SAPIX不要論…なぜ貧乏家族は子どもをたくさん産んでも大丈夫なのか。限界中産階級は知らない“オール公立”コスパ最強教育法

 1歳半の娘を子育て中のライター・長野あずささんは、結婚してからずっとダブルインカムを最大限に生かした資産形成に取り組んできた。ところが子供を出産して以降、バブル崩壊とパワーカップルを切り捨てる子育て支援策のダブルパンチに直面し、「教育をダウンサイジングしなければいけない。授業料が安く、子供が自ら学費や生活費を稼ぐ “オール公立” スタイルで娘を育てたい」と考えていると語る。例えば中学受験の名門塾「SAPIX」に小4から通わせれば300万円近くかかってしまう。そんな中、彼女いわく、オール公立を選択すると、老後資金2000万円問題もたやすく解決できるそうだ。

パワーカップルは悲惨、子育て支援金がほとんどもらえません

 私、長野あずさは現在、都内の分譲マンションに、同い年の夫と1歳半になる娘と住んでいます。私たち夫婦は結婚する前から「FIRE(経済的自立と早期リタイア)したいね」と話していて、結婚してからは東証上場企業の正社員×2の収入を元手に資産形成に励みました。

 ここ数年はコロナ禍ではありましたが、2021年の秋くらいまでは目論見どおり順調に資産が増えていました。ところが娘を出産したとたん、バブル崩壊……。産休や育児休業で収入が減っているところで不況になってしまったので、FIREの計画は後ろ倒しせざるを得なくなりそうです。

 そこで検討したのが、娘の教育にかけるお金のこと。私たち夫婦は、安倍晋三元首相が鶴の一声で成し遂げてくださった高校無償化も、所得制限にひっかかって恩恵を受けることが全くできません。それに子育て世帯のベーシックインカムである児童手当も、所得制限のせいで毎月たった5000円。1月の初めから、岸田首相や小池百合子都知事が子育て世帯への支援を充実させてくださると言っていますが、所得制限があると、私と娘はほとんど恩恵を受けることができないでしょう。

 たとえば先日、都知事が発表した東京都の子育て支援については、月5000円の給付は受けられますが、第2子の保育料無償化は(一人っ子の)うちの娘は受けられません。また都が独自に行っている私立高校の学費支援(無償化)も、これから始まる私立中学校10万円給付も、どちらも910万円の所得制限を超えているため、恩恵を受けることができません。

 せっかく知恵と工夫と努力によって子育てと収入を両立しているのに、所得制限で公的資金がほぼもらえないなんてすごく悲しいです。私たちのような共働きの夫婦は、子育てにかかる費用の支出によって(他の階層より)大きく資産が減少する危険がありますから「教育をダウンサイジングし、老後資金を残すこと」は、私たちにとって絶対に取り組まなければいけないミッションだと思います。

「身の丈に合わせて」の真意は、自助努力で教育の生産性を上げること

 2019年10月、当時の文部科学大臣・萩生田光一さんが「(英語テストの受験対策は)身の丈に合わせてがんばって」と発言されました。この発言に対しては批判が多く、萩生田さんもすぐに撤回されています。でも、萩生田さんが披瀝された “経済的に苦しかったら、背伸びして高い教育費を払う必要はない” “可処分所得が少なかったら受験対策をケチればいい” “(アプリ等を利用して)安上がりの受験対策もできる” というお考えは、私たちのように国や地方から見捨てられ、高コストで子育てせざるを得ない親にとって当たり前のことです。

 今、ビジネスの世界では「生産性アップ」が求められています。教育においても、萩生田さんのお考えを素直に受け入れて、少ないコストで質の高い教育が受けられるように、自助努力することが大切だと思います。中高等教育のダウンサイジングを自助努力だけで実現する。これこそ萩生田さんが求める(体制に従順な)美しい母子像であり、国家財政が危機に瀕しているニッポン国の草莽(そうもう)にふさわしい振る舞いであり、令和という元号に似つかわしい精神だと思います。

