キオクシア「8000億円還元の死角」と、フジクラ約1200億円の利益を生む異次元の上方修正…決算繁忙期、好決算でも売られる市場で「本当の勝者」は誰か
日経平均株価が歴史的な乱高下を演じ、市場全体が阿鼻叫喚の渦に巻き込まれた7月相場。
恐怖に駆られた個人投資家がパニック売りに走る一方で、着実に「稼ぐ力」を積み上げている企業もある。
むしろ、今回の決算シーズンで浮かび上がったのは、相場全体が不安定なときほど、企業ごとの「利益の質」と「稼ぐ力の差」が鮮明になるという事実だ。
為替相場は1ドル=159円台後半から160円近辺という歴史的な円安水準で推移。そこに中東情勢やホルムズ海峡を巡る地政学リスクも重なり、企業側は期初から慎重な業績見通しを示していた。
その象徴の一つが大和ハウスだ。期初には中東影響を織り込み、保守的なガイダンスを設定していた企業が、足元の状況を踏まえ上方修正に動き始めている。
そして、さらに市場の想定を上回ったのが生成AI・半導体関連だ。
「今期のコンセンサスを上回る」だけではない。なかには、来期の市場予想まで先回りするような上方修正を打ち出す企業も出てきた。
一方で、皮肉なことに、こうした好決算を発表した企業の株価が必ずしも素直に上昇するわけではない。「好決算なのに売られる」。いわゆる「出尽くし」が、今回の決算シーズンでも投資家を悩ませている。
では、数字が良かったか悪かったかだけではなく、その決算のどこを見れば、次の株価上昇につながる企業を見極められるのか。独立系運用会社fundnoteで「TOB企業価値ジャッジファンド」(愛称:匠のファンド)を運用するファンドマネージャー、神谷悠介氏に聞いた。
(取材日:2026年8月24日、文:ちょる子)
みんかぶプレミアム連載「fundnote 川合・神谷の目」
フジクラに潜んでいた「3000億円案件」 約1200億円の利益を生む異次元の上方修正
今回の決算シーズンで、個別セクターとして真っ先に市場の度肝を抜いたのが電線株だ。なかでも注目を集めたのがフジクラの大幅な上方修正。
しかし、神谷氏が着目したのは単なる「上方修正の大きさ」ではない。その裏側にある利益率の高さだ。
「フジクラは、第1四半期では大きな修正を出してこないだろうと見ていました。なにしろ、期初ガイダンスを出した直後の6月に一度、修正をかけていますから。ところが、蓋を開けてみれば、再び大幅な上方修正を行ってきました」
その背景にあるとみられるのが、アジア圏のデータセンター向け大型案件だという。報道ベースでは、案件規模は売上高3000億円クラス。昨年のフジクラの年間売上高が約1兆2000億円程度だったことを考えると、年間売上高の約2割に相当する超大型案件だ。
だが、本当に驚くべきなのは売上高の大きさだけではない。「どれだけ利益が残るのか」ここが今回のポイントだ。
神谷氏はこう分析する。
「米国向けと異なり、アジア圏向けでは関税の影響を受けません。さらに、至急の案件ということでマージンが極めて高い。情報通信セグメント全体の営業利益率計画が30数%とすでに高い水準ですが、さらにこの案件には約40%近い利益率が乗っていると推測されます」
仮に売上高3000億円に対して営業利益率40%とすれば、営業利益は約1200億円。昨年度の通期実績が営業利益が1900億円弱であることを踏まえると、本件でとてつもない「利益の塊」が発生することになる。しかも、その売上高は上期と下期にそれぞれ約千数百億円ずつ計上されるとみられる。
神谷氏が「今回の異次元の上方修正の正体」と見るのも、この高採算案件だ。これは単なる「売上が増えました」という話ではない。高収益案件が一気に入り、利益が想定以上のスピードで積み上がる。決算を見るうえで重要なのは、まさにこの「利益の質」だ。会社はあくまで「単発の一過性」を強調するが、足元の好需給の環境を鑑みると、似たような案件が今後も出てくる可能性があると考えるのが自然であろう。
