高田延彦はなぜプロレス〜格闘技界で正当に評価されないのか 「グレーな試合」の全責任を背負わされた“大人”の真価
プロレスから総合格闘技への過渡期、巨大な興行の神輿に担がれ続けた高田延彦氏。PRIDEの礎を築いた最大の功労者でありながら、プロレスファンからは「幻想を壊した」と叩かれ、格闘技界からは初期の「グレーな試合」を理由に敬遠されるなど、不当にリスペクトされないポジションに置かれ続けている。自身も過去に帝国ホテルで高田側に詰め寄られ、『紙のプロレス』離脱を余儀なくされたプロインタビュアーの吉田豪氏が、時代の渦に翻弄され続けた「不遇のエース」の真価と人間的魅力について語り尽くす。
みんかぶプレミアム連載「吉田豪の月イチ気になる話。」
「グレーな試合」の責任を一人で背負わされたエースーー 高田延彦が正当に評価されない理由
今月の連載、なにか深い話ができそうなテーマはないかなと考えていたんですよ。そしたらちょうどこの取材の前日、ボクがやっているshowroomの番組『豪の部屋』にゲストで来てくれた佐藤ルミナさんとの対談で名前が出たこともあって、高田延彦について深く掘り下げてみるのはどうかなと。
ボク自身、高田さんとは過去にいろいろあった身ではあるんですけど、最近の高田さんに対する世間やプロレス・格闘技界の評価が、ちょっとアンフェアというか、あまりにも正当に評価されていないんじゃないかって思うことがすごくあるんです。
プロレスファンやプロレスマスコミからは、『ハッスル』のようなエンタメに振り切ったプロレスをやったことや、金子達仁さんが書いた高田本『泣き虫』でプロレスの仕組みを暴露したことで「プロレスの幻想を壊した裏切り者」って扱いなんですよね。その一方で、UWF関連の検証本などでは「シュートファイトに挑んだ男」と持ち上げられはするものの、UWFの仲間たちからは明らかに一人だけ浮き上がっているし、総合格闘技界からはPRIDE初期の“グレーな試合”を理由に正当な評価を受けていない。どこからも正当にリスペクトされない、あまりにも不遇なポジションに置かれているんですよね。
そもそも、PRIDEでの“グレーな試合”って高田さんが望んでやったことなのか?という話なんですよ。当事者ではあるけれど、あれは明らかに新興組織であるPRIDE側が「プロレス界のスター・高田延彦」を必要とし、エースとして大会を引っ張ってもらうために用意したものだったはずなんです。エースとしてメインイベントに立つ以上、それなりの勝率や「強い高田延彦」を見せる必要があった。それは完全に興行を仕掛ける側の都合であって、高田サイドが「俺を勝たせるために弱い奴を連れてこい」なんて要求したわけがないんですよね。興行サイドが提案して、高田サイドがプロとしてその役割を引き受けた。そういう構図だったと思うんです。
それなのに、なぜか高田さん個人だけが今も糾弾され続けている。PRIDEという巨大な総合格闘技が誕生するきっかけを作り、現在のRIZINも含めたMMAの礎を築いた最大の功労者なのに、感謝されるどころか叩かれ続けているという。こんなに浮かばれない話はないですよ。
競技未経験ゆえの「強さへの渇望」と、UWFの「大人」の役回り
そもそも、高田さんのプロレスラーとしての根底にあるのは「バックボーンがないことへの渇望」なんですよね。アマチュアレスリングや柔道といった格闘技の実績を持ってプロレスの世界に入ってきた人たち――長州力さんや坂口征二さん、ジャンボ鶴田さんみたいなタイプは、競技をやりきってきたからこそプロレスを「食べていくためのビジネス」として割り切って捉える傾向が強い。長州さんがフロリダでカール・ゴッチとのスパーリングをボイコットした有名な逸話がありますけど、長州さんからすれば「俺はプロレスの表現や見せ方を学びに来たのに、なんでまた道場で強さの追求をさせられるんだ」という理屈になる。それはごく自然な感情なんですけど、そういう長州さんや坂口さんは「スパーリングをしない=プロレスラー失格」みたいに言われることも多かった。
一方で、バックボーンが野球だった高田さんや、空手だけど大会に出たりはしなかった前田日明さん、自己流のトレーニングとボディビルジム通い程度だった藤原喜明組長のような「本格的な競技経験がない側」の人ほど、「舐められたくない」「そのためには本当に強くなければいけない」との思いから道場で地道に強さを追及していくことになる。本物の格闘技術を道場でストイックに磨いていくわけです。
そんな環境下で強さを追求した高田さんは、圧倒的なルックスとプロレスセンスも持ち合わせていながらも、常に「団体や業界の都合」に翻弄され、大人としての損な役回りを引き受け続けてきました。新日本プロレスでは次期エースを期待されていたのに第1次UWFに移籍して、すぐ崩壊。ルックスの良さから全日本プロレス移籍の話もあったのに、新日本プロレスに戻ります。そうすると今度は前田日明さんが長州さんの顔面を蹴って大問題になるんですが、そこでも高田さんは自らやられ役を買って出て、なんとか荒れた試合を平和に着地させて、観客からは「高田、お前は大人だ!」とヤジを飛ばされる。常にそういうポジションだったんです。
第2次UWFの崩壊劇にしてもそうです。前田さんは今でも「高田に裏切られた」「あいつら(UWFインターナショナル勢)は計画的に独立した」と言い続けていますけど、事実は全く違う。当時、船木誠勝や鈴木みのるがリング内よりも道場で暴走し、上の人間との溝が深まる中で団体が崩壊。前田日明に服従しなかった宮戸優光&安生洋二が船木さんを担いで新団体を作ろうと画策した。ところがメガネスーパーをバックにつけて資金的に安定している藤原組長側に船木&鈴木が行ってしまい、宮戸&安生がやむなく担いだのが高田さんだった。この板挟みになって右往左往していた山崎一夫はUインターへの合流が遅れて、団体内のポジションもなくなってしまった、と。つまり高田さんは完全に巻き込まれただけで、計画的独立なんて一切やっていないんですよ。