「渋谷系って、結局レコ屋の売り場の話じゃないですか」広末ポケベルCM譲渡の裏側、タブレット純への関心…小山田圭吾の“90年代と現在”
Cornelius通算8枚目のオリジナルアルバム『Refractions』のリリースを機に行われた、吉田豪氏によるインタビューの後編では、表現者としてのスタンスやキャリア観、さらにはサブカルチャーの深層にまで話題が及ぶ。広末涼子のドコモポケベルCM案件をカジヒデキ氏に譲った真相、「ヒット」することに対する距離感、90年代の過密プロモーションへの違和感、そして加齢を見据えたうえでの作品づくりなどなど……多岐にわたって話題が及んだ。さらに、父・三原さと志氏が所属したマヒナスターズの後釜であるタブレット純氏への関心まで、フラットに対話が展開していく。
「ピンとこなかった」広末涼子ポケベルCMの案件をカジヒデキに譲った真相
ーー『BUBKA』のカジヒデキさんの回は見ました?
小山田 カジくんのは見たかも。
ーーあれで小山田さんを改めてすごいなと思ったのが、カジくんが世間に名前を知られるきっかけになった広末涼子のドコモのポケベルのCMの話が、小山田さんがカジ君に振ったものだったってことですよ。
小山田 そうだっけ? あんまり覚えてないけど、広末さんのやつですよね。カジ君がやってたのは、もちろん覚えている。カジくん、あれでドカンときたんだよね。
ーーソロデビューでいきなりスタートダッシュができたけど、どう考えてもそんな明らかにでかい案件を、普通に友人に振っちゃうんだなって。
小山田 いや、なんか多分「ネオアコっぽいのを」みたいな依頼だったんですよ。で、僕はもうそういうモードじゃなくなっている時期で、それでたぶんレーベルで一緒だったから、カジくんがまさにそういうのやってたじゃんってことで。
ーーそれで、ちょっと心揺らいだりしなかったんですか? ドコモのポケベルは確実に巨大な案件なんだし、仕事としてそれっぽい曲を作るのは簡単だったと思うんですよ。
小山田 いや、あんまりそういうことがわかってなかった(笑)。ポケベルとか、ちょっとリアリティがなかったんじゃないかな。「ピンとこなかった」っていうのが正解かもしれない。
ーーすごく小山田さんらしいと思います。あと、最近の小山田さんの作品を聴いていて思うのが、本当にすごいことをやっているなとは思いつつも、小山田さんの中で売れたいって思いはどれぐらいあるんだろうって気になるんですよ。でも、なさそうなんですよね。
小山田 あ、すごく売れたくはないです。でも、活動できるぐらいは売れたいですね。
ーーわかりやすいポップスを作って、ちゃんとヒットを出したいみたいな思いがどれぐらいあるのか単純に興味があります。
小山田 ヒットっていうことではわかんないですけど、まあ、みんな関わってくれている人の商売がちゃんと成立するぐらいは売れてもらえないと、次にはつながらないんで。ただ、なんかメガヒットとか、そういうのは別に何も。
ーーアルバムが売れるのはたぶん望んでるけど、シングルヒットでドカンみたいなものは考えてない。
小山田 日本でいうシングルヒットみたいなのは、わかんないけど、でもまあ、いろんな国で満遍なく、熱心な音楽好きの人が聴いてくれて、その数が増えるみたいなのは理想的ですよね。
「自分的にはどポップ」新作『Refractions』の立ち位置
ーーもともとそんな感じだったんですか? たぶんレコード会社的には、それこそフリッパーズ・ギターとかはシングルも多分当てたいみたいな思いがあっただろうし。
小山田 まあ、本当20代の頃とかはわりとそういうサイクルに乗ってやってたけど、30代以降は、もうちょっと自分のやりたい感じでできるようにっていう。
ーー完全にそうなっているようには見えてますけど、『Star Fruits Surf Rider』(97年)ぐらいまでが一応そういうモード?
小山田 そうですね。まあアルバム『FANTASMA』(97年)ぐらいまでですかね。
ーー実験的だけどポップスの匂いがちゃんとあった時期。その後は、意識的にモードが変わっていったんですかね。
小山田 意識的にというか、それ以前はあんまり意識がなかった分、そういう感じになってたっていうか。まあ、当時は割とこうやれって言われたことをやっていたという。
ーーああ、それまでは。
小山田 とりあえずこういう取材とかでも、とにかくスケジュールを埋められて、何時にここで、みたいな感じで言われた通りに行ってたけど、まあ、30代以降はやれるものとやれないものを考えて。
ーー話がわかってくれそうな人の取材ぐらいでいいかな、と。1から説明しなきゃいけない取材を繰り返すのは、さすがに心が折れそうですからね。
小山田 やっぱり90年代ってそういう仕事が多かったじゃないですか。 テレビの音楽番組だとか雑誌もたくさんあったし。20代の最初の頃とかは、地方に行ってレコード屋さんとか放送局を回ってとか、 アルバムごとにやってた。でも、だんだんね……。最初は面白いし、それをちゃんとやった人もいるんでしょうけど、まあ、向いてないですよね。
ーー当時、インタビューでふざけたことばかり言ってた理由もなんとなくわかりますよ。最初から話が通じないというか、ギターポップとかネオアコとかUKインディーみたいなバックボーンを知らない人の取材を繰り返していたら、そうなるかもなって。
小山田 まあね。20代の頃とかは、やっぱりそんな感じでしたね。
ーーそれが、本当にやりたい音楽とやりたい仕事を選んでできる環境になったという。
小山田 徐々にね。
ーー個人的には、どポップなこともたまにはやってほしいという思いはあります。
小山田 今回とか結構やってるつもりではあるんですけど…これ(『Refractions』)はそうではないですか(笑)?
ーーここ何年かでいえばかなり開けたアルバムだったし、今回もすごいことをやってるとは思います。でも、どポップかというと……。
小山田 そうか、どポップのつもりでやってるんですけど違うんですね(笑)。
ーー『FANTASMA』はポップと実験性のバランスがすごく絶妙にできていたと思います。
小山田 ちょっと自分ではわからなくなっているかもしれないですね。割と、今回はすごくどポップだなって自分的には思ってたんですけど。ビートがわかりやすいとか、歌っている曲も多いので、そういうつもりだったんですけど、今回は。