「未知の価値」を信じて スタートアップにおけるエクイティファイナンスの意味 バイオマスガス化発電のGPE

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プロフィール

村上茂久
株式会社ファインディールズ代表取締役、GOB Incubation Partners株式会社フェロー、iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授。大学院の経済学研究科を修了後、新生銀行で証券化、不良債権投資、不動産投資、プロジェクトファイナンス、ファンド投資業務等に従事。2018年より、GOB Incubation Partners株式会社のCFOとして新規事業開発、起業支援、スタートアップファイナンス支援業務等を手掛ける。2021年1月に財務コンサルティング等を行う株式会社ファインディールズを創業。著書に「決算書ナゾトキトレーニング 7つのストーリーで学ぶファイナンス入門」「一歩先の企業・株価分析ができる マンガでわかる 決算書ナゾトキトレーニング」(PHP研究所)がある。

村上茂久のスタートアップ投資術-新世代アップルの見つけ方-(10)

 スタートアップ企業(ベンチャー企業)の市場は年々成長し、2021年に資金調達額が7801億円(1919社)を記録するなど、近年、日本でも盛り上がりを見せています。

 本連載では、株式投資型クラウドファンディングのプラットフォームである「FUNDINNO」を通じて資金調達を行った企業を毎回取り上げ、スタートアップ企業のビジネスモデルや成長戦略について、これまで、数多くのスタートアップ企業の資金調達支援を行ってきた株式会社ファインディールズ代表取締役の村上茂久さんが考察します。

 村上さんは「スタートアップ企業は情報が少ないものの、調達にあたり、投資家に刺さるポイントがある程度、形式知化されていることも分かってきた」と話します。

 事業が成熟している上場企業とは異なるスタートアップ企業を分析する際、どのような視点が必要とされるのでしょうか。

 今回は、新開発の木質バイオマスガス化発電(木材などの有機性資源を活用した発電)や新型地熱発電(温泉を活用した地熱発電)等の再生可能エネルギー関連のプラント開発を手掛ける株式会社GPEを取り上げます。

はじめに

 日本のエネルギー自給率は11.3%と、OECD(経済協力開発機構)38カ国中37位と非常に低い状況です。

出所:経済産業省資源エネルギー庁

 日本の主な発電設備は火力発電ですが、原材料の石炭や石油の97%は輸入に頼っている状況です。このような状況の中、GPEは、これまでの発電方法に代わる方法として、木質バイオマスガス化発電等の開発に取り組んでいます。

 今回は、ファイナンスの観点から、バイオマスガス化発電等の開発に必要な資金をどのように調達するのが望ましいかを考察します。以下、具体的に見ていきましょう。

有害物質の排出量が少ないバイオマスガス化発電

 GPEでは、従来の火力発電所等に代わる発電所として、バイオマスガス化発電プラントを開発しています。このバイオマスガス化発電プラントは、木質燃料を加熱することで燃焼性のガスを発生させ、このガスでロータリーエンジンを回す発電方法となっています。

 火力発電所や従来の木質燃料を加熱するバイオマス発電所との一番の違いは、CO2の発生量です。バイオマスガス化発電では、燃料を燃やし切るわけではなく、高音でゆっくりとガス化させていくため、従来の同規模の火力発電所よりもCO2排出量の削減が見込めることになります。

出所:プラント設計のプロが手がける次世代の画期的発電システム”バイオマスガス化発電”で、活用されていない木材を最大限利用する「GPE」

発電所を建設するのに重要な銀行の融資

 筆者は以前、金融機関で働いていた際に、再生可能エネルギーや火力発電所のプロジェクトファイナンス業務に携わっていました。バイオガス発電所やバイオマス発電所についても、所属していたチームで検討していたことがあり、今回扱っているテーマにもそれなりになじみがあります。

 では、今回のようなバイオマスガス化発電所といった再生可能エネルギーの取り組みにおいて重要なことは何でしょうか。

 第1に「技術の証明性」です。なぜならば、発電所は長期にわたり、発電をする必要があるからです。

 第2に、それなりの規模になってくると、金融機関からの融資が必須となる点です。実際に私が取り組んでいたプロジェクトファイナンスは、太陽光発電、風力発電、火力発電、バイオマス発電といったプラントに長期間にわたって融資を提供するというものでした。

