みのミュージック「最高の邦楽アルバムランキング」が炎上。SNSの反発から吉田豪が解き明かす、ネット批評の限界と「語られない音楽史」
先日、YouTuberの「みの」氏が、Xにおいて「みのミュージックリスナーが選ぶ最高の邦楽アルバムランキング」を発表し、1位に「はっぴいえんど/風街ろまん」が選出された。しかし、この結果に対し、SNS上では「くだらない」「偏重が酷い」などといった手厳しい批判が相次ぎ、一時炎上状態となった。定期的に繰り返されるこの“名盤格付け”を巡るネット上の熱狂とバッシングに対し、プロインタビュアー・吉田豪氏が淡々と切り込む。
みんかぶプレミアム連載「吉田豪の月イチ気になる話。」
目次
定番が固定化していく「ベストアルバムランキング」の問題点
この前、Twitter(現X)で「吉田豪はみのミュージックが嫌いだろう」とか雑に言われているのを目にしたんですけど、嫌いも何もボクはあの人の動画を見たことがないんですよ。だから「興味ない」というのが正解で、よくTLで話題になっているのは知っていたけれど、ボクと音楽的な趣味が違うらしいことだけはわかっているチャンネルをわざわざ観に行こうとも思わないですよね。今回、みのミュージックのリスナーが選ぶ最高の邦楽アルバムランキングの1位が「はっぴいえんど/風街ろまん」だったことがTwitterで叩かれてることにしても、ボクなんかよりずっと若い世代がやってるチャンネルなんだから、リスナー投票じゃなくて独断でランキングを作って「もうちょっと新しい風を吹かせてもいいんじゃない?」と思う気持ちもなくはないです。でもまあ無難な結果ですよ。正直、怒るようなことじゃないと思います。
この炎上の背景には、「オールタイムベストアルバムランキング問題」的なものがあると勝手に思っていて。後追いで音楽を聴く人たちが、どうしてもそういうランキングや手頃なガイドみたいなものを情報源にするから、80年代半ばの『宝島』のそういう企画で1位だったサディスティック・ミカ・バンドが見当たらなくなったりといった多少の変動や新規参入はあるにしても、どうしたって過去に作られたランキングが固定化されていっちゃう。名盤とされているものを後追いで聴いて、やっぱり名盤だと確認してランキングに入れるような人が増えるから、どんどん無難になっていっちゃうんですよ。同じ時代に同じような面白い音楽をやっていたバンドやアーティストがいくらでも存在するはずなのに、代表作や定番の1枚しか聴かれないから、どうしても「はっぴいえんど」で止まってしまう。
「ザ・ブルーハーツ周辺」が語られない問題 妥当なランキングの裏で完全に埋もれていく当時のリアル
たとえば今回のランキングだとザ・ブルーハーツが3位に入っていて、それ自体はすごく妥当だと思います。でも、当時はザ・ブルーハーツが好きな人は、その周辺のバンドもいろいろ聴いてたはずなのに、そういうのがあまりにも語られなさすぎるんですよ。いわゆるビートパンクだったら、その元祖というべきKENZIも聴いたほうがいいし、もっと言うと自主盤の1stを聴くんだったら自主盤のシングル集を聴いたほうがいい。それ以外にもTHE POGOとかTHE WELLSとか極左ビートパンクの元気ばか組とか、そういうところまで掘り下げていく人はかなり少数派じゃないですか。実はサブスク対応してたりもする(ただし再結成後の音源しかないこともある)のに、そこまでたどり着くだけの情報もなかったりする。
だから、ボクはよくある「オールタイム・ベストアルバム」みたいな企画を頼まれたとき、勝手に自分の中で縛りを加えるようにしてるんですよ。どうしたってはっぴいいえんどとか大瀧詠一とか早川義夫とかって感じになっちゃうから、「10代のときリアルタイムで聴いたものだけにする」とかにすると、定番ばかりじゃなくて普段の企画だとあまり見ないものが入ってくるようになる。いいとわかっているものを大人になってから後追いで聴いた作品と、評価もまだ定まらない時期にリアルタイムで聴いた作品を比べたら、やっぱり後者は思い入れが全然違うんですよ。
ちなみに年間ベストもアルバムにするとどうしても似通ってきちゃうから、ボクは曲単位、それも音源化されてないCM曲とかYouTubeにアップされたカヴァー曲とかも混ぜてた結果、かなり独自のランキングになってたと思います。だって、最後にやった年なんて1位は尾藤イサオによる『あしたのジョー』のラップヴァージョンでしたからね。それぐらいの個性がないと、なかなか記事を読んでもらえないと思ってるんです。