国民の所得は輸出企業に移転している 高市政権「責任ある積極財政」の落とし穴
7月21日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2026 「責任ある積極財政」元年 ~日本の挑戦を起動する!~」(骨太方針2026)では、「プライマリーバランスの黒字化目標の撤廃」など、「責任ある積極財政」をスローガンに掲げてきた高市早苗首相らしさが随所に垣間見える内容だった。とはいえ、積極財政に舵を切ることは必ずしも国民生活の豊かさにつながるとは言い切れないのではないか。反緊縮財政の立場から積極財政の必要性を長年訴えてきた、『「上」vs.「下」の経済学』(地平社)の著者であり、立命館大学経済学部教授・松尾匡氏に、高市政権が推し進める積極財政の実情を聞いた。短期連載全4回の第3回。(聞き手・望月悠木)
手法は同じでも目指す先は正反対
――松尾さんも積極財政の必要性を長年訴えてきましたが、高市政権が進めている積極財政とは同じものと言えるのですか?
「投資のために赤字国債を発行する」という手法そのものは、確かに共通していると言えなくもありません。ただ、「何のためにお金を出すのか」「誰の懐が温まるのか」という中身がまったく異なります。
私が求めてきた積極財政は、雇用や地域経済、また医療や介護、教育などの福祉分野を支えるための支出です。そして、直接的には雇用を生み出し、まっとうな職とまっとうな生活を実現することを重視してきました。個人をはじめ、中小企業や個人事業者が所得を得て、地域でお金が回る仕組みを大切にしてきました。
一方、高市政権が重視しているのは、海外に進出した企業を守るための安全保障や、そのために国家が選んだ成長分野への投資です。これが成功すればますます、企業は賃金の安い海外への進出を続けることになり、国内の製造業は空洞化し、地域経済はやせ細っていきます。手法は似ていますが向かう先はまるで異なり、目指す方向性は正反対と言っていいでしょう。
このまま進めばどうなるか
――もし「骨太方針」の通りに政策が進んだ場合、具体的に暮らしはどうなっていくと予想していますか。
政権が「必要だ」と認定した分野の企業だけが国内に残り、それ以外の産業は衰退と海外への流出を続けるでしょう。
医療についても実質的には医療費削減の方向にあり、病院経営はさらに苦しくなります。介護や医療を必要とする高齢者が十分なサービスを受けられなくなり、その一方で「資力のある一部の人だけが手厚い医療を受けられる」という格差が広がっていく恐れがあります。
地域の商店街や個人事業者の場合、食料品に限定するのではなく、消費税それ自体が下がることで、庶民の可処分所得が増えて初めて息を吹き返します。しかし、高市政権が目指す方向では、海外の安価な製品の流入も進み、国内の地場産業はさらに縮小していく可能性が高い。安定した事業は難しくなるでしょう。しかも今後アメリカの圧力で日米金利差縮小の政策が進められたら、金利高と円高でこの傾向はますます進むでしょう。