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ずばり、練習着の「黒」が好き、三毒様が好き・・・私の思う羽生結弦の色「黒」

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日野百草 ファンしか知らない羽生結弦

目次

練習着の「黒」

 さて「黒い子」である。

 私の好む羽生結弦の「黒」はずばり、練習着の「黒」である。

 羽生結弦の原点の黒、羽生結弦の練習着にこそ「美」がある。

 もちろん、プログラムの「黒」にも「美」がある。

 アイスストーリーの「黒」もそうだ。やはり『鶏と蛇と豚』だと思う。

〈ゲームで「生きる」ことを選択したはずの羽生結弦という存在は、同時に闇も受け入れたというのか。白鳥のオデットに、黒鳥のオディールがいるように〉

〈プリマ・バレリーナは白鳥と黒鳥の両方を踊らなければならない。『白鳥の湖』は光と闇、その対照的な演技を技術的にも、精神的にも身に着けなければ踊れない。芸術であるからには、常にこうした光と闇という「普遍」を昇華した形容で表現しなければならない〉

〈誰しもにあるこの鶏と蛇と豚の三毒、しかし羽生結弦は本作の中で受け入れ、暗黒の衣装をまとい氷上を舞踏する。ありのままに、感じるままに、闇もまた自分と受け入れて、三毒の自分でも、それでも、生きる。文学的には「悪徳」とでも呼ぼうか。悪徳は美しい。不謹慎だが、美しいものは美しいのだ。オディールの漆黒がオデットの純白を覆い尽くしてしまうように、美しい〉

 当時、私はバレエ『白鳥の湖』になぞらえてこう書いたが「暗黒の衣装」と書いている。

暗黒の衣装

 当時、私はバレエ『白鳥の湖』になぞらえこう書いたが、黒について「暗黒の衣装」と書いている。

 暗黒は黒と違う。色か暗いから黒ではない。単なる色の話でなく、心や社会を指す暗黒となる。

 黒は難しい色だ。先の白と違い宗教上も解釈が変わるし、時代によっても変わる。

 キリスト教なら不吉とする時代もあったし宗教革命以降は高潔や禁欲の黒ともなった。権威の象徴としての黒もあれば罪人の黒もある。日本の僧侶は宗派や階級によって黒い法衣を着るが東南アジアなどの上座部仏教では橙色など釈迦の時代からの伝統法衣を守る。実際、日本でも真言宗などの密教系はチベット仏教や中国密教の伝統から色のある法衣である。黒ほど人や時代によって変わる色はないとも言える。

 山本耀司の「ヨウジヤマモト」や「Y’s」、川久保玲の「コムデギャルソン」などの黒は挑戦と反逆であった。神と死を扱う聖職者の黒、忌みとしての黒をファッションに取り込んだ。

 もちろん、それより先にココ・シャネルが黒で社会に挑んだことは有名だが、ヨウジヤマモトやコムデギャルソンは黒を社会に対するアンチテーゼとして使用した。ポストモダン運動の「脱構築」そのものであり、西洋の解体という東洋からの再生は世界に「黒の衝撃」と呼ばれるファッション革命をもたらした。それも単なる奇をてらった行為でなく、高度なパターンメイキングと確かなソーイングテクニックを以て。

 日本発のファッション革命、東洋から西洋への革新という意味では、まさに羽生結弦のアイスストーリーそのものである。

〈『鶏と蛇と豚』における指先を見ただろうか、禍々しくも美しく、細長い指先が、五指が割れる。そう、割れるのだ。まるで魔王の爪のごとく。鶏と蛇の魔王、バジリスクと見紛うがごとく〉

〈あの禍々しくも美しい「三毒」の指先にもまた、羽生結弦の稀代の、かつ恐ろしい表現力をみる〉

〈これらすべてを支えているのは羽生結弦の稀代のエッジとその確かさである〉

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この記事の著者
日野百草

1972年生まれ。日本ペンクラブ広報委員会委員。出版社勤務を経て国内外における社会問題、政治倫理を中心に執筆。大学院で芸術学を専攻、修士(芸術)、芸術修士(MFA)。文芸論、人物評伝および比較史におけるポップカルチャー、またフィギュアスケートなど舞踏芸術に関する論考も手掛ける。2018年、評論「『砲車』は戦争を賛美したか 長谷川素逝と戦争俳句」で日本詩歌句随筆評論協会賞奨励賞を受賞。著書『評伝 赤城さかえ 楸邨・波郷・兜太に愛された魂の俳人』他。

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