半導体の覇権をめぐる熾烈な戦いが起きている……注目は「人工ダイヤモンド」
AI・半導体株は、本当にバブルなのか。実需を伴うAI投資が拡大する一方、半導体の設計、製造、装置、材料をめぐり、アメリカを中心とする国際分業と、自前化を急ぐ中国との競争も激しくなっている。そんな半導体をめぐる現状を、東京大学公共政策大学院教授で地経学研究所長の鈴木一人氏が解説する。
みんかぶプレミアム連載「鈴木一人 地政学×経済安全保障=地経学」
AIバブルはドットコムバブルとは異なる
「AI・半導体株はいまバブルなのか」。昨今、このテーマが常に議論となっています。このときよく引き合いに出されるのが、1990年代後半から2000年にかけて起きた、インターネット関連株の株価の異常な高騰とその崩壊が起こったドットコムバブルです。
ですが、この二つには大きな違いがあります。まず、AI・半導体株には実需がある点。「どうやら世の中を変えてくれるらしい」といった幻想だけでなく、実際にデータセンターは建設されており、GPU、メモリ、電力設備への需要も増えています。
参入障壁も異なります。ドットコムバブル期には、IT業界への参入にそこまで初期費用がかからないこともあって、多くの企業が参入しました。一方、半導体業界に足を踏み入れようとすると、多額の投資費用がかかります。「やりたいから」といって手を出せるわけではないのです。
いまAI・半導体株は急騰、急落を繰り返していますが、急落はするけれども、元の価格までには落ちない。この株価の動きが、実需の強さを表していると考えられます。
ただし、実需を上回る期待が株価へ織り込まれている可能性はあります。また市場全体を見ても、AI・半導体銘柄だけに資金が極端に集中している状態は、健全とは言えません。
半導体は西側諸国>中国
半導体をめぐる国際関係としては、アメリカ・台湾・日本・オランダ・韓国の5カ国が、圧倒的な力を持っています。そして、この分業体制の外側で、自前化を進める中国の存在感も増しています。
半導体をめぐり、近年圧倒的に変化したのはAIの役割です。簡単に言えば、高性能のAIを開発できるかどうかは、半導体の数で決まってしまうことが明らかになってきたのです。
つまり「高性能な半導体を大量に持つ者が、AIを制する」世界に突入しました。そのため各国と企業は、AI向け半導体の確保へ巨額の資金を投じるようになりました。
ただし半導体産業の最大の特徴は、水平分業が実現している点です。かつて日本の電機メーカーは、設計から製造、組み立てまでを1社で手がける垂直統合型でした。
しかし、回路の微細化が進み、半導体を作るための機械はものすごく高価なものとなりました。1台数百億円する機械もあり、TSMC の熊本第一工場は建設に8000億円、北海道のラピダスは1兆2000億円かかっているとも言われています。この規模になると、1社ですべてを抱えることは難しい状態になります。
そこで、設計に特化するファブレス企業と、製造を請け負うファウンドリーが分かれました。このモデルを確立した代表的存在と言えるのが台湾のTSMCです。
現在は、アメリカ企業が先端チップを設計し、台湾で製造。日本とオランダの企業が製造装置・材料を供給し、韓国企業がメモリを供給するという国際分業が成立しています。
この構造では、各国がそれぞれにチョークポイントを握ります。アメリカだけでも、台湾だけでも、完全な先端半導体はつくれません。半導体は、一国の「自給自足」より、同盟国や友好国を含む供給網全体の強さが問われる産業となりました。
一方で中国は、この分業に依存せず、設計から製造までを国内で完結させようとしています。しかし先端分野では、アメリカの設計力、台湾の製造力、日本・オランダの装置、韓国のメモリを一度に追う必要があり、容易ではありません。
先端半導体だけでなく、中国はレガシー半導体を独占したいとの思いも持っています。レガシー半導体については、確かに中国の存在感は大きい。しかしその危険性に気付いた西側諸国がしっかりと対応を進めたため、現状は西側諸国が完全に中国依存に陥っているという状況にはなっていません。