楽天参入で沸く「防衛ドローン株」の落とし穴…「20式の試作選定」を「本格量産」と勘違いするフライング買いの罠
楽天グループによるドイツHelsingとの連携や、Terra Droneの防衛装備庁受注など、防衛ビジネス参入を巡る株式市場の反応が過熱している。防衛省の2026年度予算「無人アセット防衛能力」の2773億円という数字が投資家の期待を煽るが、元プレジデント編集長で作家の小倉健一氏は「参入発表で自動的に注文が入るわけではない」と釘を刺す。対応する「予算の箱」の有無、実証・調達準備・正式契約という段階ごとの隔たりを整理し、市場の過熱と防衛調達の実態に存在するギャップを浮き彫りにする。
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楽天がドイツ企業と組み自衛隊テストへ EC・モバイル企業に加わった「防衛AI」の物語
楽天が防衛ビジネスに顔を出した。
2026年8月、楽天グループがドイツの防衛AI企業Helsingと組み、同社の攻撃型ドローン「HX-2」の日本導入を支援していることが明らかになった。陸上自衛隊はHX-2を試験中で、9月末まで評価を続ける。正式採用はまだ決まっていない。何機買うのか、契約額はいくらか、楽天にいくら入るのかも分からない。それでも市場は反応した。EC、カード、携帯電話の会社に、突然「防衛」「AI」「攻撃型ドローン」という物語が加わったからだ。
このニュースを見て、私はTerra Droneを思い出した。同社は5月、防衛装備庁から「モジュール型UAV(汎用型)教育用」300式を1億1543万4000円で受注した。7月には迎撃ドローン「TerraB1」が防衛装備庁の実証機種4タイプの1つに選ばれ、株価はその日に22.4%上昇した。
まだ大量受注ではない。それでも株は動く。2026年度、防衛省は「無人アセット防衛能力」に2773億円を計上した。無人艇や無人潜水機も含む数字だ。その中でも「SHIELD」には1001億円が付いた。モジュール型UAV、小型攻撃用UAVⅠ~Ⅲ型、艦艇攻撃用UAVなど、買う物の名前まで並んでいる。「新市場が開き始めた」と市場が考えるのは当然だ。
実機テストの楽天と調達準備のテラドローン 同じ「防衛関連」の決定的なフェーズ差
ただ、ここで熱を冷ました方がいい。防衛予算は、担当者が好きに使える財布ではない。「何を買うか」はかなり細かく分かれている。ドローン会社が防衛参入を発表したからといって、2773億円のどこかから自動的に注文が落ちてくるわけではない。その会社の商品に対応する予算の箱があるのか。実証か、調達候補か、正式契約か。投資家が見るべきなのはこちらだ。
この物差しを当てると、楽天とTerra Droneの立ち位置は違って見える。HX-2は陸自が実機を試しているので、単なる営業話ではない。日本の調達競争には入っているが、採用は決まっていない。Terra Droneはモジュール型UAVではすでに契約まで到達した。TerraB1も4つの実証機種の「タイプ3」に選ばれ、その後、防衛装備庁は1~4型について各20式の調達を予定する契約希望者募集を公示した。
ここで「TerraB1が20式受注」と書けば、盛りすぎである。実証に選ばれた。調達準備が始まった。正式契約を取った。量産が始まった。同じ「防衛案件」でも、この間には深い「溝」がある。ところが株式市場は、その「溝」を契約書よりだいぶ先に飛び越えてしまっている。
Terra Droneの場合は、そこがさらに面白い。同社は新株予約権を使い最大約145億円を調達する計画を立て、そのうち65億円を防衛事業の本格立ち上げに使う。現在確認できる大きな防衛省向け確定受注は約1.15億円だ。売上を積んでから工場を大きくするのではない。実証に入り、期待が高まり、株価が上がり、市場から金を集め、人を採り、生産能力を作り、受注を狙う。
同社自身、株価が上がらなければ十分な資金を集めにくい仕組みだと認めている。「防衛ニュースで株が上がる」と聞くと、テーマ株相場のようにも見える。半分はそうだろう。だが、残り半分は企業の成長そのものにつながっている。将来への期待が先に会社を作り、その会社が後から売上を取りに行く。
数カ月で「正解」が変わるウクライナの現場 慎重な調達手法がドローンで裏目に出る理由
ここまでは投資の話である。私が引っかかったのは、その先だった。買う側の防衛省は、本当に何を買えばいいのか分かっているのか。これを「役人はドローンに無知だ」という話にすると簡単すぎる。ウクライナでは、新しい機体が出れば相手がGPSを妨害する。通信を切る。すると周波数や誘導方法、ソフトを変える。数カ月で戦い方が変わる。去年の優秀機が今年も優秀とは限らない。正解の方が逃げ続けている。
日本の従来型調達とは相性が悪い。要求仕様を固め、時間をかけて審査し、1機種を選び、長く使う。戦闘機や艦艇なら慎重さにも意味がある。ドローンでは、慎重に選んでいる間に古くなる。
防衛省もそこに気づいている。今年の迎撃ドローン早期取得プログラムでは、取得まで約3カ月という短い日程を組み、38社から提案を集め、4タイプを実証する。結果が悪ければ量産しない。最初から1社を「正解」と決めない。これは前進である。