「うちは財産がないから大丈夫」が一番危ない…2000万円台のごく普通の家で“数十人の親族”を巻き込む相続トラブルが起きた理由
2,000万円ほどの、ごく普通の一戸建て。それをめぐって、100人近い親族に連絡を取らなければならなくなる――そんな事態が現実に起きている。
大阪府堺市で司法書士・行政書士事務所を営む植田麻友氏は、不動産の相続登記や遺産分割協議書の作成などの相続に関する業務と、中小企業の法人登記をメインに扱う司法書士だ。ショート動画などを通じて相続をわかりやすく発信していることでも知られ、「相続は資産家だけの問題ではない」というメッセージを発信し続けている。
本稿では、まず植田氏がなぜ相続の情報発信に力を入れているのか、そして、普通の家庭にも起こり得る「取り返しのつかない落とし穴の入り口」を聞く。みんかぶマガジン連載「取り返しのつかない相続」。全3回の第1回。
みんかぶプレミアム連載「取り返しのつかない相続」
相続人が数十人に…名義変更を放置した「普通の家」の末路
相続と聞くと、資産家だけの話だと思われがちです。しかし実際に相談件数が多いのは、実家と預貯金が財産のほとんどを占める「ごく普通の家庭」のほうです。
背景にあるのが、相続登記の扱いです。2024年4月の改正不動産登記法で登記が義務化されるまで、不動産の名義を変更しなくても罰則はありませんでした。固定資産税さえ払っていれば、役所から何か言われることもない。この「つい数年前まで放置できた制度だった」ことが、致命的なトラブルの種になります。
かつては子供の数が多く、しかも戦後は家督相続(長男が単独で家を継ぐ制度)が廃止され、子供全員に相続権が生じるようになりました。その子供がすでに亡くなっていれば、権利はさらにその子どもへと引き継がれていきます。(代襲相続)こうして数十年放置された不動産の相続人が、気づけば数十人、ときには100人規模にまで膨れ上がっているのです。
特定の相続人が不動産を取得するために遺産分割協議を行う場合、原則として相続人全員で話し合いをまとめる必要があります。 ところが当事者の中には、自分が相続人であることすら知らない人もいます。会ったこともない親族へ一人ずつ連絡を取り、事情を説明し、書類に押印してもらう。それを何十人分も繰り返すには、果てしない時間と労力がかかります。話し合いがまとまらなければ、弁護士に依頼して裁判所の手続きに進むしかありません。当然、費用も時間も膨らみます。
これだけの手間がかかるのが、決して豪邸の話ではないというのも盲点です。私が実際にご相談いただいたケースでは、対象の不動産は2,000万〜3,000万円程度の、ごく普通の一戸建てでした。それでも名義変更を怠っていたせいで、数十人規模の人たちとの話し合いが必要になる。財産の大きさとは関係なく、放置していた年数だけが問題を膨らませていくのです。