電線御三家でも明暗 「一時要因」に惑わされるな
一方、電線御三家に目を向けると、3社の明暗は分かれている。
古河電気工業は期初ガイダンスがコンセンサスを上回る大幅増益となり、強い株価の動きを見せた。1Q決算もその強いガイダンスをさらに上回る上方修正を出してきた。対して住友電気工業は、光デバイスの能力増強に伴う既存設備の生産・出荷停止の影響に加え、米国関税の還付について税負担分を顧客に値下げしたことなど、一時的な要因が業績の重しとなった。
ただし、神谷氏はこうした短期的な数字だけで判断することには慎重だ。
「足元の電線株は、7月の急落相場に引きずられて半値戻し程度でグズグズしています。しかし、マクロ全体の霧が晴れて、第2四半期決算のファンダメンタルズを市場が冷静に見に行くタイミングになれば、改めて評価される可能性があると考えています」
ここから読み取れるのは、決算後の株価を見る際に、「一時的な減益」と「構造的な収益悪化」を区別する必要があるということだ。好決算後に株価が上がらなかったからといって、必ずしも企業価値が毀損したわけではない。
逆に、派手な増益を発表したからといって、その利益が来期以降も続くとは限らない。投資家が見るべきなのは、数字そのものよりも、その数字が「何によって生まれたのか」なのである。
キオクシア「8000億円自社株買い」はなぜ評価が分かれるのか
ここからは日本のマーケットの上昇を牽引してきた半導体のなかでもメモリ領域に目を向けてみよう。この領域を代表する銘柄の一つがキオクシアだ。
同社の第1四半期決算は、一部売上の7月への期ズレや、株価上昇に伴う役員などへの株式報酬費用の増加、訴訟費用計上といった一時的な費用が重なり、営業利益は市場の期待に届かない「やや物足りない」内容となった。
ここで投資家として議論したいのが、決算発表と同時に打ち出された8000億円規模の自社株買いだ。巨額の株主還元策として大きく報じられたが、神谷氏の評価は意外にも厳しい。
「個人的には少し残念で、『なぜ自社株買いなのか。配当で出すべきだった』というのが本音です」
ポイントは、キオクシアの現在の財務状況にあるという。
「当時の時価総額に対して、8000億円は約3.1%に相当します。自社株買いは発行済み株式数を減らしてEPSやROEを引き上げる効果があります。しかし、キオクシアは現状ですでにROE(コンセンサスEPS/期初BPS)が200%超という異常値です。これ以上ROEを高める必要性は薄く、3%程度、株数を減らしたとしてもほぼ誤差の範囲でしかありません」
つまり、自社株買いそのものが悪いのではない。「今のキオクシアにとって、最も効果的な還元方法なのか」という問題だ。さらに神谷氏は、もう一つの問題を指摘する。「自社株買いは高い流動性が吸収してしまい、ごく短期で終わってしまいます」
では、配当ならどうか。「すでに総合商社のように『累進配当(減配しない方針)』を掲げており、この8000億円を配当で出すとすれば、決算時点では配当利回り3.1%程度となります。これにもう少し金額を上乗せして、例えば配当利回り4%とか、4.5%とかになれば、株価の下値余地を限定化させることができたのではないでしょうか?」
ここには、個人投資家にとって重要な視点がある。株主還元は「金額」だけではなく、「株価の下支えとして機能するか」まで見る必要がある。ROEを引き上げる必要がある会社における自社株買いは非常に有効な手段であると考える。しかし、すでにROEが高位な銘柄で、株価が急落したとき、継続的かつ一定水準を上回る配当は「この株を持ち続ける理由」になり得る。
「配当ゼロであれば、いくら下がっても配当利回りゼロ。下落局面でのブレーキが全く利かないのです。第2四半期以降、下期に向けて経営陣から配当についての言及が出てくるかどうかが、今後の大きな焦点になります」