「うちは関係ない」が一番危ない…相続争いの75%が普通の家庭で起きている理由
遺産5000万円以下。マイホームと預貯金しかない「普通の家族」が法廷で争っている——。これは、弁護士法人Authenseが公表した「遺言書年報2025」が明らかにした事実だ。「うちはたいした資産もないから関係ない」という思い込みが、もっとも危ないという。
本稿では、Authenseで相続案件を数多く手がける堅田勇気弁護士の実務経験をもとに、相続争いが起きやすい家族パターンから、金額より「感情」が引き金になる紛争の本質、そして今すぐ取れる予防策まで、4回にわたって紐解いていく。全4回の第1回。
みんかぶプレミアム連載「取り返しのつかない相続」
目次
遺産が少ない家庭ほど、争いが激しくなる
相続争いはお金持ちだけの問題——。そう思っている方が多いのですが、現実はまったく逆です。私が所属する弁護士法人Authenseが公表した「遺言書年報2025」によれば、家庭裁判所に持ち込まれる相続事件の75%は、遺産総額5000万円以下の家庭で起きています。マイホームと少しの預貯金を残した、ごく普通の家族が法廷で骨肉の争いを繰り広げています。
なぜ遺産が少ないほど争いになりやすいのか。私はよく「割合の感覚」で説明します。遺産が10億円あれば、多少の不満があっても1億円以上は手に入ります。でも1000万円の遺産なら、500万円の差は生活に直結します。そこに「あの子だけ親に贔屓されてきた」「自分だけが介護を押し付けられた」という長年の感情が重なると、話し合いは一瞬で決裂してしまいます。
この数字が示すのは、相続対策は富裕層だけのものではないということです。そしてより重要なのは、「感情の重なり方」こそが問題の核心だという点です。
「お金の問題」ではなく「感情の問題」だった
私が相続案件で繰り返し目にするのは、親が生前に特定の子どもを「贔屓」していた家庭で紛争が激しくなる光景です。「幼い頃から長男だけが可愛がられ、次男には学費も出してもらえなかった」「母親の介護は自分だけが担ったのに、遠くに住む兄は何もしなかった」……。こうした積み重ねが、遺産分割の話し合いを「過去の清算の場」に変えてしまいます。
争いが起きるのは、ほとんどの場合「親が亡くなった後」です。それまで表面上うまくやっていた兄弟姉妹が、親という「接着剤」を失った途端に感情を爆発させます。「今まで一度もまともに話し合えなかった相手と、初めて膝を突き合わせるのが相続の場なんです」と私はよくお伝えしています。そうした家族に対して、法律は「公平な分割」を求めます。でも30年・40年分の感情は、法律の条文で清算できるものではありません。
さらに問題をこじらせるのが、「証拠のない主張」です。生前に親が「将来はお前に全部やる」と口頭で言っていたとしても、書面がなければ法的にはほぼ無効です。「自分の言い分は正しいはずなのに証拠がない」という状況に何度もぶつかるうちに、交渉はどんどん泥沼化していきます。感情の問題が、法的な壁にぶつかることでさらに深刻になるのです。