認知症になれば「家を売りたいのに売れない」…そうなる前に備える家族信託と任意後見
「持ち主が認知症では家が売れません」――不動産屋にそう告げられ、3年間身動きが取れなかった家族がいた。しかし実は、認知症になる”前”に手を打っておけば、この事態は避けられたと司法書士の村山澄江氏は言う。
前回は、成年後見制度の仕組みと、「後見人を自分で選べるとは限らない」というリスクについて聞いた。今回は、その手前で打てる対策――家族信託と任意後見契約について、それぞれどんな人に向いているのかを聞く。全4回の第3回。
みんかぶプレミアム連載「取り返しのつかない相続」
親が認知症になった後も、法定後見人をつけずに実家を動かせるようにする方法

村山澄江さんご提供資料
親が認知症になる前に相続の対策をしたい方には、「家族信託」もしくは「任意後見」を契約する方法があります。
「家族信託」とは、財産を任せたい人(委託者)と、任せられる人(受託者)、利益を受け取る人(受益者)という三役で構成される契約です。
イメージとしては、家族間で「信託ボックス」を作り、その箱に入れた財産だけを受託者(子ども等)が管理できる、という仕組みです。全財産について本人の代理する後見人とは異なり、あくまで特定の財産の管理権限を引き受ける形になります。なお、原則として契約後すぐに管理権限は受託者に移ります。
受託者となる人は、委託者(頼む側)が信頼できる人であればよく、必ずしも家族である必要はありませんが、一般的には家族に託すことが多いので、家族信託といわれています。

村山澄江さんご提供資料
「名義」と「管理」は受託者に移りますが、財産の「価値」にあたる受益権は親が保持し続けるため、贈与にはあたらず、贈与税は発生しません。登記簿には「〇年〇月〇日信託」という表記で反映され、受託者がどこまでの権限を持つか(売却できる、賃貸できる、借り入れできるなど)が明記されます。
家族信託の契約をすると、将来、親がいよいよ施設に入る必要が出てきたタイミングでになり家を売ろうとなった場合、受託者が単独で家を売却できます。売却で得たお金は、信託専用の口座(信託口口座)で管理することが義務付けられており、受託者自身の財産とは明確に分離されます。売却で得たお金は委託者のものなので、受託者は、ここから施設費用などを払い、委託者のために管理していくことになります。
家族信託の契約サポート費用は、50万円前後が目安となります。専門性が高い分野なので、全体のスケジュールや契約書の作成を司法書士等への専門家へ依頼することになるためです。唯一の大きな資産が不動産であり、施設費捻出のために将来的に売却する可能性がある人は検討するとよいでしょう。
親としては大切な家という資産を「家族や信頼できる人に任せられる」というメリットがあり、子どもとしても「親が認知症になった場合も、家庭裁判所の関与もなく家を売却できて、施設入居費用に回せる」というメリットがあります。
ただし、家族信託には注意も必要です。信託契約は、契約時から相続が発生するまでの何年、何十年にもわたって伴走する契約であり、最終的に「信託ボックス」に入れた財産をどう分けるかという出口まで見据えて設計する必要があります。つまり相続の準備も兼ねているのです。そのため「将来、親が認知症になったら、家が売れずに困るのが嫌だから」と簡単に決めるのではなく、親の希望や家族の状況をよく話し合った上で、家族信託が本当に最適かどうかを見極めることが欠かせません。