なぜ「世帯年収1000万円」の暮らしがしんどいのか……税理士が語る、世帯年収1000万円家庭の資産の増やし方

「世帯年収1000万円」。一つの“成功”とみられる目安だ。一方で税理士の森田貴子氏の元には、世帯年収が1000万円あっても「手元にお金が残らない」との声が頻繁に届くという。世帯年収1000万円家庭の資産の増やし方を、森田氏が解説する。全3回中の3回目。
※本稿は森田貴子著『資産増、年収増、余裕増 世帯年収1000万円超の人が知っておきたいお金のルール(あさ出版)』から抜粋、再構成したものです。
目次
世帯年収1000万円は時間もお金もカツカツ
物価は上がり、教育費や住宅ローンの負担は年々重くなる。どれだけ昇進しても、「これ以上、家計にゆとりが出る気がしない」、そんなふうに思って本書を手にした方もいるでしょう。
無理もありません。たとえ世帯年収が1000万円を超えていても、これからの時代、「働いて収入を増やす」だけでは限界があります。
だからこそ大切なのが、「お金にも働いてもらう」という視点です。つまり、資産運用や仕組みづくりによって、もう一人の働き手を家計に加える副収入をつくるのです。
最初は小さな額でも、積み重ねれば力になります。「老後に備えて投資を……」という方は多いですが、重要なのは、いまの時間の使い方や未来の自由度を変える収入源の種をまき、育てることです。
年収1000万円世帯は、時間もお金もカツカツになりやすいステージにいます。
だからこそ、仕組みで得る収入は将来の安心だけでなく、「働き方を選ぶ自由」や「教育・介護と仕事の両立」といった、日常の選択肢そのものを増やしてくれます。
「運用なんて自分にはまだ早い」「大金がないと意味がない」と感じている方もいるかもしれません。
でも、それは違います。億万長者といわれる人の資産も、すべては1円から始まったのです。
私のまわりにも毎月の生活費の中から1万円だけ積立投資に回すことから始め、豊かな生活を手に入れた人がたくさんいます。
「たった1万円で?」と思うかもしれませんが、たったそれだけで、始めたその時から未来の家計は少しずつ変わっていきます。
大切なのは、運用する金額の大きさではなく、「習慣化すること」と「時間を味方につけること」。この2つが、あなたの未来に複利という強力な味方を連れてきてくれるのです。
「資産運用が苦手」と思うのは脳のせい
資産運用のお話をすると、「自分にはムリ」とおっしゃる方が少なくありません。実は、私たちの脳は「資産運用が苦手」だと思うようにできています。
心理学や神経科学の研究では、人は短期的な損失に過敏に反応したり、感情に引きずられたりする傾向があることが明らかになっています。これがリスク許容度(自分がどこまで損失を受け入れられるかの度合い)に大きく関係します。
たとえば、行動経済学の第一人者リチャード・セイラーや、ノーベル賞を受賞したダニエル・カーネマンは、人間が直感(ファスト思考)に頼ってしまい、冷静な判断(スロー思考)を後回しにしがちであることを指摘しました。
その結果、資産運用に際し、次のような行動がよく見られます。
・少し下がっただけで解約してしまう
・一時的な上昇に乗り遅れまいと焦って買う
・「儲かりそう」と聞いてなんとなく投資を始める
これらはすべて、脳の本能的な判断に引っ張られた結果です。だからこそ、資産運用には感情に引きずられない「ルール」と「仕組み」が重要になります。リスク許容度にあまり左右されない、積立投資、長期保有、インデックス型の商品など、シンプルで手間のかからない方法から始めてみましょう。
「感情ではなく、仕組みで運用する」
それが、長く続けるためのコツです。私は次の理由からお金に余裕がある人が投資をすればよいと考えています。投資は資産を増やす手段ですが、不労所得ではありません。元本は保証されず毀損する恐れもあります。生活費や緊急資金が不十分な場合、投資のリスクが生活に直接影響を与える恐れがあります。
まずは経済的な安定を確保し、生活や予備資金を確保したうえで、投資を検討するのが理想的です。不労所得を目指しすぎると投資詐欺に遭う危険性もあります。
このことを踏まえたうえで、まずは年収1000万円超世帯ならではの資産運用のあり方を知っていきましょう。
「給与以外の収入源」をつくろう
年収1000万円世帯は、さまざまな負担が増えることもあり、給与だけでさらにお金を増やすのは難しい財政状態です。フロー所得(給与や事業所得等)にかかる総合課税の重い税金が理由の1つです。
日本は所得が高いほど税率が上がる累進課税で、フロー所得には最大で55%(所得税45%+住民税10%)の税率がかかります。一方で、投資による利益(ストック所得)には、一律20.315%の税率が適用されます(総合課税に対して分離課税といいます)。
投資への課税は、給与等、総合課税される所得とは別にされ、数百万円でも数億円でも同じ税率という点が、給与とは大きく異なります。たとえば、年間1000万円の売却益が出たとしても、それに対する税率は20.315%で固定です。同じ1000万円を給与で得た場合は43%(33%+10%)です。所得の大きさによっては半分近くが税金や社会保険料で引かれてしまうこともあります。
iDeCoやNISAのような制度も、投資の運用益に税金がかからず、手取りを増やせる「税率の低い収入源をつくる」仕組みなのです。
国税庁のデータでは、年収1億円を超えると、逆に税負担率が下がるという逆転現象が起きていることがわかっています。「1億円の壁」と呼ばれています。
これは、年収1000万円から1億円程度までは大部分が給与などの総合所得であるために高い税率が適用され、年収1億円を超える高所得者の多くは、給与などのフロー所得から投資などのストック所得に収入構造をシフトしているためです。
だからこそ、1000万円世帯も今のうちから次のような「給与以外の収入源」や「資産の持ち方」に目を向けておくことが、将来の家計安定につながります。
・1000万円世帯だからこそ、収入の分散と税率の仕組みを知っておく
・収入を「全部給与」で得ると税率が高くなる
・投資を通じて「ストック所得(金融所得のこと)」を持つと税率が低く抑えられる
・大きく稼ぐことも大事だが、「どう受け取るか(=所得区分)」も重要
・資産形成=収入と税率の構造設計である
収入をどう受け取るかで税率や控除の金額、確定申告が必要かどうかなどが変わってきます。給与として受け取る場合は「給与所得」となり、累進課税の対象になります。一方、退職金には勤続年数に応じて大きな控除があり、計算上の課税所得を2分の1に圧縮できます。
NISA口座内で得た株式の売却益や配当金には、原則として税金はかかりませんが、特定口座(源泉徴収あり)の取引は、20.315%の税率で源泉徴収されるため、通常は確定申告の必要はありません。
ただし、次のケースでは確定申告をしたほうが有利になる、または申告が必要になります。
・他の口座での譲渡損益と相殺(損益通算)したい場合
・ 上場株式等の譲渡損失を、翌年以降に繰り越して控除したい場合(3年間の繰越控除を使うには申告が必須)
損益通算をすることで、他の投資の利益と相殺して投資全体の利益を抑え、結果的に税負担を軽減できます。源泉徴収なしの特定口座を利用している場合は、確定申告が必要です。
これらの視点を持っておくだけで、働き方・お金の増やし方・守り方の戦略がまったく変わってきます。
