EV減速の裏で急増する「電力用蓄電池」 AIデータセンターが引き起こす新たな電力危機
世界的にEV(電気自動車)の伸びが鈍化する一方、AIデータセンターの膨大な電力消費や送電網の混雑を背景に、「定置用蓄電池」の需要が爆発的に伸びている。電池メーカーが車用からインフラ用へと生産設備を振り向ける動きが進むが、そこには中国勢の圧倒的な規模と安さ、そして厳しい安全・サイバー規制の壁が立ちはだかる。EV依存からの脱却を図る電池業界の現在地と、企業が生き残るための条件を、元プレジデント編集長で作家の小倉健一氏がひもとく。
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「作った瞬間に使う」電気の基本ルール AIと再エネで調整不能になる現実
電気は、作った瞬間に使う必要があるという厄介な性質を持っている。電力会社は、作る量と使われる量を常にほぼ同じに保たなければならない。ところが、太陽光や風力が増えたことで、この調整が難しくなってきた。天候によって発電量が大きく変わるうえ、AIデータセンターの建設で電力需要そのものも増えている。
そこで「蓄電池」の役割が大きくなる。電気が余る時間にため、不足する時間に出せれば、発電と消費の時間をずらせる。昼間の太陽光を夜に回し、工場では電気料金の高い時間帯の使用量を抑える。停電時の非常用電源にもなる。これまで蓄電池はスマートフォンやEVの部品という印象が強かったが、今後は発電所や送電網と組み合わせて使う電力設備としての比重が上がる。
発電設備そのものを増やしても、必要な時間に電気が届かなければ意味がない。逆に、需要の少ない時間に余った電気を捨てるのも無駄だ。蓄電池があれば、発電所を新設するだけでは埋められない「時間のずれ」を調整できる。送電線の混雑をやわらげ、停電時の備えにもなる。電力の使い方が複雑になるほど、ためる設備の価値が上がる理由はここにある。
EVの売れ行きだけで将来を測れない時代 電力インフラへ広がる蓄電池の需要
こうした事情から蓄電池は、EVの販売台数だけで将来を測る産業ではなくなっている。電力インフラそのものの需要を読む必要が出てきた。IEA(国際エネルギー機関)によると、2025年に世界で新設された系統用・需要家向け蓄電池は108GWだった。約8割が電力会社などが使う大規模設備で、約6割を中国が占める。2026年上期の定置用電池セルの出荷量も461.3GWhに達し、前年同期比71%増だった。再生可能エネルギーが増えるほど、発電量の波を吸収する設備が必要になるためだ。
一方、電池産業の最大市場は今もEVである。2026年1〜8月の世界のEV向け電池搭載量は844.2GWhで、前年同期比19.7%増だった。量ではEVがまだ圧倒的に大きい。変わっているのは、電池が使われる場所と伸び方だ。車だけでなく、発電所、工場、家庭、データセンターへ用途が広がっている。
特に新しい需要として目立つのがAIデータセンターだ。IEAは、世界のデータセンターの電力消費量が2024年の約415TWhから2030年には約945TWhまで増えるとみている。データセンターは大量の電気を使うだけでなく、停電や電圧の乱れにも弱い。米国ではデータセンターの建設が先行し、送電線や変電所の整備が追いつかない地域も出ている。蓄電池を使えば、電力網が混む時間を避けて充電し、必要な時に放電できる。
瞬間的な停電を防ぐだけではない データセンターを支える蓄電システムの2大役割
データセンターで使われる電池には、UPSとBESSがある。UPSは停電から非常用発電機への切り替えまでを支える無停電電源装置だ。IEAによれば、データセンターを中心とするバッテリー式UPSの新設は2025年に45GWだった。BESSは数時間単位で電気をためる大型蓄電システムで、電力需給の調整や再エネの出力変動の吸収に使う。45GWと108GWは役割も集計範囲も違うため、単純に足すことはできない。
使われる電池の種類も変わる。EVでは重量が航続距離に直結するため、軽さとエネルギー密度が重要になる。地面に置く大型蓄電池では多少重くても困らない。それより価格、安全性、寿命、何回充放電できるかが重い。系統用蓄電池ではLFP、リン酸鉄リチウムイオン電池が約9割まで広がった。高いエネルギー密度より、安さや熱への強さを優先しやすい用途だからだ。
この分野で圧倒的な規模を持つのがCATLだ。中国最大手の車載電池メーカーで、EV向けだけでなく定置用でも世界最大級だ。2026年上期のESS向け出荷量は125GWhに達したとされる。BYDも中国のEV大手で、自動車に加えて電池や蓄電システムまで自社で手掛ける。