 こうした考え方は、私だけではありませんよね。たとえば私の出身地、神奈川県の東大進学実績を見ると、いままで私立高校(栄光学園、聖光学園、フェリス女学院など)ばかり目立っていましたが、10年くらい前から県立高校2校(横浜翠嵐、湘南)が合格者数を大きく伸ばしています。Webや週刊誌の分析によれば、この現象は、いままで都内の国立や神奈川御三家などを目指していた上位層の一部が、コストダウンを図って県立高校を選んでいるからだそうです。県立高校出身で東大に合格されるお子さんは、おそらく学校以外にもさまざまな受験産業を利用して勉強されていると思いますが、それでも私立に通うよりはだんぜん少ないコストで合格を勝ち取っていらっしゃるでしょう。インフレが始まり、所得や資産がどんどん減少してしまう時代には、たとえ親世代の収入が十分にあっても、こうした自助努力が必要になるのだと思います。

 オール私立育ち、夫婦そろって正社員で、それなりの所得があるという恵まれた身分の私ですが「将来の資産形成に際限はない。そのために教育の効率を真剣に考えたほうがいい」「教育費が安くても、娘が立派でたくましい社会人になってくれればそれでいい」と強く思っています。金融引き締めの時代になって、FIREという夢も少々実現が難しくなりそうですから、いかに教育の質を落とさずに支出を減らすかという考え方が、子育てではとても重要なのです。

オール私立の3分の1のコストで難関大学を目指します

 読者の皆さんの中には「自分は “オール私立” で育ててもらったのに、娘は公立で済ませるなんて身勝手だ」と怒りを感じているという人もいるでしょう。でも、東京都内の小中学校は、十分、教育レベルが高いようですよ。

 また、お受験して難関大学への進学を狙うお子さんも、中学受験ならそれほど無理をしなくても、国公立中高一貫校に入れるみたいです。私も小学校は普通の区立で、その後は都立の中高一貫教育校を受験させるのがいいかな、と考えています。これなら私立の3分の1程度のお安い学費で、お勉強ができる友達と切磋琢磨できる学校に通うことができますから。

 また中学校のお受験に失敗しても、普通に都立高校を受験すればいいだけです。東京都教育委員会は2023年度から都立高校で「校内予備校」を開いて、無償で受験対策をしてくださるそうですから、これからは都立高校から難関大学への合格実績がより一層伸びていくでしょう。都立高校で手厚い受験指導が受けられるとしたら、高い学費や寄付金を払って私立に通わなくてもよさそうですよね。

「アルバイトなんてやりたくない」私立女子高育ちと、「アルバイトは当たり前」の公立高校出身者

 親が子供の教育や進学を考えるとき、だいたい自分が受けた教育と比較しますよね。そして自分が「名門校に入れた」「良い学校に進学できた」と思っている親は、自分と同じ道を歩んでほしいと願うのではないでしょうか。

 しかし私は私立の女子校育ちですが、そう考えていません。私の場合は、幼稚園から高校までエスカレーター式の女子校に通いましたが、大学は違う私立大学に一般受験で入学しました。なので、私は「オール私立」と言っても「内部進学」ではありません。そして、大学で公立高校出身の友人がいっぱいできて、女子校時代の価値観がひっくり返ってしまったのです。

 女子校時代のコミュニティでは「学費や生活費は親が出すのが当たり前。バイトなんてやらなくていい」という感覚が普通でした。ところが大学に入ると全く違いました。大学の同級生は公立高校出身が多く、彼らは「親の経済的負担を軽くするため、お金を稼ぐのは当たり前」「サークルのお金(スキー道具の代金)は自分で稼ぐ」と言って、積極的にアルバイトをしていたのです。私は、そんな同級生たちを見て「自立しているしバイタリティがある。そういう価値観のほうが素敵だ」と素直に思えました。

 え、何ですか? 「口先だけだ!」ですって? いえいえ、私はそれからアルバイトもしましたし、バイタリティあふれる公立高校出身の同級生と相思相愛になって、結婚もしました。

 というわけで、私は私立の女子校に幼稚園から14年間通ったのですが、娘を女子校に通わせたいと思っていません。「公立保育園 → 区立小学校 → 公立中高一貫校」もしくは「区立中学校 → 都立高校」に進学させて、できれば大学も「国公立大学」を受験させたいと思っています。これからの時代、女の子だってたくましく育ってほしいですからね。

