「最初の男が牡蠣の身をすべて奪い去る」市場の残酷な現実…鉄鋼王カーネギーが選んだ常識破りの一極集中。堅実な分散投資を置き去りにする「完全管理の覚悟」

投資の基本として広く知られる「分散投資」。しかし、かつて世界一の富豪へと上り詰めた鉄鋼王アンドリュー・カーネギーは、その常識を真っ向から否定した。元『プレジデント』編集長で作家の小倉健一氏が、カーネギーの遺した「すべての卵を一つのカゴに入れ、そのカゴを見張れ」という逆説的な格言の本質をひもとく。大衆が選ぶ安全策の限界と、リスクを自らの目で完全に管理しきることでしか到達できない、資本主義の裏側に潜む「勝負論」に迫る。
みんかぶプレミアム連載「一握りの大富豪だけが知っている世界の真実」
目次
鉄鋼王カーネギーが否定した「投資の常識」
お金についての教えで、よく耳にする言葉がある。「卵を一つのカゴに盛るな」というものだ。一つのカゴにすべての卵を入れておけば、そのカゴを落としたときに、すべてが一度に割れてしまう。だから卵は、いくつかのカゴに分けて入れておきなさい。投資をするなら、一つの会社や一つの商品にお金を集めるのではなく、いろいろなものに分けて持ちなさい。そうすれば、どれか一つが駄目になっても、すべてを失うことはない。これは多くの人が正しいと信じている、堅実で、賢い考え方である。
ところが、世界一の富豪となったアンドリュー・カーネギーは、この教えをはっきりと否定した。彼は自分の本の中で、こう書いている。
「富を築く方法は、すべての卵を一つのカゴに入れ、そしてそのカゴを見張ることである」
普通に聞けば、無謀な言葉に思える。すべてを一つに賭けるなど、危険きわまりない。一つのカゴが落ちれば、それで終わりではないか。誰もがそう感じるだろう。しかし、彼の人生をたどっていくと、この言葉が単なる強がりでも、思いつきでもなかったことがわかる。むしろ、これこそが彼を世界の頂点へと押し上げた、確かな信念だったのである。そして、その信念がどれほど確かなものだったかは、彼が死んでから百年以上たった今もなお、彼の名を冠した財団が、世界中に莫大な富を配り続けている、というひとつの事実が証明している。だが、その話は最終回に取っておこう。まずは、すべての始まりとなったこの言葉から見ていく。
普通の人なら満足していた「安全な暮らし」の先へ
カーネギーは、貧しい移民の子として生まれた。最初から大きな財産があったわけではない。家族とともに海を渡り、何もないところから働きはじめた人間である。彼が若い頃に手にした最初のお金は、鉄道や寝台車、石油といった、さまざまな事業への投資から生まれたものだった。この時期の彼は、まさに世間が言う通りのやり方をしていた。あちこちに目を配り、見込みのありそうなものに、少しずつお金を分けて入れていく。今日の鉄道、明日の油田、という具合に手を広げていったのだ。そうして彼は、まずまずの財産を手にした。
もし彼が普通の人であれば、ここで満足していたかもしれない。すでに、十分な暮らしができることは確かだった。あとは、分散させた財産を大事に守りながら、安全に生きていけばよい。危ない橋を渡る必要などない。それが、世間の言う賢い生き方であり、大衆の知恵というものだ。
だが、彼は違う道を選んだ。本当に大きな富を取りに行くと決めたとき、彼はそれまで持っていたほかの事業への投資を、ことごとく手放しはじめた。せっかく分けて持っていた卵を、自らの手で、一つまた一つと一つのカゴへ移していったのである。そして、自分のすべてを「鉄鋼」というただ一つの世界へ注ぎ込んだ。お金だけではない。彼の時間も、知恵も、情熱も、そのすべてを、一つのカゴの中へ入れた。