伊集院光vsダウ90000蓮見翔 『クレヨンしんちゃん』酷評バトルに見る「批判の作法」とコンプレックスの正体
コントユニット・ダウ90000の蓮見翔氏が脚本を担当したアニメ『クレヨンしんちゃん』の特別回を巡り、ラジオ界のレジェンド・伊集院光氏が「腰が抜けるほどつまらなかった」とラジオで酷評。それに対し、蓮見氏が自ら音声を文字起こしした上でロジカルなアンサーを返し、大きな話題を呼んだ。発端となった伊集院氏の発言音声をあえてSNSで無言拡散したプロインタビュアーの吉田豪氏が、双方の主張の裏にある「お笑い界の空気感」や伊集院氏の屈折、そして批判の作法についてフラットに語る。
みんかぶプレミアム連載「吉田豪の月イチ気になる話。」
会話劇の面白さより勝った「変わったことやってる感」ーー 蓮見版『クレヨンしんちゃん』の引っかかり
ダウ90000の蓮見翔さんが脚本を担当した9月19 日放送の『クレヨンしんちゃん』「ある午後の野原夫婦だゾ」を、伊集院光さんがラジオで「腰が抜けるほどつまらなかった」とシュートで酷評して、蓮見さんがラジオでさらにシュートなアンサーを返したバトルが、腰が抜けるほど面白かったですね! せっかくなので、実は語り下ろしの別の原稿(テーマは「取材現場でライターの存在も気にせず一方的にしゃべりまくる編集者」のこと)もすでに出来上がっていたんですけど、急遽このテーマで原稿を書き下ろしてみようと思います。
問題の『クレヨンしんちゃん』については、ボクも騒動前に見ていたんですよ。かなり攻めてることをやってるとは思ったんですけど正直全然ピンとこなくて、でもそれをわざわざSNSでツイートしようとは思わなかった。やっぱり、遥かに年齢が下の人間の作品に対して、ネガティブな感想を投下するのはどうかと思っちゃったんですよね。じゃあ、遥かに年齢が下の人間に対してシュートを仕掛けた伊集院さんに対して否定的かっていうと、実はそんなこともなくて。言いたいことはわかるし、それを言わずにはいられない伊集院さんのことも肯定したいんですよ。なので、ボクは思わず『伊集院光の深夜の馬鹿力』の該当部分をradikoで頭出しして、あえて余計な文言も書かずに拡散したわけです。発言の一部分を抜き出して煽るんじゃなくて、先入観なく該当部分の音声をそのまま聞いてほしかったので。
『クレヨンしんちゃん』という世界でワンカットでひたすら2人の会話劇を見せたことについて、ナタリーの記事には「『自分にしか書けない脚本を』と意気込み、“蓮見節”の効いた第1稿を完成させた。だがそこには主人公しんちゃんの登場シーンがほぼなく、母みさえと父ひろしの会話劇となっていた」とあるし、蓮見さん自身もニッポン放送『ナイツ ザ・ラジオショー』で「奇をてらいました……(笑)」と言っていたぐらいなので、そこが引っ掛かるのはしょうがないと思うんですよね。その結果、会話劇としての面白さよりも、変わったことをやろうとしている感が目についちゃったというか。
伊集院光の「シュート」にどう応えたかーー自ら文字起こしをして見せた蓮見翔の完璧な打ち返し
そもそも、蓮見さんはコントという本来なら2〜3人、せいぜい4人でのやり取りを描くものを、8人で演じて、なおかつそれぞれのキャラもちゃんと立たせるというかなりハードルの高いことをダウ90000でやってきてる人なんだから、その武器を使ってもっとキャラクターを増やしたほうが良かったと思うんですよね。
ただこれ、自分のセンスを見せようとしただけじゃなくて、実はテレビ朝日『バズマンTV』とのコラボ企画でもあったから、バラエティ的な面白さを求めた結果でもあると思うんですよ。「え、そんなことするんですか!」という番組的な引っ掛かりを自分から作ってみた、と。
だから、今回の脚本に対して「腰が抜けるほどつまらない」と言うこと自体は問題ないと蓮見さん自身も言ってるんですよね。論点はその先で、ダウ90000や蓮見さんがやっていることに伊集院さんがシュートを仕掛けた部分です。明らかに、ずっと思っていたことがこのタイミングでつい出てきちゃったんでしょうね。
