第二十五話「拭えぬ嫌疑」連載小説「奪われるースパイ天国・日本の敗戦ー」
スパイ防止法がないこの“天国”・日本で、知らない間に国が「奪われる」──。
表向きの歴史やニュースの裏側に潜む、冷酷な国際諜報戦と、個人の運命が国家間の巨大な陰謀に巻き込まれていく壮大な安全保障サスペンス小説、ここに爆誕。
舞台は、女性初の内閣総理大臣・高地きみえが熱狂的な支持を背景に「強い日本」を目指す日本。彼女は長年の懸案である日本人拉致被害者の奪還を決意し、極秘裏に北朝鮮の金正恩総書記との会談に臨む。しかし、その外交交渉の裏側では、すでに北朝鮮の体制に「影」が差し込み、巨大な隣国・中国の思惑が絡み合っていた。
第二十五話「拭えぬ嫌疑」
「私は日本の警察庁に就職することが決まっている者です」。今泉謙太郎はゆっくりと言葉を紡いだ。「まだ、どこの部署に所属するかはわかりませんが、中国からすれば『脅威』と映る可能性もあります」。李天佑の目は大きく見開き、「まさか」と一笑する。だが、謙太郎は「私は中国からすれば警戒される対象なのかもしれませんね」と迷わずに続けた。
「事実、お父様も私のことを疑ってきたはずです。その証拠に・・・」。謙太郎はポケットから財布を取り出し、カード型の発信装置を見せた。そして、「これはお父様が『買った』と聞いています。偶然ではありませんよね」と詰問調で迫った。
「おいおい、君は私がそのカードを財布に忍ばせてプレゼントさせたとでも言うのかね」。天佑の声は冷たく響いた。「誰が忍ばせたのかはわかりません。ただ、お父様が習近平国家主席の親戚であること、そして、怪しい男たちから尾行されていることは事実です」。謙太郎は“名探偵”になったかのように論理的に組み立てていった。「最初はお父様が娘の婚約者がどんな男なのかを調べるために忍ばせたのかと思いました。でも、麗穎が何者かによって『毒』を盛られ、あのような状態になった今、お父様だけを疑うことはできません。恐らくは、お父様も国家安全省に嫌疑をかけられている。私に中国の秘密を教えたからだと思います」。