井上陽水カバーの真相から、150万円で取引された初期カセットの話まで——新作『Refractions』を発表した小山田圭吾が縦横無尽に語り尽くす(聞き手・吉田豪)
Corneliusが、2023年の前作『夢中夢 -Dream In Dream-』から約3年ぶり、通算8枚目となるオリジナルアルバム『Refractions』をリリースした。プロインタビュアー・吉田豪氏による小山田圭吾氏へのインタビューは、大きな反響を呼んだ『BUBKA』での対談以来2年ぶりとなる。単なる新譜プロモーションの枠組みを超え、カバー曲の選曲背景や川島バナナの編曲仕事、音楽表現をめぐる言説への違和感、さらにはインディー前夜の記憶まで、話題は縦横無尽に及んだ。約3年ぶりの新作発表をフックに、吉田氏が小山田氏の音楽的背景と作品の現在地に迫る。
井上陽水「夢寝見」カヴァーの選曲背景
小山田 (吉田豪に)ご無沙汰してます。
みんかぶ編集 『みんかぶマガジン』という媒体になります!
ーー“みんかぶ”って言われてもサッパリわからないですよね(笑)。基本的には株のニュースサイトなんですけど……。
みんかぶ編集 一応会員制メディアで、その中で豪さんにずっと連載をやっていただいて、単発のインタビューもやっているんですよ。これまで渡邊渚さん、ニューヨーク嶋佐さん、金原ひとみさんと続いて、小山田さんで4人目になります。
ーーボクが小山田さんを取材するのは『BUBKA』以来2年ぶりなんですが、そのインタビューはすごい好評でした。
小山田 あ、そうだったんですね。
ーー小山田さんが新譜の宣伝とか関係なく、こんなにリラックスして音楽の話をしているのは珍しいってことで。『BUBKA』のミュージシャン連載でトップクラスで好評だったのは小山田さんと甲本ヒロトさんで、どっちも有名になる前の話ばかりしてたんですよ。ヒロトさんの場合は「あのねのね」の弟子だった時代の話とか。
小山田 ああ、それ見ました。
ーーボクは周辺取材もしていたので、あのねのねの清水國明さんはグループサウンズのアイドルみたいな感じで当時デビューさせようとしてたって伝えたら、ヒロトさんも知らなかったみたいで驚いてましたね。今日はどれぐらい新譜のパブリシティにもどういう話になるかわからないですが、まずはちゃんとアルバムの話をすると、先行リリースされたのが井上陽水さんのカヴァー(90年リリースの13枚目のアルバム『ハンサムボーイ』収録の『夢寝見』。ちなみに、このアルバムには『少年時代』が収録されている)だったことに驚いたんですよ。
小山田 ああ、そうですか。
ーーコロナの頃、サブスクで初めて聴いたって言ってましたよね。 それまでは井上陽水さんに思い入れもなく?
小山田 いやまあ、うっすらは知ってたけど、でもそんなに深く追ったことはなくて、『氷の世界』(73年)とかは大人になって聴いたりしてました。
ーー名盤と呼ばれるものを聴いてみる流れで。
小山田 そうそう。でも、まあ僕の子供の頃は、そんなに陽水さんをテレビとかでは見なかったじゃないですか。「夢の中へ」とかは知ってたし、でも、「夢寝見」って曲はなんか記憶に残ってて。90年ぐらいに、あの日産セフィーロってCMに陽水さんが出てたじゃないですか。「お元気ですか?」の。あれでかかってたんですよね。
ーー今回のアルバムのパブリシティ記事で小山田さんがその話をしていたので、ちゃんと調べました! 正確には「お元気ですか?」の時はこの曲じゃないですよね。
小山田 そうなんだ! そうかそうか。何種類かCMありましたね。曲も毎回違って。
ーー流れで言うと、セフィーロが発売する前から、和田勉さんとか中沢新一さんとか斉藤由貴さんとか、いろんな人たちが「なぜ日本の車はみんな同じなんですか?」「優等生の車ばかりじゃツマラナイと思います」とか挑発するCMをまずやってたんですよね。車の映像も何も出さずに。
小山田 ちゃんと調べてる(笑)。
ーーで、糸井重里さんが考えた「くうねるあそぶ。」っていうキャッチフレーズを陽水さんが紹介するCMがきて、そして陽水さんの「今夜、私に」(88年)っていう曲を使った、陽水さんが車の窓を開けながら「皆さんお元気ですか。失礼します」って語りかけるCMになるんです。
小山田 「皆さん」もつくんだ。僕も、わりと最近YouTubeで調べて見たような気がする。
ーー全部YouTubeで見られると思います。で、この「皆さんお元気ですか」って発言が自粛になるという伝説の展開になるんですね。
小山田 あっそうだ! 昭和天皇の崩御のタイミングで。
