世界最強の米軍でも「勝てない」イランの底力を見誤らせた“反イラン産業”とは
圧倒的な軍事力を持つアメリカは、なぜイランを屈服させられないのか。今回の戦争が明らかにしたのは、軍事力の大小だけでは勝敗が決まらないという現実だ。また、アメリカの分析には、ある“誤算”があった。東京大学公共政策大学院教授で、地経学研究所長の鈴木一人氏が、21世紀の戦争の形となぜ戦争が終わらないのかについて、読み解く。
みんかぶプレミアム連載「鈴木一人 地政学×経済安全保障=地経学」
「すぐに停戦」は甘い考え
現在のイラン戦争は、攻撃→兵器在庫の減少→交渉→合意→合意破棄→攻撃再開という一定の周期を繰り返すものへとなりつつあります。
開戦当初から「11月に中間選挙があるから、トランプはすぐに戦争を終わらせるはずだ」という指摘もありましたが、私はすぐに戦争が終わるとは考えていませんでした。むしろ中間選挙の前に、アメリカが激しい攻撃を加える可能性もあると見ています。
というのも、いまアメリカ国民にとってイラン戦争は、親兄弟や友人が大規模な地上部隊として投入される戦争とは異なる 、「遠くの戦争」です。そのためアメリカ国民の関心は、もっぱら原油やガソリンの価格に寄せられています。
攻撃が再開されれば原油やガソリンの価格は上がり、交渉から合意の段階では下がります。国民は、原油・ガソリン価格が下がってくれば安心します。つまり、攻撃していま価格が上がったとしても、中間選挙のときに下がっていればいいわけです。
また、これまでに行われた中間選挙の予備選では、トランプは、共和党内の“アンチトランプ”の候補者の選挙区に刺客を送り込み、勝利しました。これは、いまなおトランプが党と議会に対して力を持っていることを示します。だからこそ、トランプは「中間選挙はそこまで大きなファクターではない」と考えている可能性があります。
戦争権限法はトランプを止められない
早期停戦論の根拠の一つに、アメリカの「戦争権限法」がありました。これは、軍事行動を60日以上継続するには議会の承認が必要と定めたものです。
しかし、トランプは、一度停戦したことで、「軍事行動に関する期間のカウントが事実上リセットされた」と勝手に解釈している可能性があります。本来厳格に解釈されるべき法律を、トランプがねじまげているのです。
本来であれば、議会がこの点を問題にしなければなりません。7月23日には、下院が、軍事行動を継続する前に議会の承認を得るよう求める決議を可決しましたが、現実にはトランプの行動を止められていません
なぜ議会がトランプの行動を止められないのか。その理由は二つあります。一つは、やはり中間選挙です。上下両院で共和党が多数を占める中、議員にとってみればいまトランプ大統領を怒らせれば、党内の支持や選挙支援を失うおそれがあります。
また、アメリカとイランは長年にわたって敵対的な関係にあります。議員としても、トランプ政権の軍事行動に反対することで、「イランの味方をしている」と見られることは避けたいのです。
こうした国内政治上の事情から、議会がトランプ政権の軍事行動に強い歯止めをかける可能性は、現時点では高くないと考えられます。