エスカレーター式=勉強しないは過去のもの? 変わる大学付属校を進学塾代表が徹底解剖
日本の受験界において、首都圏で独自に発達したエリートコースがある。大学付属校だ。
早稲田や慶應、MARCH(明治、青山、立教、中央、法政)には、系列の中学校や高校があり、一部は小学校も設置している。一度入学できれば大学まで、ほぼ無条件で進学が可能だ。
「付属校といえば、かつては大学受験を避けられることが、最大のメリットだと捉えられていました。ところがAIの登場で学力の捉え方そのものが変わりつつあるいま、一貫教育の魅力があらためて見直されています」
そう語るのは進学塾VAMOSの代表で、『AIに潰されない頭のいい子の育て方』などの著者である富永雄輔氏だ。
開成や桜蔭のような「東大進学者数を競う進学校」にはない独自の魅力があるという大学付属校。その強みについて聞いた。連載全3回の第2回。
大学の経営戦略としての付属校
多くの私立大学は生き残りを目指してさまざまな教育改革を積極的に進めています。その背景にあるのが、18歳人口の減少です。私立大学の場合、国公立大学よりも高い学費を払ってもらうだけの魅力を受験生や親御さんに提示しなくてはなりません。
近年は特に受験生側の大学選びの目線がシビアになり、「偏差値が高いだけの大学」はすぐに人気が剥がれ落ちてしまいます。
そのため、課題解決型授業の充実、交換留学枠の拡大、就職実績の向上、魅力あるカリキュラムの策定といった入学後の提供価値を高める施策を打ち出しているのです。
こうした施策と同時に、各大学が力を入れてきたのが大学付属校の拡大です。入学してくる学生を安定的に確保するうえで、小学校や中学校の段階から自校のファンを育てられる付属校は、大学にとって重要な存在になっています。
<明治大学系>
2026年4月、世田谷の男子校だった日本学園を系列校とし、明治大学付属世田谷へ改称して共学化。明治が新たな系列校を迎えるのは、約40年ぶり。
<青山学院大学系>
2014年に横浜英和女学院を系属校とし、2016年に青山学院横浜英和へ改称。2018年から共学化。
<立教大学系>
2024年度から、系属校である香蘭女学校の推薦枠を97名から1学年の定員と同じ160名まで拡大し、事実上の全員進学に。
<中央大学系> 2010年に横浜山手女子学園を付属校化。2012年に中学、2014年に高校を共学化し、その間の2013年に港北ニュータウンへ移転して中央大学附属横浜へ改称。
<法政大学系> 2027年4月に東京家政学院を系列校とし、法政大学千代田三番町(仮称)へ改称する予定。共学化も検討中。
これらの動きには、共通した構図があります。数万人の学生を擁する大学が、1学年数百人規模の中高を次々と系列に組み込んでいくという流れです。
対象になっているのは、その多くが伝統ある女子校や男子校です。少子化で生徒募集に苦しむなか、大学の名前を冠し、共学化とあわせて生まれ変わっていく。単独では立ち行かなくなった学校が、大学の看板の下で再出発するという側面があります。
中高の側から見れば、有名大学の名前は何よりの武器になります。大学への推薦枠があるとなれば、志願者の数も層も大きく変わるからです。
一方で、大学の側にとってのメリットは、数字だけを見るとわかりにくいかもしれません。早慶やMARCHの規模になると1学年に数千人から1万人近い学生がいて、内部進学者はそのうち多くても1〜2割ほどにとどまります。
それでも各大学が付属校を増やしているのは、付属校出身の学生が、人数以上の役割を大学の中で果たしているからです。
大学から入学した学生にとって、その大学で過ごす時間は4年間です。就職活動を考えれば、腰を据えていられるのは実質3年ほどでしょう。入学してから母校との関係が始まるので、愛着が育つには短い時間です。
付属校から上がってくる学生は、入学した時点ですでに10年近くその大学とともに過ごしています。小学校や中学校の頃から大学名の入ったウェアを着て部活に打ち込み、学校行事でキャンパスに足を運び、甲子園や箱根駅伝で母校を応援するなど、さまざまな面で母校愛を育ててきました。
こうして育った付属校出身の学生は、大学入学後には新入生の歓迎、部活やサークルの運営、応援や学園祭を主体的に取り仕切り、今度は「大学らしさ」を形成する側として活躍します。外から入ってきた学生は、彼らを通してその大学らしさに触れていきます。
早稲田らしさ、慶應らしさと呼ばれるものは、建学の理念や教育方針だけでつくられるものではありません。行事、OB・OG会、優れた研究、大学周辺の学生街、サークルなどさまざまな要因が、大学の文化を形作っています。
付属校出身の学生も、そのなかで大きな役割を担っているのです。
大学のファンとなった学生たちが、わが子を母校に通わせたり、寄付をしたりといった行動で母校をより盛り上げていく。こうした好循環が、私立大学の1つの生存戦略にもなっているのです。