老後資金2000万円問題も、かんたんに解決できます

 人生100年時代の前半をトップギアで疾走し、40~50歳でFIREしようと思っている私たち夫婦から見れば、ニッポンの子育てはムダが多すぎ。教育費もムダをできるだけ削って、残ったお金を投資に回すべきです。岸田首相が推奨している「資産所得倍増プラン」の実現のためには、「教育」も聖域にせず、大ナタを振るわなければいけないのです。

 文部科学省「子供の学習費調査」(令和3年度)の結果を基に、幼稚園から高校までオール公立だった場合とオール私立だった場合でどれくらい違うか比べてみました。結果は幼稚園から高校までオール公立の場合はトータルで576万円、私立の場合は平均1840万円で、3.2倍の差がありました。

 つまり、公立を選ぶと1264万円のコストカットになり、これだけで夫婦2人の老後資金の半分以上を確保できるということ。さらに、この金額を投資に回して5%複利で運用できれば10年で2000万円超に、3%複利でも16年で2000万円の老後資金をつくることができます。教育をダウンサイジングすることの意味がお分かりいただけたでしょうか?

 ちなみに学費の差が特に大きいのは小学校でした。公立では6年間で約210万円ですが、私立の場合は6年間で約1000万円と、公立の5倍近くかかります。公立では無償の「授業料」が、私立は平均して年50万円近くかかり、設備費等に充てられる「学校納付金等」は、私立では年20万円近くかかることが多いようです。6年間通えば授業料と学校納付金だけで約400万円の差。

 ただし(学費だけではなく)「教育費」トータルという観点で見てみると、公立に通わせていても塾にどのタイミングでどのくらい通わせるかにもよりますし、たとえば大学付属の中学校に入れたとしても希望の学部は狭き門なので中1から塾に行く、というようなパターンもあるかもしれません。

 現に中学校の学習塾費を見てみると中学校では私立よりも公立の方が平均額は高くなっていたのであらゆるパターンを想定しておくことは必要です。

【学習塾費の平均金額(1年間)】

幼稚園 小学校 中学校 高校
公立 私立 公立 私立 公立 私立 公立 私立
7,788円 27,401円 53,313円 252,790円 202,965円 153,365円 106,884円 129,313円

インターナショナルスクールの学童なら、コスパよく英語が身につけられるかも

 ここまで「コスパコスパ」と言ってきたので、このままだと「ケチな母」というレッテルを貼られてしまいそうです(笑)。そうではなくて、私はメリハリをつけた「与え上手」な親になりたいと思っています。

 娘には公立でコスパよく「ベース」の教育を受けてもらう代わりに、浮いたお金を上手に使って様々な経験をさせてあげたいと考えています。

 例えば今、気になっているのはインターナショナルスクールの学童(アフタースクール)。インターナショナルスクールに通わせるのはハードルが高そうですが、小学校の頃からこうしたサードプレイスの環境の中で刺激を受けることは、多様性や異文化の理解に役立ちそうです。

 そしてもう1つは「旅育」。「旅育」とは一般的に日常から離れた旅先で、子供に様々な経験をさせることで子供の感受性や探究心を育む旅のことを指しますが、三度の飯より旅好きの私にぴったりの教育法だと思っています(笑)。たとえば夏休み期間にハワイに行って現地のサマースクールに通わせたり、現地の自然を体験できるネイチャーアクティビティに家族で参加したり。親も楽しみつつ子供の成長にもつながる。楽しみながらまさに一石二鳥です。

 娘にはあえて自分が辿(たど)ってきた道とは違う選択肢を与えようとしている私。正解は1つではないから、途中で悩み、方針転換することもきっとあるでしょう。答えあわせは20年後??

 はたして娘はどんな人間に育ってくれるのか、とても楽しみです。

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この記事の著者
長野あずさ

2021年秋に愛娘が誕生し、絶賛子育て中のアラサーママライター。新卒の頃から試行錯誤しながら投資に取り組んできた経験や、子育ての問題など、ママならではの視点を生かし、精力的に記事を執筆中。三度の飯より旅行が大好き。

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