 なぜ、金融機関の融資が必要かと言うと、発電所を建てるには多額の資金が必要だからです。この多額の資金は短期的に返済するのは難しく、それこそ、15年~20年近くかけて返済する必要が出てきます。ということは、発電所には15年以上稼働してもらい、電力を販売して、キャッシュフローを継続的に生んでもらう必要があるのです。

 そのため、上述した「技術の証明性」が重要になります。このことを専門的には「Proven(プルーブン)」といい、すなわち、検証された技術が必要になってくるのです。

 加えて、金融機関がプロジェクトファイナンスを行うにあたっては「バンカビリティ」という概念も重要になってきます。「バンカビリティ」とは、銀行が融資できる状態のことを言います。発電所やインフラ設備といったプロジェクトに融資をする際には、上述したプルーブンな技術が採用され、銀行として融資ができる「バンカビリティ」を満たすことが極めて重要になるのです。

未知の価値を証明するためのエクイティファイナンス

 銀行が発電所等の設備に融資をする際に重視する「プルーブン」「バンカビリティ」とは、言ってみれば「既知の価値」に対するファイナンス(デットファイナンス)です。つまり、すでに価値があると証明されたものに資金を提供しているのです。

 一方で、スタートアップに対する出資等は基本的には「未知の価値」への資金提供(エクイティファイナンス)になります。

 今回のGPEのケースで言うと、バイオマスガス化発電所のPoC、すなわち、「Proof of Concept」と呼ばれる概念検証がうまくいくかどうかが重要になります。

 そのためには資金が必要となりますが、「既知の価値」に資金を提供する通常の銀行の融資は「未知の価値」の検証のために活用することは難しい傾向にあります。そのため、「未知の価値」に資金提供を行うエクイティファイナンスが重要になるのです。

 もちろん、まだ確実に技術や事業がうまくいくかどうかが検証されていないからこそ、エクイティファイナンスの出し手にはリスクがあります。ですが、リスクがある分、検証がうまくいき、事業が成長した際には、エクイティファイナンスは大きなリータンを得ることができるのです。

 つまり、まとめると、「既知の価値」へ融資を行うデットファイナンスはローリスク・ローリターンとなり、「未知の価値」への出資を行うエクイティファイナンスはハイリスク・ハイリターンが見込めるということです。

 GPEは、株式投資型クラウドファンディングで調達をするまでは、ベンチャーキャピタル(VC)、事業会社(CVC)、そして、エンジェル投資家等からの出資による調達を行っていませんでした。すなわち、自己資金のみで未知の価値の検証を行ってきました。その後、株式投資型クラウドファンディングを通じて、6500万円強の調達を成功させました。

 この資金を用いて、新型のバイオマスガス化発電所の更なる検証を行い、技術の活用が見込めたとなると、銀行からの融資をより一層活用できるようになり、事業を伸ばすことができるようになります。

 今回扱ったGPEは、従来のエクイティファイナンスの出し手であるVCやエンジェル投資家から、これまで、調達を行ってきませんでした(※1)。詳細な理由は不明ですが、それだけ難易度が高いということもあったかもしれません。

 このような状況でも、新たな調達手法である株式投資型クラウドファンディングから調達できるというのは、それだけ、日本のスタートアップにおける金融市場が発展し、多様性が出てきたという証左とも考えられます。

 今回のGPEによる「バイオマスガス化発電所」の事業のように、スタートアップの事業の多くは「未知の価値」です。この「未知の価値」を検証するには、当然、資金が必要になります。このリスクを取ってくれるのがVC、エンジェル、そして、株式投資型クラウドファンディング等のエクイティファイナンスの出し手なのです。

 GPEが株式投資型クラウンドファンディングで調達した資金をどのように検証に使い、事業を伸ばしていくのか、今後の動向に注目していきましょう。

(※1)プラント設計のプロが手がける次世代の画期的発電システム”バイオマスガス化発電”で、活用されていない木材を最大限利用する「GPE」
https://fundinno.com/projects/198

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