PB黒字化撤廃は「良かった」でも安心できない 反緊縮派経済学者が読む骨太方針2026の本当の狙い
7月21日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2026 「責任ある積極財政」元年 ~日本の挑戦を起動する!~」(骨太方針2026)。「プライマリーバランス黒字化目標の撤廃」や「AIや半導体など17分野・62の重要製品・技術への370兆円超の投資構想」など、従来の「骨太方針」とは異なる大胆な切り口が記されていた。高市早苗首相は常々「責任ある積極財政」を掲げていたが、反緊縮財政の立場から積極財政の必要性を長年訴えてきた、『「上」vs.「下」の経済学』(地平社)の著者であり、立命館大学経済学部教授・松尾匡氏に、「骨太方針2026」をどう読み解くか聞いた。短期連載全4回の第1回。(聞き手・望月悠木)
プライマリーバランス目標は労働者を従順にするための策
――「骨太方針2026」でよかったと評価できる部分はどこにありますか。
プライマリーバランスの黒字化目標が撤廃されたことです。これまでの骨太方針でも長らく掲げられてきました。そもそも、意味のない目標だと思っています。まず知っておいてほしいのは、政府の赤字が増えても、それだけで国が財政破綻することはありません。政府の赤字というのは、政府が銀行を通じて世の中にお金を作って出している金額のことです。
例えば、政府が借金をして道路整備を行った場合、民間の整備会社にお金が入る。つまり、政府が赤字になった分だけ、そのお金は誰かの手元に渡っていき、人々を黒字にしているわけです。逆に政府が黒字化を目指すということは、政府が世の中からお金を吸い上げることを意味します。
――「政府の赤字は国民の黒字」という声は度々耳にしますね。
高度成長期には、企業が銀行からお金を借りて工場や設備に投資することで、世の中に出回るお金が作られて増えていました。しかし、消費人口も労働力も増えない時代には、その力は弱くなっています。誰かがお金を出さなければ世の中にお金は回っていかないため、今は政府がその役割を肩代わりせざるを得ません。
現在では、失業者を増やさず、まともな経済を保とうとすれば、政府が赤字になるのはむしろ当然のことです。言い換えれば、黒字化を目標に掲げ続ければ、世の中から年々お金を吸い上げ続けることになり、私たちの生活はいつまで経っても良くなりません。今回、この目標が撤廃されたことは良かったと思います。
――これまでなぜプライマリーバランスの黒字化が掲げられてきたのですか。
プライマリーバランスの黒字化を目指す理由として、世の中にお金を出しすぎて景気が過熱し、インフレがひどくなった状況に歯止めをかける役割が挙げられます。しかし、日本は長くデフレでした。つまり、「黒字化を目標にする局面ではなかった」と言えます。それではなぜ長く黒字化目標を掲げてきたのか。合理的に考えると「財界にとって都合が良かった」という面があると見ています。
――どういうことですか。
労働者がある程度失業状態にあるほうが、賃金を安く抑え、長時間労働にも従わせやすい。政府があまりお金を出さず、景気が過熱しすぎない状態に保つことは、「財界側にとってはむしろ望ましい環境」と見ることができます。
実際、1980年代のサッチャーやレーガンの新自由主義も、「緊縮財政と金融引き締めにより、あえて失業者を増やし、労働者を大人しくさせる」という戦略を取っていました。これまで黒字化目標を掲げてきた背景にも、同様の狙いがあったのではないでしょうか。