税金がかかる人ほど揉めない⁉相続のプロが警告する、財産0でも起きる骨肉の争いの実態とは
2024年末に急逝した俳優・中山美穂さんの遺産をめぐり、約20億円にのぼる不動産の相続問題が報じられた。「相続トラブルは富裕層だけの話」と思っている人は多いが、現場のプロたちが口を揃えて指摘するのは、むしろ「財産が少ない家庭ほど揉める」という逆説的な現実だ。
今回話を聞いたのは、ファイナンシャルプランナー(CFP)かつ社会保険労務士として30年以上のキャリアを持つ井戸美枝氏。これまで多くの相続案件に向き合ってきた井戸氏が一貫して強調するのは、「相続トラブルの本質は財産の多寡ではなく、準備の有無にある」という点だ。認知症による資産凍結、誰も手を挙げない実家の「負動産」問題——。いずれも、早めに動いていれば防げた悲劇だと井戸氏は言う。準備なき相続がいかに多くの家族を苦しめているか、井戸氏の実体験と知見をもとに紐解いていく。全5回の第1回。
みんかぶプレミアム連載「取り返しのつかない相続」
目次
財産が多い家族ほど揉めにくい理由
相続について相談を受ける中で、私がいつも感じるのは「財産が多い家族ほど揉めにくい」という現実です。
理由はシンプル。相続税の課税対象になるほどの財産がある家族は、早い段階から専門家に相談し、遺言書の整備や話し合いを済ませていることがほとんどだからです。つまり富裕層が揉めにくいのは、財産が多いからではなく、事前に「準備」をしているからです。
逆に言えば、どんな家庭でも準備さえすれば、悲劇は防げます。そして、その手を打つべきタイミングは、相続が始まってからではなく、親が元気でいる「今」です。この準備を怠ると、人は死を待たずして、生前の段階から家族を深刻な苦しみに突き落とすことになります。その最たる例が、ある日突然やってくる「資産凍結」の恐怖です。
口座に3億円あるのに引き出せない。親の死を待たずして家族を襲う「最大の罠」
私が実際に携わった案件の中で、今でも忘れることができないケースがあります。金融資産だけで3億円を持つ80代の男性が認知症になってしまい、自分の口座からお金を一切引き出せなくなってしまったのです。
医療機関で認知症と診断されると、本人は意思能力を失ったとみなされ、銀行口座は事実上凍結されます。これは「本人の財産を守るため」の銀行側の措置ですが、家族であっても生活費や医療費を代わりに引き出すことはできなくなります。