北朝鮮が狙うのは日本の米軍基地、自衛隊基地、首相官邸、防衛省…日本が危ない! 恐怖の12の有事シナリオ

 弾道ミサイルや砲撃といった挑発行動を激化させている北朝鮮。早稲田大学名誉教授でジャーナリストの重村智計氏は「北朝鮮が戦争を起こす可能性は低い」とする一方で、「指導者は時に判断ミスを起こす」とも警鐘を鳴らす。日本も巻き込まれる可能性が高い、朝鮮半島有事のシナリオとは――。全4回中の3回目。 

※本稿は重村智計著『半島動乱 北朝鮮が仕掛ける12の有事シナリオ』(ビジネス社)から抜粋・編集したものです。 

第1回:恐怖に怯える金正恩…ウクライナ侵攻を事前察知し、プーチン”全乗り”を決めた北朝鮮の行動と深い後悔
第2回:“大きな北朝鮮”となったロシアを、中国はこれから背負えるのか…”悪の枢軸”と言われた三国の厳しい未来
第4回:軟弱化したプーチン「中国助けて!」 習近平「知りません」2大独裁者の”終わりの始まり”

指導者の判断ミスで核戦争勃発の危機

 現時点では、中国の台湾侵攻の可能性も、北朝鮮の暴発、軍事的南進の可能性も低い。その行動によって中朝が払わされる代償があまりにも大きいからだ。様々な脅しやハッタリを国際社会に発してはいるが、あくまでも外交を有利に進めるために行っているものであり、その程度の計算ができない中朝首脳部ではない。 

 だが、指導者は時に驚くような判断ミスを犯す。そこで、仮に北朝鮮のリーダーが判断ミスを犯し、朝鮮半島有事を自ら引き起こす最悪のケースについて考えてみたい。朝鮮半島での軍事衝突は、次のように起きるのではないか、との予測がよく語られる。最悪の場合は、核戦争に陥る可能性さえある危険な予測だ。 

 《202X年、北朝鮮軍の戦車が38度線を越えて、韓国に侵攻する。同時に、北朝鮮のミサイルがソウルに数百発も撃ち込まれ、沖縄などの在日米軍基地は、ミサイルの標的になる。米軍の反撃で敗北濃厚になった北朝鮮は、核兵器を使いソウルを壊滅させる。 

 あるいは、米軍と韓国軍の巡航ミサイルが平壌を攻撃し、金正恩総書記の住居と執務室に命中。米韓の海軍と空軍が、日本海側と黄海側から攻撃し、戦車部隊を上陸させる。追い詰められた北朝鮮が核ミサイルを韓国と米国、日本に撃つ》 

 以上の戦争展開が一般には想定されるが、この仕方では第二次朝鮮戦争は、起こせないだろう。南北を分ける軍事境界線は地雷の海で、簡単には越えられない。韓国軍の対戦車砲で、北朝鮮軍の戦車はほとんど破壊される。北朝鮮軍の戦車は旧式だ。 

 もう一つ、現代の戦争では国際法上の合法性が不可欠だ。国連憲章は、自衛の戦争か安全保障理事会が容認する戦争しか認めない。合法でない武力攻撃をした国は「侵略者」と非難され、相手国には反撃が認められる。ロシアのプーチン大統領が、ウクライナ戦争を「特別軍事行動」と呼んだのも、国際法上の「侵略者」だと非難されるのを避けるためだった。 

 こうしたことを踏まえた場合、どのような戦争が朝鮮半島では可能なのか。まず、相手に責任を押し付ける形式を取らなければならない。北朝鮮は、今なお朝鮮戦争は米国が始めたと主張しており、「朝鮮戦争は、米帝国主義との『民族解放戦争』だった」との立場だ。 

 歴史の真実を認めない。ビルマ(現ミャンマー)での全斗煥大統領の暗殺未遂事件や、マレーシアでの金正男氏暗殺も、あたかも韓国の組織が関与したかのように偽装した。 

 近未来で、最も可能性と現実性が高いのは、韓国の尹政権が支持を失い左翼勢力が盛り返した時だ。尹政権が倒れ再び左翼政権が誕生すると、在韓米軍撤退が実現し、韓国内は左右の対立が再び激化する。 

