軟弱化したプーチン「中国助けて!」 習近平「知りません」2大独裁者の”終わりの始まり”

 ロシアによるウクライナ侵攻が長期戦の様相を呈する中、早稲田大学名誉教授でジャーナリストの重村智計氏は、「ロシアはウクライナに敗北する」と断言する。ただし重村氏は「ロシアの敗北は朝鮮半島の緊張感をより高めることにつながる」とも指摘する。ロシア、中国の “いま” を読み解き、あるべき日本の姿について語る――。全4回中の4回目。 

※本稿は重村智計著『半島動乱 北朝鮮が仕掛ける12の有事シナリオ』(ビジネス社)から抜粋・編集したものです。 

第1回:恐怖に怯える金正恩…ウクライナ侵攻を事前察知し、プーチン”全乗り”を決めた北朝鮮の行動と深い後悔
第2回:“大きな北朝鮮”となったロシアを、中国はこれから背負えるのか…”悪の枢軸”と言われた三国の厳しい未来
第3回:北朝鮮が狙うのは日本の米軍基地、自衛隊基地、首相官邸、防衛省…日本が危ない! 恐怖の12の有事シナリオ

世界中が “プーチンの終わり” を感じた日  

 ロシアのプーチン大統領と中国の習近平主席は、ウクライナ戦争中の2022年9月15日中央アジア・ウズベキスタン共和国のサマルカンドで会談した。およそ7カ月前の2月24日にロシアがウクライナに侵攻して以降、初めての中ロ首脳会談で、この会談に世界が注目した。 

 だが二人の会話は、独裁者の終わりを、初めて世界に示すものだった。この中ロ首脳会談は、世界中に配信された会談の映像で、「失敗」を世界に印象づけた。 

 会談と同時期、ロシアは侵攻によって占拠したハルキウ州をウクライナに奪還され、軍事的後退が世界に報じられていた。そのさなかの首脳会談では「共同声明」が発表されず「合意」の言葉もなかった。 

 首脳会談において、何らかの声明や合意がなされない場合、その会談は通常、失敗と判断される。プーチンと習近平の会談では、共同声明も「合意」の言葉もなかっただけでなく、プーチンが習近平に気を使う姿が、立場の弱さを印象づけた。プーチンは、やはり確実に追い詰められていた。 

 ロシアは、世界で初めて共産主義国家を樹立し、中国より上位に立つプライドを維持してきた。にもかかわらず、会談の冒頭でプーチンは「ウクライナ危機で中国が示したバランスある対応を高く評価する」と、習近平主席に述べた。「バランスある対応」とは、その意味を考えればとんでもない発言であり、プーチンはウクライナ戦争を支持しない中国の立場を受け入れたことを示す。 

 侵攻以降、中国は、ウクライナ戦争への支持を表明せず、ロシアに軍事支援もしない。米欧のロシア制裁に反対を表明しただけだった。しかも、ウクライナとの友好関係を維持していた。その中国に、プーチンは「バランスの取れた対応」と心にもない言葉を発するしかなかった。明らかに、習近平へのお追従だ。  

 驚いたことに、プーチン大統領は「急速に世界が変化する中で、中ロの友情だけは変わらない」と、歯の浮くような情緒的な発言をした。こんなあからさまなオベンチャラを、ロシアの指導者が口にしたことはない。 

 実際の中ロの歴史は、対立と衝突を繰り返し、友情が維持された時代は短い。冷酷なプーチンが「友情」をあてにするようでは終わりだ。ロシアは、ウクライナ戦争と経済問題で、相当な苦境に立たされていることを自ら露呈したことになる。 

 一方、習近平はプーチンに具体的な支援を約束せず、冷たい言葉で「ロシアと互いの核心的利益に関わる問題で支え合い、実務協力を深めたい」と述べた。「互いの核心的利益」は何なのかは明らかにせず、「核心的利益に関わる問題」との抽象的な表現にとどめたのだ。 

 しかも「実務協力を深めたい」と願望を述べただけで、「深める」とは約束していない。この表現であれば、仮に実務協力が「深まらなくても」、約束違反だとは言われない。なかなかの詐欺的表現だ。 

 習近平は続けて「ロシアと共に、急速に変化する世界に発展をもたらすため、先導的な役割を担っていく準備ができている」と、全く意味不明な言葉を並べた。簡単に言えば、中国としてロシアにしてあげる援助はないし、ロシアに期待できることもない、との意味で、なんとも冷たい態度と言える。 

 さらにここでも「役割を担う」とは言わずに「準備ができている」と述べた。外交的には、何もしない立場を明らかにした表現だ。 

 習近平の冷たい対応の背後には、やはり「ロシアはウクライナ戦争で負ける」との判断があるのだろう。中国としては、ウクライナ戦争後に欧米との関係を悪化させたくない、との計算が見え見えだ。 

習近平も必ず失脚する 

 ロシアの敗北後は、アメリカと対抗できる大国は中国しかない。ロシアは発言力を失い、国際政治の主役ではなくなって役に立たないという冷徹な未来を見通している。利用できるのは、低価格のロシアの石油と天然ガスだけだ。 

 ところが、驚いたことに日本の新聞はそうは書かない。各紙とも「中ロ対米で連携強化」(読売)「中ロ首脳、結束を強調」(朝日)などと、一面トップ記事で中ロが連携を強めたかの方向で会談を報じた。 

 しかし、両首脳は「連携強化」「結束強化」の言葉を使っていない。首脳が使っていない言葉を、新聞が勝手に「創作」してはいけない。読者はこうした報道に騙(だま)されてはいけない。 

 中ロ首脳会談には成果がなかった、と判断したのは日経新聞だけで、記事を3面の2番手に据えるさすがの紙面作りだった。記事の内容も冷静で、プーチンの苦境と習近平の優越姿勢を見抜く報道だった。 

