「まだ立派に動く機械」をためらいなく叩き壊す常識破りの投資判断…鉄鋼王カーネギーが実践した、目先の節約を全否定する「超合理的コスト論」

差別化の難しい鉄鋼ビジネスにおいて、カーネギーが選択した戦略は徹底したコスト削減であった。原料採掘から運搬までを一手に握る「垂直統合」、そして最新設備への即時刷新と24時間稼働を強いる「ハード・ドライビング」である。元『プレジデント』編集長で作家の小倉健一氏が、大富豪の実践した冷徹なロジックを解説する。劇的な生産性を生み出し国家のインフラを塗り替えた功績と、そのシステムを維持するために現場の人間を限界まで駆動させた、資本主義の「光と影」を検証する。
みんかぶプレミアム連載「一握りの大富豪だけが知っている世界の真実」
目次
「いかに安く、いかに大量に作るか」という単純かつ絶対的な真理
高炉は、一度火を入れたら、もう簡単には止まらない。中で溶けた鉄は、火を消せば固まる。固まれば、炉そのものが死ぬ。だから鉄をつくる現場では、誰も炉を止めない。昼も夜もない。火は、燃え続ける。人が眠っているあいだも、その火だけは、赤々と燃えている。
アンドリュー・カーネギーは、この火の世界を選んだ。前回見たとおり、彼は持てるすべてを「鉄鋼」というただ一つのカゴに放り込んだ。問題は、その先だ。カゴの中で、この男が何をやったのか。ただ大金を注ぎ込むだけなら、誰にでもできる。だが、彼はそこで、ほかの誰にもできないことをやってのけた。今回は、そこを見ていく。
彼が見抜いた真理は、単純だった。「いかに安く、いかに大量に鉄をつくるか」。それだけだ。難しい理屈は、何もない。
鉄は、どこの会社がつくっても、できあがれば同じ鉄になる。見た目で差はつかない。手に取っても、どこの工場のものか分かりはしない。ならば客は、安いほうから買う。当たり前の話だ。理屈はそれで終わりである。誰よりも安くつくれる者が、すべてを取る。誰よりも高くつくる者は、ゆっくりと市場から消えていく。彼の頭には、その一点しかなかった。安くしろ。とにかく、安くしろ。それが、すべての始まりであり、終わりだった。
間に立つ者をすべて消し去る「サプライチェーンの完全内製化」
では、どうやって安くするか。カーネギーの答えは、二つあった。
一つめ。すべてを、自分の手でハンドルする。
鉄をつくるには、まず鉱石がいる。それを掘る。運ぶ。溶かす。加工する。そうして、ようやく一本の鉄になる。普通の会社なら、このうちのいくつかは、よそに頼んでいた。鉱石はどこかの鉱山から買い、運搬は別の会社に任せる。一つの工程ごとに、別の会社が関わる。そして、そのたびに、相手は黙ってもうけを抜いていく。当然のことだ。誰だって、ただ働きはしない。
だが、カーネギーには、それが許せなかった。掘る会社にも、運ぶ会社にも、自分の金が少しずつ流れ出ていく。一つひとつは小さな額でも、それが積もれば大きな穴になる。流れ出た分だけ、自分の鉄は高くなる。ほかが抜いたもうけは、そっくりそのまま、自分の鉄の値段に乗ってくるのだ。ならば、答えは一つしかない。流れ出る穴を、ひとつ残らずふさげばいい。
彼は、鉱石を掘る山そのものを買った。それを運ぶ船を買い、鉄道を買った。原料を掘り出すところから、最後に鉄になるところまで、その長い流れのすべてを、自分一人の手の中に収めていったのである。途中で誰かに抜かれる金は、もうない。よそが払っていたもうけが、まるごと消える。鉱山の取り分も、運送屋の取り分も、すべて自分のものになる。だから彼の鉄は、誰よりも安かった。ほかの会社が、いくつもの相手に金を払っているあいだ、彼は誰にも払わずに済んだのだ。この、流れのすべてを自分のものにするやり方を、垂直統合と呼ぶ。言葉は難しいが、やっていることは単純である。間に立つ者を、すべて消す。それだけだ。