 韓国の左翼が復活すると、在韓米軍が撤退し、韓国内で労働組合や教職員組合などの北朝鮮支持の左翼勢力が政権打倒デモと反米デモを繰り返し、社会不安を起こす。北朝鮮がそれに乗じるというケースだ。 

 米国は、すでに戦時の作戦指揮権を将来的に韓国に返還する約束をしている。もし実現すれば、在韓米軍が撤退する可能性が高い。米軍は、他国の司令官の命令で動くわけにはいかないからだ。 

 このチャンスを狙って、北朝鮮は南朝鮮統一工作を活発化させる。具体的には左翼政権との統一交渉を開始するが、うまくいかないに違いない。韓国国内では保守派と左翼の対立が激しさを増し、軍部が二つに割れ、北朝鮮の軍事介入の可能性が高まる。北朝鮮は、韓国左翼を動かし「民族統一のための特別軍事行動」を要請させ、韓国に軍を動かす。 

 北朝鮮は、ロシアのプーチンがウクライナ戦争で使った「特別軍事行動」の言葉に、魅力を感じている。ロシアの「特別軍事行動」が成功すれば、自分たちも「統一のための特別軍事行動」「南朝鮮人民救済のための特別軍事行動」という名分で使えるのではないかと期待するから、ロシア支援を表明しウクライナと断交した。 

 「歴史は同じようには繰り返さない」というのが国際関係論の理論だが、朝鮮半島では違う。北朝鮮が「大韓民国」の存在を認めず、「南朝鮮革命」を掲げ「南北平和共存」に合意しないのが、朝鮮半島有事の原因だ。 

朝鮮半島有事、12のシナリオ 

 北朝鮮は南進する場合に「韓国軍の攻撃を受けた自衛戦争だ」という宣伝工作を必ずするだろう。その際、以下のようなシナリオが想定される。 

1. 韓国軍に偽装した北朝鮮部隊を38度線の南側に密かに潜入させ、北朝鮮を攻撃させたら、「南の軍が戦争を始めた」と宣言して北朝鮮軍が38度線を越える。「米帝国主義が朝鮮侵略に乗り出した」と非難する。 

 1968年1月に、朴正煕大統領を暗殺するために、韓国兵に偽装した特殊部隊が、密かに軍事境界線を越え、大統領官邸近くまで侵入し銃撃戦になったことがあった。その再現を狙う。   

2. 韓国に入り込んだ北朝鮮の工作員やスパイが、韓国人になりすまし韓国軍に入隊する。軍部隊の指揮官まで昇進したら、軍の中で北朝鮮に同調する兵士をリクルートする。その部隊が、北朝鮮への攻撃を偽装し、それを理由に北朝鮮軍が全面侵攻する。また、韓国軍幹部を寝返らせ、北朝鮮支持勢力を作り上げる作戦も展開する。 

3. 韓国で北朝鮮支持派にクーデターを起こさせ、鎮圧部隊と戦闘状態になれば、「南の人民の救助要請があった」として、軍部隊を投入する。この際には「戦争ではなく、内乱」と主張し、国連や米軍の介入を阻止する。   

4. 北朝鮮は2022年9月に、金正恩総書記への「斬首(暗殺)作戦」に対し、核爆弾で反撃するとの法律を採択した。金正恩への暗殺危機が高まると、米韓軍への攻撃や核兵器の使用が可能になる。 

 また、ウクライナ戦争でプーチンが小規模の戦術核を使用すれば、北朝鮮の使用も可能になると期待している。いきなり核戦争へエスカレーションすることもシミュレートしておく必要がある。 

5. ウクライナ戦争で敗北が明らかになったロシアが、米国に二正面作戦の負担を負わせるために、北朝鮮に軍事挑発を促す。北朝鮮軍が日本海で警戒する米海軍艦艇や空母を、領海侵犯を理由に攻撃する。 

 米韓軍は反撃し、戦争に突入する。その際に、防衛を理由に中国に台湾周辺での軍事行動を要請。ウクライナ、朝鮮半島、中台で軍事緊張が高まり、第三次世界大戦の危機に陥る。 

