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金・財産ではなく、自分を裏切らないかどうかがすべて…米富豪J・P・モルガン、アメリカを支配した男の歴史的証言

みんかぶプレミアム連載「一握りの大富豪だけが知っている世界の真実」

 1907年のアメリカ。政府すら為す術がない国家崩壊の危機を、密室の腕力だけで救済した一人の民間人がいた。J・P・モルガンである。

 大衆がお金こそすべてと信じる中、アメリカ経済を支配した彼は、議会の厳しい追及に対して「金よりも『キャラクター(人間性)』が第一条件だ」と言い放った。大富豪の美しい道徳劇にも聞こえるこの発言。しかし、社会の頂点に君臨する権力者が見ていた景色は、そんなおとぎ話とは完全なる対極にあった──。

 みんかぶプレミアム連載「一握りの大富豪だけが知っている世界の真実」第4回

目次

葉巻とトランプ。大混乱の深夜に国の運命を弄んだ一人の老人

 映画のワンシーンのような劇的な光景が、1907年のアメリカ合衆国で実際に起きた。重厚な真鍮の扉が閉まる鈍い音が響き、外側から冷酷に鍵がかけられる。窓の外には深夜の暗闇が広がり、部屋の中には追い詰められ、疲労困憊したエリート銀行家たちが閉じ込められている。扉の向こう側で葉巻をくゆらせ、一人静かにトランプ遊びに興じている老人がいる。絶対的な権力を持つ老人が用意した契約書に全員が署名するまで、部屋から出ることは絶対に許されない。

 老人の名前はジョン・ピアポント・モルガン。

 一国の経済が完全に崩壊する瀬戸際において、全能であるはずの政府が全く身動きをとれず、たった一人の民間人が私財と権威だけで国家を救済するという異常な事態の中心にいた人物である。大統領でも政治家でもない一介の銀行家でありながら、金融システムすべてを個人の腕力で支配した男だ。現在のアメリカにおける中央銀行の役割を、生身の人間としてたった一人で担い、世界の運命を書斎で決定づけた怪物と呼ぶべき存在である。巨大企業を次々と生み出し、世界の富を独占したモルガンは、お金に対して大衆とは全く次元の違う認識を持っていた。

 私たちが日々働き、汗水流して手に入れようとしている紙幣や硬貨。大衆にとって、お金とは人生の目的自体であり、幸せを手に入れるための絶対的な手段である。口座の残高が増えることに喜びを感じ、少しでも多くの資産を積み上げるために人生の貴重な時間を切り売りしている。

 社会の頂点に立つ富裕層も同じように、いや、私たち以上に金銭に対する強い執着を持っていると信じて疑わないだろう。お金さえあれば何でも手に入り、どんな問題も解決できるという思考は、資本主義社会を生きる大衆の骨の髄まで染み込んでいる。

金で全ては動かない。頂点に君臨する男が語る意外な優先順位

 しかし、金融の頂点に君臨したモルガンの考えは全く違っていた。モルガンの行動原則と世界観を決定づける、驚くべき証言が歴史的記録に残されている。亡くなる数ヶ月前である1912年12月、アメリカ連邦議会下院のプージョ委員会という場にモルガンは召喚された。少数の銀行家がアメリカの金融や産業を支配している実態を追及するための厳しい調査である。

 委員会が調査した結果は驚くべきものであった。モルガンを中心とする金融グループは、34の銀行や信託会社、32の交通・鉄道システム、24の製造・商業会社、10の保険会社、12の公共事業などにおいて、合計112もの企業において取締役ポストを支配していたことが明らかになったのである。影響下にある資産総額は天文学的な数字にのぼり、実質的にアメリカ経済全体をモルガンを中心とする数人の人間で完全にコントロールしていた。

 委員会の凄腕弁護士は、モルガンに対して厳しい追及を行った。信用や貸し付けの基準は、結局のところ金や財産による支配に基づいているのではないか、と問い詰めたのである。資本主義の社会なのだから、すべてはお金の力で動いているのだろうという、大衆の感覚を代弁するような質問であった。しかしモルガンは真っ向から否定し、歴史に残る発言を放った。

「いいえ違います。第一の条件は『キャラクター(人間性)』です」

 弁護士が「金や財産よりも先にですか?」と重ねて問うと、モルガンは毅然と答えた。

「金や、他の何よりも先です。金ではそれは買えません。私が信用しない人間は、キリスト教界のすべての債券を担保に差し出そうとも、私から金を引き出すことはできません」

 一般社会を生きる人々は、発言を聞いて「大富豪であっても金儲けより道徳や倫理を重んじた素晴らしい人物だ」と美しい道徳劇として解釈しがちである。人間性が何より大切だという、道徳の教科書に載るような教えだと受け取るだろう。しかし、社会を支配する権力者が見ていた景色は、美しいおとぎ話とは対極にある。

いかなる財力でも買えない「目に見えない資本」の冷酷な意味

 モルガンの言う「人間性」とは、単に優しい人間であることや、嘘をつかない善人であることを意味しない。エリート層のネットワーク内において絶対に裏切らないこと、実行力があること、無秩序な価格破壊などの競争を避け、業界の秩序を守る能力があることを指している。極めて実践的で、限られた者たちだけの排他的なパラメーターなのである。

 富裕層は知っている。お金とは、システムが生み出す単なる結果に過ぎず、制度を利用すればいつでも作り出せるという事実を。しかし、巨額の資金を動かすための人間的な信用や強力なネットワークは、長い時間をかけて構築するしかなく、いかなる財力を使ってもショートカットして購入することは絶対にできないのである。

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この記事の著者
小倉健一

1979年生まれ。京都大学経済学部卒業。国会議員秘書を経てプレジデント社へ入社、プレジデント編集部配属。経済誌としては当時最年少でプレジデント編集長就任(2020年1月)。2021年7月に独立。現在に至る。 Twitter :@ogurapunk、CONTACT : https://k-ogura.jp/contact

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