そんな伊集院さんに対して、JFN『REQ JAM』での蓮見さんのアンサーが丁寧でとにかく素晴らしかったんですよ。もともと伊集院さんのリスナーだったからあの人の考え方を理解した上で、ロジカルに的確に打ち返していく。本当に見事でした。だって、あまりにも今回の件でネットで叩かれてたから、思わずTwitterのアプリを何度もアプリを消してたぐらいダメージを受けてたところで、追い打ちをかけるように伊集院さんが仕掛けてきたというのに、ラジオを全部自分で文字起こしした上で反論するなんて、なかなかできない行為ですよ(ちなみに今回の発端となった『伊集院光 深夜の馬鹿力』、伊集院さんがこういう行為を嫌うのをファンなら知ってるから、いわゆる書き起こし職人の人も触れないようにしてました。蓮見さんの反論や、周辺の芸人さんが言及したものは書き起こしているのに)。
「ファーストペンギンだと思ったら大間違い」蓮見翔が反論したダウ90000叩きの現実
じゃあ、該当部分の蓮見さんの発言をちょっと見てみましょう。
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つまんなかったのは俺が悪いことだから、これはごめんなさい。個人の感想ですしね、いろいろありますけど。そこはもういいんですけど。
その後、そのままずっと聞いてたら、なんかもう伊集院さんがかかかっちゃってね。なんか、「世の中はダウ90000のセンスを理解できない58歳はダメだ」みたいなことを言い出したんです。で、「勇気がいるんだよ。こうやってダウ90000のことをつまんないって言うのは」みたいな。まあ、『クレヨンしんちゃん』のことともギリ取れるけど。まあまあ、たぶんダウ90000のことにスッとなったの、途中で。それっぽい文章もちゃんとあったし……。
俺はちゃんと全部、文字起こししましたから。伊集院さんが言ったことを。自分で全部、文字起こしした上で今、しゃべってるからちゃんとわかってるとは思うんですけど。
で、なんか「賞を取ってるから不利だ」とか「勇気がいることなんだけど」っつって。で、「ダウ90000、面白くない」って言って。で、「誰か味方になってくれ」って言ってたんですよ。伊集院さんが。
「えっ、その下から潜り込むファイトスタイルをまだやってるんだ、この人は」ってまず、思ったの。こんな後輩に……「マジで?」と思って。で、「まあまあ、そうなのか」と思ったんだけど。「誰か味方になってくれ」って言ってるんですけど……それがファーストペンギンだと思っているなら大間違いで。それより前で俺、もう大量のペンギンに踏み潰されて死んでるんですよ、とっくに(笑)。もっと言えばそのしんちゃんの全然前から、もうネタ番組に出るたびにどちらかといえばかなり言われてきた側だと思うんですよ、ダウ90000って。
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いいアンサーですよね。ただ「『ダウ90000を理解できないとダメ』みたいなのってそれ、いつ、どこで誰に言われたんですか? あなたぐらいのキャリアの人が本当にそれを言われた?っていうさ。『理解できないのが悪い』みたいな圧なんて俺、絶対に自分でかけたことないし。それも自信がありますけど。そんなの、絶対やってないから」って蓮見さんが言ってたのは本音だと思うんですけど、これは本人が圧を掛けるとかの話じゃないんですよね。確かに「ダウ90000、いけ好かない」的な声も多いとは思うんですけど、“お笑いをわかっているセンスのいい人が褒めるもの”でもあったはずで、そこに伊集院さんが無言の圧を感じていたのはあると思います。そのタイミングで、鳴り物入りで脚本を書いた『クレヨンしんちゃん』が微妙だったから、「ほら!」と言いたくなったという。
中卒引きこもりの呪いと後輩への屈折… 伊集院光が敵意を向けた本当の理由
そもそも、ここ最近の伊集院さんはテレビでインテリっぽい扱いをされてるからつい忘れがちではあるんですけど、もともと中卒の引きこもりで、その呪いから脱却できてない人なんですよね。結婚しようが年齢を重ねてベテランになろうが、そこはずっと引きずり続けている。そこで、ラーメンズに影響を受けて、大学で出会った仲間たちと男女サークルみたいな見え方でお笑いをやって、岸田戯曲賞を獲ったりもする、まだ20代で若くてルックスもいい、未来しかないような奴のことは、そりゃあ「けっ!」とか「ぐぬぬ!」って感情にもなると思います。そこはしょうがない。