 日経は「ロシアは軍事的な苦境で、第二の経済大国の中国への傾斜を強めざるを得なくなった」と冷静に分析し、「中露の関係は対等でなくなる」、と今後の二国の関係を展望した。 

 また、ロシアの専門家の「過度の対中依存を避けることが極めて重要だが、今後は難しくなる」との見通しも紹介し、ロシアは中国経済に従属するようになる、と展望したのだ。日経の分析は、朝日や読売よりはるかに優れ、真実に迫る。 

 この記事も、筆者の見立てと同じく「ロシアはウクライナ戦争後、中国に依存する二流国家に転落する」可能性を示している。ロシアがそれを挽回するには、政治・軍事的にウクライナ戦争に勝利するか、朝鮮半島で軍事衝突を起こさせるか、中国の台湾侵攻を促し、米国を疲弊させる作戦しかない。 

 習近平の中国は、経済の低迷に直面している。バイデン政権の中国制裁を受け、中国の経済発展が米国とヨーロッパの協力のおかげで成り立っていた事実に、初めて気づかされたのだろう。 

 以前の中国の指導者は、鄧小平の「国際社会に受け入れられ、尊敬される中国」が、外交の柱だった。国際協調外交で、国連安保理でも拒否権を乱発しなかった。 

 それが習近平になって変わった。アメリカを追い越し、世界一の超大国になる、との見果てぬ夢に固執した。強気の「戦狼外交」(中国語、戦争を辞さない脅し)を展開し、国際社会から白い目で見られ始めたのに気づき、「愛される中国」に再び舵を切ろうとしたが、うまくいっていない。 

 2022年10月16日に開かれた中国共産党大会では、習近平氏の独裁継続が決まった。中国共産党の最高指導部は「68歳以上であれば引退する」というのが慣例だが、69歳の習近平が異例の3期目続投となった。 

 だが、開催3日前の10月13日には、厳戒態勢の北京で「独裁国家の習近平を罷免せよ」との横断幕が街中に現れた。いずれ習近平が失脚する時代が来る。中国の歴史では、独裁者はやがて滅びるのである。 

中国・北朝鮮の暴走を許す日本の国力低下 

 ロシアが二流国家に転落し、韓国で反日政策が展開され、中国が台湾への武力行使を誇示する。そうなれば、北朝鮮が統一のための軍事行動に踏み切る危機が高まる。こうした混乱の中、日本はどうすべきか。何をなすべきなのか。 

 北朝鮮が核兵器の使用に言及し、中国が台湾侵攻に言及する「脅し」の原因の一つに、日本の経済力の後退がある。日本は、過去30年GDP(国内総生産)が、500兆円レベルで拡大していない。全く経済が成長していないのだ。 

 この間に、中国の経済力は日本を追い抜いた。一人当たりのGDPでは韓国にも追い抜かれた。日本国民は、韓国人より収入が少ない計算となり、数字上は、韓国民の方が日本人より金持ちだということになる。 

 日本国民は、経済的無策を続ける政府に、もっと怒るべきだろう。日本の経済力の後退は、日本人を不幸に至らしめるだけでは済まない。経済力の低下で、日本は東アジアの紛争を抑止する力を失ったのである。 

 韓国では、成長しない日本に「頼らない」「学ぶものはない」との思いが広がる。これが、過去数年の日韓摩擦と対立の本当の原因だ。端的に言えば、韓国に馬鹿にされているのだ。「尊敬されない日本」に気がつくべきだ。 

 韓国だけではない。日本を尊敬しない意識が、中国、韓国、北朝鮮に広がれば広がるほど、東アジアの緊張と紛争は解決しない。日本の説得力に力(経済力、国力)がないから、言うことを聞かないのだ。 

 よく「軍事ではなく、外交や対話で解決すべきだ」という声があり、それに対して「軍事という力がなくてどうやって外交を行えるのか」という反論がある。だが、外交や対話の際の説得力を増すためには、軍事力はもちろん、経済力や教育・文化力をも含む総合的な「国力」が欠かせない。 

 だからこそ、単に防衛費を増やすだけでは、日本の外交・安保は確立できない。安倍元総理はそれが分かっていたから、Quad(クアッド)やアジア太平洋戦略という安全保障枠組みの提案をして日本のプレゼンスを高めると同時に、アベノミクスや「三本の矢」政策で経済成長を図ろうとしたのだろうが、財政赤字解消はメドも立たない。世界一の借金国だ。 

 今後、日本を率いるリーダーには「尊敬される日本の復活」への使命と、国民への愛情が大いに問われることになる。

重村智計著『半島動乱 北朝鮮が仕掛ける12の有事シナリオ』(ビジネス社)

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この記事の著者
重村智計

1945年生まれ。早稲田大学卒、シェル石油勤務を経て、年毎日新聞記者、ソウル特派員、ワシントン特派員、論説委員を歴任。この間、韓国高麗大学、米スタンフォード大学客員研究員。拓殖大学教授、早稲田大学教授を経て、現在早稲田大学名誉教授、東京通信大学名誉教授。韓国同徳女子大学客員教授、日本財団特別顧問、里見奨学会理事、毎日新聞客員編集委員、ニュース時事能力検定協会理事。朝鮮報道と研究の第一人者で、北朝鮮評価・韓国否定だった日本の朝鮮半島報道を変えた。1994年に「北朝鮮は戦争できない」との論文を発表し、衝撃を与えた。著書は『外交敗北』(講談社)、『日朝韓「虚言と幻想の帝国」の開放』(秀和システム)「絶望の文在寅、孤独の金正恩』(ワニブックス)など20冊を超える。

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