「大阪IRで日本全体が豊かになる」という幻想 1.14兆円の経済効果に潜む「国内消費の奪い合い」
シンガポールのマリーナベイサンズを凌ぐ約2万3000㎡のカジノ面積に、6400台の電子ゲーム機を並べる大阪IR(夢洲)の事業計画。年間5200億円、うちカジノで4200億円の売上を見込む計画は、客入りに関わらず発生し続ける巨額の固定費と返済負担を意味する。元プレジデント編集長で作家の小倉健一氏が、「カジノは床面積の3%」という広報の罠を暴き、海外からの新規集客が伴わなければ成立しないハイリスクな構造を解説する。
みんかぶプレミアム連載「小倉健一の新保守宣言」
「1億円をゼロにした芸人」に憧れる客 喫煙室で聞こえた理解不能なギャンブル論
10月3日、韓国のカジノへ行ってきた。私は昔からギャンブルが苦手で、いまひとつ楽しさが分からない。唯一ルールを知っているルーレットで遊ぶと、なぜか次々に当たり、手元の金が最初に出した額の6倍になったところで、飽きてやめた。冷やかしに来たつもりではないのだが、本当にごめん、と思った。
喫煙室では、隣にいた日本人がある芸人の名を挙げ、「1000万円放り込んで、1億円にして、そのあとゼロにした。すげえと思った。(だから?)俺は今日30万円はいく…」と話していた。ロジックについていけないと思った。
フロアにいた人の多くは、日本のパチンコ店や競馬場で見かけそうな男性たちだ。経営者風の客も混じる。大富豪の社交場という私の想像より、ずっと身近な光景だった。大阪では、このカジノが地域を豊かにする事業として期待されている。客が賭ける金の大きさにつられ、事業の採算まで楽観するのは危険だ。
韓国・仁川の「インスパイア」は、開業して間もなく開発会社が経営権を失った。2024年に外国人専用カジノが開業し、2025年2月には融資元の米ベインキャピタルが経営権を握った。開発した米モヒガンは、借入契約で求められた財務上の条件を満たせなかったと発表している。元本や利息の支払いは続けていたという。融資には返済日以外にも守るべき条件があり、その違反が経営権を失う事態につながった。施設が営業を続ける横で、巨額を投じた会社が退く。客がカジノで遊んでいることは、出資者が報われた証拠にはならない。
カジノだけで年間4200億円を稼ぐ計算 大阪IRが背負う巨大な維持コスト
大阪の夢洲で2030年秋ごろの開業を目指すIRは、カジノにホテルや国際会議場などを組み合わせた統合型リゾートだ。府市の計画では年間売上が約5200億円、そのうち約4200億円をカジノで稼ぐ。収入の約8割を支える主力事業は賭博である。需要を確かめながら小さく始める商売ではなく、最初から巨大な施設を動かし、それを支えるだけの客と売上を取りにいく。
建築計画を報じたカジノ業界メディア「Yogonet(ヨゴネット)」によると、大阪のカジノは約2万3293㎡。テーブルゲーム約470台、電子ゲーム機約6400台を設ける計画だ。比較相手となるシンガポールのマリーナベイサンズは、屋上プールで知られる高層ホテルに、カジノや国際会議場、商業施設を備えた大型IRである。運営会社ラスベガス・サンズの2025年末時点の資料では、ゲーム区域は約1万4586㎡、テーブル約568台、電子ゲーム機約3000台。大阪の計画は、この時点のマリーナベイサンズに対して面積で約1.6倍、電子ゲーム機で約2.1倍になる。テーブル数は大阪の方が少ない。「カジノはIR全体の床面積の3%以内」という説明から、小さな付属施設を思い浮かべると規模を見誤る。大阪が始めるのは、これほどの設備を抱えて、長く客を呼び続ける商売だ。