ーーそうです。いろんなものが自粛になる流れで、「全然元気じゃないから不謹慎だ!」ってことで、陽水さんが窓を開けて笑顔でただ口をパクパクをする、すごく怖いCMになったんですよ。88年が「皆さんお元気ですか」、89年頭に昭和が終わって、その後に「夢寝見」を使ったCMになるって流れです。
小山田 なるほど。それでなんとなくこの曲が頭には残ってて。サブスクとかで結構、過去のカタログさかのぼれるようになったじゃないですか。コロナ前ぐらいに、この「夢寝見」が入っている『ハンサムボーイ』っていうアルバムの1曲目に入っている「Pi Po Pa」って曲があるんですよ。
川島バナナの緻密な編曲仕事に感銘 前作『夢中夢』への影響
ーー小山田さんがその曲に引っかかるのは分かるんです。 だって細野晴臣さんと陽水さんの共作で矢野顕子さんも参加しているし、19年の『井上陽水トリビュート』では細野さんがセルフ・カバーもしてますからね。
小山田 あっ、そうなんだ。聴いてみよう。
ーーだから、そっちをカバーするのかと思ったら「夢寝見」なんだっていう。
小山田 いや、それで「Pi Po Pa」に最初はまって、それで『ハンサムボーイ』を聴いてたら「夢寝見」が出てきて。で、そういえばなんかこれ聴いたことあるなと思ったら、すごい曲で。ひたすら最初から最後まで「夢寝見」ってずっと言い続けて、ミニマルでワンコードでめちゃくちゃ催眠的なんですよね。調べたら、あの川島バナナさんが編曲で。
ーーEP-4の。
小山田 そう。バナナさんがこの時代、陽水さんバンドのキーボードで、アレンジャーでもあって、やっぱりその仕事がすごい良くて。
ーーYMOのプログラマーだった藤井丈史さんも関わってるんですよね。そのせいか不思議な音になってて。
小山田 うんうん。それでハマってた時期があって。 で、僕の前のアルバムが『夢中夢 -Dream In Dreamー』(23年発売)っていうんですけど、世界観がすごい近くて。実際、作ってる頃に割とよく聴いてたんで、カバーしてみたいなと思って、今回やってみたっていう感じですね。
ーーただ、この曲が使われた時期のセフィーロのCMは、世間の印象にあまり残っていないんですよね。 キャッチフレーズが「今日はもうおしまい」「一方その頃、井上は」とか記憶にないものばかりで、その後がまたセリフに戻って「もうご承知かと思ってるんですが。また来ます」になります。
小山田 え、なんか混同してるかもしれない。でも、子供の頃聴いてた沢田研二さんの「背中まで45分」(82年)という曲があるんですけど、それもなんか妙に残ってて、それもやっぱり陽水さんで、ちょっと近い世界観というか。 なんかそういうのとかも思い出して。なんか一時期、陽水さんをサブスクでいろいろ聴いてた時期があって、改めていいなと思って。
ーーなんか醒めた曲ばかりなんですよね。ちなみに今回、「小山田圭吾 井上陽水」で検索したら、AIが謎の答えを出してきたんですよ。「小山田圭吾はこれまでも井上陽水の『いっそセレナーデ』など、日本の名曲をカバーする企画に参加したことがあります。彼が所属したバンド『フリッパーズ・ギター』の時代から、陽水のような日本のアーティストの楽曲センスを高く評価してきました」って…そうだったかなっていう(笑)。
小山田 それいつのAIですか(笑)?今でもそんなこと言ってるの? 最近、あんまそういうめちゃくちゃなことを言わなくなってきたのに。
ーー検索の上に出てきたんですけど、課金しないとちゃんとした答えが出ないんでしょうね。
小山田 そうか、そうか、なるほどね。
ーーフリッパーズ時代、陽水さんを評価した記憶がなくて。だから意外ではあったんですけど、25年にラジオ(α-STATION『FLAG RADIO Cornelius』)でもオンエアしてたんですよね。SUBWAY SECTなんかと並べて。
小山田 関係ないけどね(笑)。
ーーだから何がきっかけだったのかな、とも思ってたんですよ。それこそジェーン・バーキンや田島貴男さんとかも、さっきの『井上陽水トリビュート』に入ってたりしたので。
小山田 ああ、そうだね。まあ、その「Pi Po Pa」とかも、サブスクのアルゴリズムの中でバレアリック系のプレイリストとか海外のDJと並んで入ったりとかしてて、そこから多分また僕のプレイリストにも流れてきたっていうか。シティポップとかともまたちょっと違う流れで、もっと違う文脈で、海外でもDJの人が見つけたりとかしてることもきっとあるんじゃないですかね。