい悲哀だ。由緒正しい家柄で裕福だが、両親は常に留守で憂鬱な家庭に育った御曹司。親からの愛が欲しかったと、黒目(eye)が無いスネ夫が歌う。
この楽曲がさらに凄いのは、その展開の幅広さにある。
のび太とジャイアンがそれぞれバースとフック(いわゆるAメロ・Bメロ・サビ)を歌い、
スネ夫が2パターンのラップを披露する。後半、しずかちゃんの透き通るような女性ボーカルで落ちサビを歌い上げたかと思うと、すぐさま出木杉が別パターンのこの楽曲一番のキャッチーなサビで応酬。
出木杉の設定は、おそらく不治の病だ。入院中に別撮りし、命を削りながら歌唱しているかのような演出で、「四次元ポッケに比べたら人間ちっぽけだな」というある種達観したメッセージをエモーショナルに歌い上げている。
今を悩みながら泥臭く生きているのび太、ジャイアン、スネ夫との鮮烈な対比。
命の長くない出木杉が、出会いと別れを繰り返す人生の真理を、終末に歌う。
間奏でそれぞれが号泣する中、満を持して黒人ののび太ママが登場。ここからは母親視点で、子供への思いを綴った全く別のメロディが展開される。
「連絡が来なくても子供が元気ならそれでいい」「存在そのものがもらいもんだ」ということを優しく語りかけるようにこの歌を締めている。
黒人ののび太ママが締めくくる、言葉の壁を超えた「涙腺崩壊」
コメント欄でも、こののび太ママのブロックで「涙腺が崩壊した」という感想が多く寄せられていた。中には、外国人の視聴者が「最初は言葉がわからずに引き寄せられ、頑張って歌詞の意味を調べた。全てを理解できている自信はないが、それでも涙が溢れて止まらなかった」という旨のコメントを残していた。
言葉の壁を越え、世界中の誰もが感動できるコンテンツ。
この楽曲の凄さは、ジャイアンが監獄に入っていたり、スネ夫の母がウルグアイでハッパを吸うマダムだったりと、かなりエッジの効いた若者独特のイケイケな展開もありながら、死を目前にした出木杉の達観や、もがく息子たちを遠くから見守る母の視点が入る。
7分という短い尺の中に多角的な視点が詰め込まれており、それぞれの角度から「人生は『もらいもん』だからこそ、人に与えていかなければならない」という人生酸いも甘いも経験して辿り着くようなメッセージを伝えているのだ。
パソコン1台で数千万円級の映像を実現できる
B子さんはこの楽曲と映像を、一人でつくったのだろうか。AIの発達以前なら数千万円はかかったであろうクオリティの映像を、パソコン1台でつくってしまう時代が来たのかと驚愕した。
この作品がこれほど多くの人を感動させている根っこにあるのは、「面白いものをつくりたい」というクリエイターの圧倒的な熱量だ。
「AIに人間を感動させることはできない」という説を根底から覆す名作であり、人間が情熱を持ってAIを駆使すれば、これまでにない面白いコンテンツがつくれるという事実を世間に叩きつけている。圧巻。その一言に尽きる。ただ、1つだけ気になることがある。