魚もウニも包丁も買えるのに、夕飯の買い物は「まいばすけっと」…9300人が暮らす築地に「5万人スタジアム」は本当に必要なのか
「住みたい街」と評される人気のエリアにも、掘り起こしてみれば暗い歴史が転がっているものだ。そんな、言わなくてもいいことをあえて言ってみるという性格の悪い連載「住みたい街の真実」。
書き手を務めるのは『これでいいのか地域批評シリーズ』(マイクロマガジン社)で人気を博すルポライターの昼間たかし氏。第24回は、数年後に花開く大規模再開発で揺れる築地を歩く。
豊洲市場へ移転したはずなのに…?
東京・築地と聞いて、何を思い浮かべるだろう。
マグロ、寿司、海鮮丼、玉子焼き。外国人観光客で埋め尽くされた細い路地。いまや銀座と並ぶ東京観光の定番である。
2018年10月、東京都中央卸売市場としての築地市場は閉場し、豊洲市場へ移転した。にもかかわらず、築地から「市場」のイメージが消えることはなかった。築地場外市場には現在もおよそ460店が営業している。鮮魚、青果、精肉、乾物、鰹節、海苔、調味料から包丁、食器、包装用品まで揃い、公式サイトも「食の専門店が集まる総合市場」と胸を張る。
総合市場とはいうものの、やっぱり目立つのはインバウンド観光客と、それ向けの店。そう、牛肉の上にウニを載せた串焼きなんかを売っている店である。午前中は、それらの店はいつも大賑わいだ。
もちろん、そうした観光客向けではない店も、まだまだ数は多い。朝からガッツリと食事をとることのできる、いかにも働いている人向けの店も多い。あと自宅で使う包丁はわざわざ築地まで持っていって専門店で研いでもらうほうがいいと筆者は思っている。数時間待っていれば、名のある日本刀みたいに肉でも野菜でもスパッと切れるまで見事に研いでくれる。
もっともそんなよく知られる築地は、晴海通りを挟んだ一面でしかない。道路の向こうには、まったく違う風景がある。

【写真007】場外市場の賑わいからちょっと離れたら鄙びた下町が残っている
築50年を越す古参マンションも
まだ築地市場があった頃には、対岸にも賑わいがあったと思う。博多の老舗明太子店である、かねふくが経営していた、「生粋博多らぁめん ふくちゃん 築地総本店」なんかは、その代表格。経営母体が経営母体だけに、明太子が食べ放題という名店だったが、築地市場の消滅と共に閉店してしまったのは、いまだに残念な限りだ。
それでも、同じく晴海通りに面した曽根輪業は市場の移転後も変わらず営業中。ここ、自転車を利用する築地の業者がメイン顧客なためか、朝5時から開店しているというとんでもない自転車店。数坪しかない店に修理中や、受け取り待ちの自転車がわんさかと停まっているのは、築地ならではの風景といえるだろう。

【写真012】こうした謎建築物も残っているのが築地のよいところでもある
しかし、場外市場の喧騒を背に、築地本願寺の脇から築地二丁目、三丁目、七丁目、さらに明石町の方向へ歩いていくと「世界のTSUKIJI」は急速に姿を消す。観光客の姿はない。そもそも平日日中でも、歩いている人の姿は多くない。目と鼻の先には場外市場、銀座もほど近いのにである。
そこにあるのは、ごく普通の東京の住宅地だ。まず、この地域で目立つのはマンションである。タワマンはない。しかし、新旧入り交じったマンションは数に限りがない。中でも興味をそそられるのは、築地七丁目に建つ1974年竣工、14階建て、総戸数478戸という「築地永谷コーポラス」だ。築52年である。街を歩けば、同じように昭和から平成にかけて建てられた中層マンションがそこかしこに残る。

【写真010】築地のあちこちにマンションは多いが生活利便性をどう考えて住んでいるのか
さらには、一戸建ての住宅も少なくない。これまた新しいものばかりではなく、かなり年季の入ったもの。あるいは狭小そのものなものまで多種多様だ。中央区の地区計画も築地について「定住性の高い住宅の集積」がある一方、「老朽化した建築物も未だ多く存在」すると記している。

【写真011】最近の築地のメインは中層マンション。でもやっぱりコンビニすら少ない
タワマン民の増加で飽和気味の小学校
では、いったい何人がここで暮らしているのか。中央区によれば、2026年4月1日現在、築地の人口は9330人、5952世帯。隣接する明石町まで加えれば1万3054人になる。これは「観光地の裏側に、少しだけ住民もいる」という数字ではない。ひとつの町として十分すぎる人口である。
当然、子供もいる。築地二丁目には中央区立京橋築地小学校がある。銀座と築地の多くが通学区域で、2025年5月時点の児童数は418人。明石町には明石小学校がある。ちなみに京橋築地小学校は区内の特認校。区民で希望者は学区外からも通える小学校となっている。地元の人に聞いたところ、定員(1学年100人)を超えた場合は抽選だそうだが、定員に満たず30人程度、2クラス編成の学年が多いのだとか。

【写真013】最近は晴海西を避けて人気の京橋築地小学校。なお成金とエセセレブは泰明小学校に行く
朝、様子をみていると晴海方面からやってくる都営バスから下りてくる小学生たちの数も多い。新たな住宅地として開発された晴海フラッグの子供たちを収容するために新設された晴海西小学校は、人数が予想より増えすぎ、今年は新1年生だけで283人9クラス。中央区は大慌てで校舎を増築している最中。そんな調子なので、地元民からは学級崩壊、いじめ、暴力沙汰の噂が絶えない。そりゃ一年生からバス通学という不安はあっても、こっちを選ぶ親が増えるのは、さもありなん。
さて、築地に話を戻そうーー。