『武道館アイドル博』『奈良ミナーラ』… 前代未聞のトラブルはなぜ「語れるネタ」になったのか? 吉田豪が振り返る“伝説の事故フェス”
『POP GALAXY 2026』のカオスな現場をきっかけに、SNSやアイドルファンの間で再び盛り上がる過去のトラブルイベントの思い出話。今回、プロインタビュアーの吉田豪氏が、自ら深く関わった「伝説の事故フェス」の記憶を振り返る。『武道館アイドル博』から、2018年に開催され今なお語り継がれる『奈良ミナーラ アイドルフェスティバル』まで、前代未聞のトラブルに見舞われながらなぜか参加者の「怒り」に変わらなかった現場の裏側とは。
みんかぶプレミアム連載「吉田豪の月イチ気になる話。」
仮設トイレの扉なし、救急車10台出動…大炎上した『TOKYOアイドル博』の意外に平和な原点
お台場の『POP GALAXY 2026』で久しぶりに令和っぽくないアングラで脱法的なフェスの危なっかしい空気を味わったんですけど、それをきっかけに過去のハプニングだらけだったアイドルフェスを思い出す人が多かったみたいですね。そのせいで「吉田豪がいるところにクソイベあり」とか言われてたんですけど、実際にボクが絡んだ現場ってそこまで数は多くはないんです。今回と同じ主催者で、不手際が多すぎて同じように出演キャンセルが続出しまくった2016年の『ガールポップフェスティバル in 淡路島』にも実は不参加だったので、ボクが司会とかでちゃんと関わった代表例は『武道館アイドル博』と『奈良ミナーラ アイドルフェスティバル』になると思います。
まず『武道館アイドル博』なんですけど、これは2022年にお台場で開催されて炎上した『TOKYOアイドル博』の前身となったイベントです。『TOKYOアイドル博』はズラリと並んだ男性用仮説トイレの扉が全部ないってことで話題になってましたけど、アイドルが次々と熱中症で倒れて救急車が10台以上来て、京王線での刺傷事件(2021年10月)に続いてスーパーアンビュランスという特殊車両まで出動したとか普通に報道されるレベルのトラブルになってたんですよ。ボクはそっちには関わってなくて、もっと平和な前身イベントに出演していたんです。
2017、18と2年連続で開催された『武道館アイドル博』は、何が画期的ってこれは「アイドル版コミケ」と表現されたりした、前代未聞の“アイドル物販フェス”だったということ。仕掛けたのは伝説のビジュアル系バンド・COLORのダイナマイト・トミーさん。Dir en greyなどを抱える事務所の社長であり、伝説の武闘派バンドマンとして知られる人ですけど、あの人が地下アイドル運営を始めた流れで企画されたものでした。
某大物バンド前日の武道館を利用した巧妙なビジネス 『武道館アイドル博』の舞台裏
このイベントのカラクリが本当に見事で、スケジュールを見ると理由がわかるんです。イベントの翌日、武道館でDir en greyのライブがあったんですよね。大型ライブって設営や仕込みのために前日から会場を借りるわけですけど、武道館はコンサート目的での使用料は高額だけど設営のための料金や武道で借りるときは安く済む。そこでトミーさんは、前日の昼間に武道館の中央部分にブルーシートを敷いてテーブルを並べ、ライブステージも組まずに特典会だけのイベントをやったわけなんですよ。で、イベントが終わった後にブルーシートとテーブルはすぐ撤去できるから、そのまま翌日のDir en greyの本来の設営に入れるという、めちゃくちゃうまいやり方だったんです。
ボクは『武道館アイドル博』にトークコーナーの司会として出演したんですけど、9時間ぶっ通しで次々と来るゲストと話し続ける「100人組手」みたいな地獄の仕事でした。でも、そんな中に無名時代の眉村ちあきもいたりして、当時はTIFの物販コーナーがどんどん無難になってきていた頃だから、全然知らない無名グループが大量に物販やってるのは単純におもしろかったですよ。イベントとしても電源を使っちゃいけない縛りがある中で、みんな知恵を絞っていたんですよね。自転車で発電して音を出してライブをやろうとするたくましいグループがいたりして、防護服のハグや防毒マスクでのキスで話題になったCY8ERはその後、単独で武道館もやりましたからね。3部制で1部1500円、通し券で3000円と激安だったこともあって、無茶苦茶好評でした。ただ、出演したアイドルが「夢の武道館のステージに立てました!」って言って泣いてたときは、そこはステージじゃないよ! コンサートのときは客席になってるところ! とツッコミたくなりましたね(笑)。
メン地下参入が生んだ地獄とフェスの変質ーー「売るもの」の違い
1年目はそんな感じで知恵と熱量で盛り上がった『武道館アイドル博』だったんですが、2年目から雰囲気が微妙に変わり始めたんです。地獄のロングトークコーナーに、トミーさんのラインでなぜかX-JAPANのPATAさんが巻き込まれるという事故はちょっとおもしろかったんですけど、ちょうどその頃から「メン地下(メンズ地下アイドル)」のブームが広がってきて、イベントにもメン地下が混ざるようになったんですよね。
これがボクにとってはかなりキツかった。女性の地下アイドルの方々は、爪痕を残そう、自分たちをアピールしようとすごく貪欲で、トークでもなんとか盛り上げようとしてくれるから好印象なんです。でも、メン地下にはそういうガッツキが一切ない。結局、売っているものが違うんですよね。地下アイドルは面白さや存在感を売ろうとしているのに対して、メン地下は目の前のファンへのサービスだけで成立しているから、喋りで爪痕を残す必要がないんですよ。
こっちはおもしろいイベントにしようとしているのに、向こうは既存のファンに媚を売ることしか考えてない。PATAさんの女性ファンなんて、そんな長時間のイベントなのにずっと最前列で声援を送ってたりして、すごく印象が良かったんですけどね。メン地下はメンバーもファンも最悪だなって印象しか残りませんでした。そのとき「ボクはメン地下と絡むのはやめよう」と心に誓ったわけです。その後はコロナを挟んで、会場をお台場に移して開催したら、ネットで大炎上して消滅していくという流れですね。