6. 北朝鮮の韓国攻撃では、まず大統領官邸と国防省をミサイル攻撃する。韓国軍基地と前線部隊にミサイルや多連装砲、大砲が打ち込まれる。韓国内に定住する北朝鮮のスパイ・工作員が、韓国軍の指揮命令系統を切断し、通信局やテレビ局を機能不全にする。 

 在韓米軍基地が攻撃されたことにより、米軍は自動的に参戦し反撃する。北朝鮮は、グアムの米軍基地に核ミサイルを発射する。北朝鮮が核兵器を使用すると、米国も北朝鮮を核攻撃する。  

7. 戦争になると、在日米軍基地が攻撃目標になる。沖縄の米軍基地は、北朝鮮反撃の拠点になるので、最初にミサイルが撃ち込まれる。日本に対する北朝鮮の攻撃目標は、第一に北朝鮮攻撃に加わる在日米軍基地、次に自衛隊基地、首相官邸、防衛省などだ。 

 軍事基地のない地方都市に北朝鮮のミサイルが飛んでくることはないが、自衛隊はこれにより朝鮮半島有事に介入せざるを得なくなる。 

8. 映画や小説のような話だが、金正恩打倒を考える軍人たちが、短距離ミサイルをわざと韓国に誤射するか、前線で銃撃戦を展開し、韓国の反撃を誘発する可能性もある。  

9. 金正恩は、韓国軍の攻撃よりも自国軍のクーデターと暗殺未遂事件を恐れている。それが実際に起きたら、韓国の犯行として、軍事行動の理由にするかもしれない。ちなみに偶発戦争を最も警戒するから、北朝鮮の軍司令官には核ミサイル発射権限を与えていない。指導者の軍部隊視察では、軍人の銃弾は全て回収され、砲弾も外されている。 

10. 北朝鮮が戦争決断に追い込まれるのは、韓国軍の装備が新鋭化し北朝鮮軍の通常兵器では対抗できない状態に近づいた時だ。北朝鮮陸軍の戦車や砲は、1970年代のソ連製の旧式武器が主力で、空軍の戦闘機も最新鋭のものはなく、海軍艦艇も戦闘能力は落ちる。 

 韓国と米国の潜水艦に対抗できる潜水艦は北朝鮮にはない。北朝鮮軍幹部は「まだ武器が使えるうちに、最後の戦いを」と、金正恩に迫る。 

11. 韓国軍が、勝手に北朝鮮を攻撃する可能性はないのか。米軍は、韓国軍部隊が勝手に北進する偶発戦争を、最も警戒している。そのため、韓国軍に対する戦時の作戦指揮権は米軍司令官が握っており、戦争が起きる可能性は、まずない。 

12. 北朝鮮は、これまで3度も韓国大統領の「暗殺」を企てた。大統領が死ねば、南の人民が立ち上がる、と誤解したからだ。北朝鮮は、朴正煕将軍や全斗煥将軍のクーデターや、朴正煕大統領暗殺事件、光州事件など、韓国の混乱に乗じた南進のチャンスを逃した、と反省している。韓国内で軍部隊の衝突が起きると、北朝鮮軍南進の可能性が高まる。 

 こうしたいくつかの事例を想定し、「その時、日本はどうすべきか」「何をすればエスカレーションを避けられるのか」を平時から考えておく必要があるだろう。

重村智計著『半島動乱 北朝鮮が仕掛ける12の有事シナリオ』(ビジネス社)
この記事の著者
重村智計

1945年生まれ。早稲田大学卒、シェル石油勤務を経て、年毎日新聞記者、ソウル特派員、ワシントン特派員、論説委員を歴任。この間、韓国高麗大学、米スタンフォード大学客員研究員。拓殖大学教授、早稲田大学教授を経て、現在早稲田大学名誉教授、東京通信大学名誉教授。韓国同徳女子大学客員教授、日本財団特別顧問、里見奨学会理事、毎日新聞客員編集委員、ニュース時事能力検定協会理事。朝鮮報道と研究の第一人者で、北朝鮮評価・韓国否定だった日本の朝鮮半島報道を変えた。1994年に「北朝鮮は戦争できない」との論文を発表し、衝撃を与えた。著書は『外交敗北』(講談社)、『日朝韓「虚言と幻想の帝国」の開放』(秀和システム)「絶望の文在寅、孤独の金正恩』(ワニブックス)など20冊を超える。

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