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アイスストーリーという氷上芸術は「進化」から「深化」へ…「これから」の文化に「ガチ勢」として命がけで挑む羽生結弦、そして私たち

(c) AdobeStock

日野百草 ファンしか知らない羽生結弦

目次

「ガチ勢」羽生結弦のさらなる本気

 それでも私はまだ甘かったのかもしれません。『Echoes of Life』における『Utai IV ~Reawakening』、『Mass Destruction -Reload-』は羽生結弦という存在を常に超える「ガチ勢」羽生結弦のさらなる本気を見せつけることになります。

『Utai IV ~Reawakening』について私はこう綴りました。再構成したものを記します。

〈霊魂、いまや「Ghost」であるのかもしれない電脳の時代にある神事。幻想の一言では足りない幻想。その誰なのか、何なのか。わからない神を前に羽生結弦の肉体が躍動する。その細く美しい指の先まで「Ghost」は宿る。わからないから、舞う。そして、捧げる舞踏はすべてを解放する〉

 Novaの旅にこの『Utai IV ~Reawakening』を持ってくるところが羽生結弦の作家性です。『攻殻機動隊』とその派生物の解釈は様々ですが、いまや人のアイデンティティはアナログとデジタルの境界線上にあり、そこに私の「Ghost」=神が存在します。電脳における仮想は幻想であり、幻想は仮想という呪縛の中にある私たち、その開放をGhostは待っている――作品が作品ですのでおおよそは観念的にならざるを得ないのですが、羽生結弦の氷上芸術における「哲学」はまさに「深化」と言うべきでしょう。

 この「深化」は『Mass Destruction -Reload-』にも顕著に現れています。

羽生結弦のアイスストーリーにあるべき必然

〈本当の「俺」なんて死ぬ覚悟がなきゃ出てこない。違う、一回死ななきゃ出てこない。それも違うな、何度も死ななきゃ出てこない〉

〈創作の感受に「投影」は重要な役割を担うけど、羽生結弦にとっても『ペルソナ3』の世界はまさに自分で「俺」で、頭を撃ち抜いて来たんだろうな。何度も「Reload」してさ〉

 結局のところ、この「『ペルソナ3』で表現する」という手法そのものが、それまでのフィギュアスケートにおいて「ありえない」ものだったように思うのです。

 これまで『阿修羅ちゃん』『鶏と蛇と『MEGALOVANIA』『Utai IV ~Reawakening』『Mass Destruction -Reload-』(言及だけならエスト2も)を挙げましたが、羽生結弦のアイスストーリーにあるべき必然性が第一に来る選択であり、決して媚びていない、羽生結弦の常に媚びない姿勢こそ羽生結弦たる必然でもまたあるのですが、「私の大好き」を作品に昇華するという当たり前の行為を羽生結弦の単独アイスショーという巨大コンテンツで実現することがどれだけ大変なことか、勇気のいることか、まさに頭を撃ち抜く覚悟でなければ不可能なことでしょう。

 あえて言うなら、これら元となった『ペルソナ3』などの作品は「いま」「ここ」の素晴らしい作品ですが、決してモーツアルトやショパンのような「市民権」を得た作品ではありません。まさに「歴史」という大きな枠組みの中では「これから」の作品たちです。

 芸術においては選択もまた創作の重要な要素なのですが、この選択こそ羽生結弦の作家性の証左と言えるでしょう。

 選択の才能、それもまた羽生結弦という存在です。あるいは進取の才、でもいいでしょう。

 今回はアイスストーリー初期三部作の振り返りということでサブカルチャーを中心に選りましたが、アイスストーリーに限らなければFaOIの『GLAMOROUS SKY』や『if…』、『Meteor -ミーティア-』もまた羽生結弦の進取の発露と言えます。こちらもまた過去に書いていますが、とくに今回の主題をもっとも表している拙筆を、少し長いのですが引かせていただきます。

羽生結弦という時代を生きている

〈羽生結弦はこの作品を、ガンダムを、キラを見事な解釈で昇華し、氷上芸術に結びつけた。思えばAdo「阿修羅ちゃん」もそうだった、『NANA』「GLAMOROUS SKY」やもそうか。単独公演「RE_PRAY」に至ってはツアーそのものがそうだ〉

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この記事の著者
日野百草

1972年生まれ。日本ペンクラブ広報委員会委員。出版社勤務を経て国内外における社会問題、政治倫理を中心に執筆。大学院で芸術学を専攻、修士(芸術)、芸術修士(MFA)。文芸論、人物評伝および比較史におけるポップカルチャー、またフィギュアスケートなど舞踏芸術に関する論考も手掛ける。2018年、評論「『砲車』は戦争を賛美したか 長谷川素逝と戦争俳句」で日本詩歌句随筆評論協会賞奨励賞を受賞。著書『評伝 赤城さかえ 楸邨・波郷・兜太に愛された魂の俳人』他。

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