外国人不動産規制はなぜ進まないのか……不動産業界と政治の“本音”とは
外国人による不動産取得への不安が広がる一方で、規制強化に向けた政治の動きは鈍いままだ。外国人マネーに依存する不動産市場で、政治は本当に厳しい規制に踏み込めるのだろうか。不動産事業プロデューサーの牧野知弘氏が、不動産業界と政治の関係から、「外国人不動産」問題の核心を考える。全3回中の3回目。
※本書は牧野知弘著『「外国人不動産」問題』(祥伝社新書)から抜粋、再構成したものです。
目次
不動産はインバウンド需要に支えられている
マンション価格の高騰が続く昨今、不動産業界はわが世の春を謳歌していると思われています。確かに、大手不動産会社の決算は軒並み、史上最高益を更新し続けています。
三菱地所や三井不動産のような大手デベロッパーはマンション分譲のみならず、オフィスビル、商業施設、ホテル、物流施設など多用途の不動産を扱っていますが、コロナ禍の終息と共にリアル勤務に戻る企業が続出。東京都心のオフィスマーケットは急激に空室率が改善し、賃料の引き上げが実施されています。
また、富裕層を中心とした旺盛な消費を取り込む商業施設、インバウンド需要に支えられるホテル、EC取引の隆盛による物流施設の拡充など業界を取り巻く環境は一見するときわめて好調に見えます。
ただ、不安要素がないわけではありません。インフレの進行による金利上昇です。大手デベロッパーは2013年以降、「アベノミクス」と呼ばれた大規模金融緩和の恩恵を一身に享受した業種です。都市再開発の波に乗って開発を推進した結果、多数の超高層オフィスやタワマンが建設されてくるなか、投資額は膨らみ続け、大手デベロッパーの有利子負債は3兆円から4兆円を超える水準にまで膨らみ続けています。
日銀による政策金利の引き上げは短期金利の引き上げにつながりますし、長期国債をはじめとした長期金利はマーケットで決定されてくるため、長期金利の上昇と共にデベロッパーの財務を痛めつけます。最近の建設費の上昇は開発資金の上昇を招きますので有利子負債は増加の一途、早めの資金回収が必要となります。
加えて、住宅ローン金利の引き上げは、確実に一般実需でマンションを購入する人の財布の紐を縛りつけます。そもそも都区部の新築マンション平均価格は1億3613万円(2025年)となり、新築から逃げ出した需要が中古に殺到。中古マンションでも都区部の平均価格が1億円を優に上回る水準になっています。一般実需層のマーケットからの退場が明確になれば、彼らはいよいよ外国人や国内外の投資家の財布に頼らざるを得ないのが実情なのです。
デベロッパーは外国人を大歓迎
彼らにとって実はきわめてラッキーであったのは、コロナ禍以降も政府日銀が低金利政策を継続したことです。西欧諸国がコロナ禍における多額の支援金、補助金をマーケットにばらまいたために、招いたインフレに政策金利の引き上げで対応したのに対し、日銀はデフレの終息が見えないなどとして低金利政策を2024年7月まで頑なに継続しました。
その結果として激しい円安となり、外国人投資家から見て、日本の不動産は激安・大バーゲンセール状態になったのです。
また低金利政策は、日本人富裕層や個人投資家にとっても不動産投資の機会を豊富に提供することとなり、コロナ禍での支援金も含めた大量の投資マネーが不動産に集まり、不動産会社の業績を押し上げたのです。
インフレ社会の到来で、社会全体がインフレに対する耐性ができ、賃金が上昇し価格やローン金利の上昇に抗していくことができれば、この繁栄が継続しますが、日本経済の復活がならずにコストだけが上昇するスタグフレーションの状況になると、事態は暗転します。
不動産投資利回りは、不動産価格の上昇に賃料上昇が間に合わないとどんどん下がり、投資家の期待利回りを下回るようになると投資家の目線は厳しくなります。利上げによって諸外国との金利差が縮小して円高に向かうと、外国人投資家の投資意欲が弱まる可能性もあります。金利の上昇は嬉しくなく、為替は円安のままで継続することがデベロッパーにとっての願いなのです。
そして、理論価格を上回る状況になった日本の不動産を、為替やマーケットの自由さなどを理由に買い続けてくれる外国人投資家に退場してもらっては困るのが、不動産業界の本音なのです。
不動産業界は自民党に多額献金
先の衆議院議員選挙においては、外国人問題について各党がその対策を政策要綱に掲げ、早急な対策立案を唱えました。特に不動産にまつわる問題は、高騰する理由の一因として外国人の存在を声高に主張する政党が目立つなか、政府自民党は現状をよく把握して適切な対応を取るといった安全運転に終始した感があります。
背景にあるのは、不動産業界と自民党との蜜月関係と言われています。私も宅地建物取引業として免許をいただき活動をしていますが、業界の一員として全日本不動産政治連盟という団体に所属しています。
この団体は、1952(昭和27)年に設立された、日本でもっとも歴史のある不動産流通団体・公益社団法人全日本不動産協会の会員を母体として、不動産取引制度の確立と不動産業者の権益保護、地位向上を目的として1978年に設立されました。
この団体の関係者には政府自民党の議員が顔を連ねており、不動産にまつわる各種の要望を政府に働きかけています。
このほか、一般社団法人不動産協会など不動産に関係した団体の多くが、政府自民党と親密な関係にあります。業界の実情を訴え、各種要求を陳情という形で実施しているのです。
なお、不動産協会とは、住宅・ビル等の開発や運営管理、不動産仲介など不動産事業にかかわる企業によって構成される団体で、会員は大手不動産会社をはじめ163社(2025年5月現在)に上ります。
自民党にとってありがたいのは、政党への多額の献金です。自民党(国民政治協会)への献金額の多い業界団体ランキング(2024年)を見ると、不動産協会は4000万円で石油連盟(5000万円)に次ぐ7位です。
また会社四季報オンラインによれば、自民党への献金額が多い企業ランキング(2023年)では三井不動産が2000万円で19位になっています。
だから政治は動かない
三菱UFJ信託銀行が大手不動産会社を対象に行なった2024年度下期の販売実績に関するアンケート調査では、千代田区・渋谷区・港区の新築分譲マンションのうち、20%から40%が外国人に販売されているとの報道を見ても、現在のマンションマーケットが外国人に支えられている現状を業界も十分に自覚していることがうかがえます。
不動産業界は、住宅だけを扱うわけではありません。大規模金融緩和の恩恵を受けて業績拡大を続けてきたいっぽうで有利子負債が膨らみ、今後の金利上昇局面においては、資産売却によるバランスシートの縮小、有利子負債の減少も経営課題に挙がるなか、業界としても外国人投資家の存在は重要です。
外国の不動産投資ファンドなどが、都心でデベロッパーが開発したオフィスビルや商業施設売却の受け皿として機能することも必要となっています。あまり外国人に対して過度な規制を実施してもらいたくないのが本音でもあるのです。
また、税制改正においても、不動産に関係する規制については極力緩和の方向に調整するのも業界団体の役割であり、団体とつながる政治家の力に頼る構造は昔も今も変わらないものがあります。
こうした構造は、外国人に対する厳しい規制の実施を思いとどまらせ、現状維持路線からなるべく逸脱しない方向で政治を動かしていく力学が働くことになります。それでも、事態の深刻化に気づいた多くの国民の主張を入れて、問題の解決に向けてなかなか重たい腰を上げない国に代わって、地方自治体などが動き始めました。
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