親孝行が「老後破綻」を招く?相続のプロが語る、介護費用580万円の現実と家族を守る鉄則
2024年末に急逝した俳優・中山美穂さんの遺産をめぐり、約20億円にのぼる不動産の相続問題が報じられた。「相続トラブルは富裕層だけの話」と思っている人は多いが、現場のプロたちが口を揃えて指摘するのは、むしろ「財産が少ない家庭ほど揉める」という逆説的な現実だ。
今回話を聞いたのは、ファイナンシャルプランナー(CFP)かつ社会保険労務士として30年以上のキャリアを持つ井戸美枝氏。これまで多くの相続案件に向き合ってきた井戸氏が一貫して強調するのは、「相続トラブルの本質は財産の多寡ではなく、準備の有無にある」という点だ。子が直面する介護費用のシビアな現実、きょうだい間に生まれる感情の不条理——。いずれも、数字と感情の両面から早めに備えていれば防げた悲劇だと井戸氏は言う。準備なき介護と相続がいかに家族の絆を壊していくかを紐解いていく。全5回の第2回。
みんかぶプレミアム連載「取り返しのつかない相続」
目次
「総額580万円」多くの家族が直面する介護費用の現実
前回、相続トラブルを防ぐ唯一の手段は「親が元気なうちの準備」であるとお伝えしました。では、具体的に何を想定して準備を始めればいいのか。まず直面するのが、避けては通れない「親の介護とお金」のリアルな数字です。
統計上の平均を見ると、介護に要する費用の総額は、平均で約580万円とされています。その内訳は、介護開始時にかかる一時的な費用の平均が約74万円。これは住宅のバリアフリー化や介護用ベッドの購入など、環境を整えるための初期投資です。さらに月々の費用として、在宅介護の場合は平均4.8万円、施設介護の場合は平均12.2万円が重くのしかかります。介護期間の平均は61.1カ月(約5年1カ月)であり、4年以上介護を続けている人は全体の約5割にのぼるのが現実です。
しかし、これはあくまで「平均値」に過ぎません。要介護度が高くなり、手厚い民間施設への入居が必要になれば、月額費用はこれらを遥かに凌駕します。「いざとなれば何とかなる」という漠然とした見通しは、介護が始まった瞬間に、家族全員の生活を破綻させる最大の要因になるのです。
美談が悲劇に変わる瞬間。親の介護において子が「絶対にやってはいけない」お金のタブー
このシビアな数字を前にしたとき、私が徹底してお伝えしている鉄則があります。それは、「親の介護費用は、絶対に子が肩代わりせず、親自身の資産や年金の範囲内でまかなう」ということです。
なぜなら、当たり前ですが、子の世代にも自分の生活があるからです。住宅ローンの返済、子どもの教育費、そして自分自身の老後資金の準備――。これらはすべて、子どもが現在進行形で抱えるリアルな課題です。ここに親の介護費用まで背負い込んでしまうと、子が自分のために積み立てるべき資金が容赦なく削られていきます。親孝行のつもりで始めた金銭的サポートが親の長生きによって長期化し、結果として「子自身の老後破綻」を招いてしまうケースを、私はこれまで何度も見てきました。
だからこそ、親が元気なうちに「親の年金はいくらか」「貯蓄はどの程度あるか」をクリアにし、その予算内で受けられる介護サービスを逆算しておく準備が不可欠なのです。