「その下から潜り込むファイトスタイルをまだやってるんだ」って発言は一発で息の根を止めるレベルの破壊力でしたけど、確かに年齢的にも芸能界のポジション的にも伊集院さんのほうが上ですよ。でも、学校のヒエラルキー的なものでは自分のほうが下だって思いが抜けてないから、どうしてもこうなっちゃうんですよ。
今回、伊集院さんが良くなかったのは、「俺からしてみたら誰か味方になってくれっていう。『伊集院よく言った! 俺も恐ろしくて言い出せなかったんだけど』っていう人がいてほしいんだよ」って発言に尽きると思います。こういうときは一人で闘うべきであって、ましてや後輩相手なんですからね。
ここ最近のTwitterでボクが嫌いなのは、誰かが騒動を起こしたとき、「実はあいつ昔から嫌いだったんだよ!」「この流れでなら言える。実はあいつ……」みたいな人が大量発生することだと思っていて、前から嫌いなんだったらその時点で意思表示しておくべきで、相手が弱っているときに集団で攻撃を加えるのは人としてどうかと思うんですよね。伊集院さんの今回の発言は、それを誘発するようなものだったから残念でした。
あと、伊集院さんの「『おじさんを怒るみたいなキャラクターがつらくて。それをもうやめたいんです』みたいなことを言ってるのって、ダサくない?」という発言が、おそらくは『くるま蓮見ペア』(令和ロマン くるま、蓮見翔、ゲスト/爆笑問題 太田光のイベント)の宣伝用切り抜き動画を見ての誤解で、「それって伊集院さんが散々怒ってるラジオを聞かずにネットニュースの記事だけを見て騒いでる人と何も変わんないんじゃないの?」という批判もクリティカルでしたね。
「言い返してくるラーメンズだと思ってください」蓮見翔が見せた達観と批判の作法
実はこのイベント、ボクも騒動の前に配信を買って見てました。なんで触れなかったかというと、基本的に「これは面白い! オススメ!」ってとき以外は、あえて触れないようにしてるんですよ。これは、そこそこ面白いけれどオススメするまでではなかったってことなんですけど。
で、伊集院さんはかなり仲良しな仲間のラジオすら嫉妬で聞けないことで有名だから、モヤモヤを抱いている蓮見さんのイベント配信なんて見れるわけがないんですよ。宣伝用切り抜き動画を見るのがギリで、だから誤解もするだろうなと思います。でも、いろんな人の発言やら何やらに言及するなら、やっぱりちゃんと見るしかないと思うんですよ。蓮見さんみたいに、どんなにしんどくても書き起こすぐらいのハートが必要なんです。相手をちゃんと批判するなら、相手をちゃんと調べるしかない。それがないとネットのよくある放言と同じレベルになっちゃうので。
そんな伊集院さんに対して、「偏屈さみたいなものがずっとやっぱりある人で。そこに我々は惚れ惚れしているわけでさ。その偏屈が自分に向いた途端にこんなにムカつくのかとは思ったんだけど。やっぱり他人事ごとだと思って聞いてるラジオが一番楽しいんだなとは思ったんだよね、すごく」という蓮見さんの見解も見事でした。「言い返してくるラーメンズだと思ってください。俺のことは。史上初(笑)」という結論も含めて。
引きこもりと孤立通学の差 爆笑問題・太田光がダウ90000蓮見翔に好意的な理由
個人的に興味深いのは、あれだけラーメンズ&小林賢太郎をいつまでもディスり続けている太田光さんが、蓮見さんには「お前、ダウの女子メンバーとヤッてんだろ!」ぐらいのどうしょうもないことは言うけれど、かなり好意的なことなんですよね。太田さんと伊集院さんは感性が近くて、どちらもラーメンズをいけ好かなく思っていた。でも、なんでここで反応が別れたかというと、高校時代に1年間引きこもった伊集院さんと、やっぱり高校時代に孤立して誰とも会話できなくて友人もゼロだったけど毎日学校に通い続けた太田さんとの違いなのかなと思いました。何かあるとシャットアウトしちゃう伊集院さんと、そんな状況でもコミュニケーションの可能性をあきらめない太田さんとの違いというか。
今回の件で蓮見さんは、自分のことを舐めてたような人たちに「やるじゃん!」と思わせることに成功して、なおかつ「腰が抜けるほど面白くない、蓮見翔です!」というギャグまで手にすることができました。あとは伊集院さんが反省することは反省しつつも、あまりダメージを受けることなく、2人が上手く絡んでいくことに期待したいですね。