「ジェネリック医薬品は安く売るほど首が絞まる」負のスパイラル…医療費削減の裏で削り取られた製造現場の余力
医療費抑制の国策のもと、約15年で普及率35%から80%へと急拡大したジェネリック医薬品。だが、安易な参入と撤退の難しさが生んだ「少量多品目」の構造は、メーカーから増産の余力を奪い去った。元プレジデント編集長で作家の小倉健一氏が、毎年行ってきた薬価改定の弊害や2026年に公表された安定供給データを提示。「安い薬を増やす段階」から「止めずに作れる産業」への転換期において、低薬価でも利益を残し増産対応できる企業の強みを分析する。
みんかぶプレミアム連載「小倉健一の新保守宣言」
出荷制限の66%が後発医薬品 厚労省報告書が明かした供給網の脆弱性
少しだけ昔の話をしたい。2024年5月、日本で使われる医薬品の23%、3,906品目が出荷停止か限定出荷になっていた。うち2,589品目、66%が後発医薬品、いわゆるジェネリックだった。
この数字は厚生労働省が2024年5月22日にまとめた報告書に出てくる。後発品の供給不足が長引いたため、厚労省が専門家や業界関係者を集め、13回にわたって原因を調べたものだ。読み進めると、相次いだメーカーの不祥事だけでは説明できない、日本の薬の作り方そのものの弱さが見えてくる。
発端は2020年の小林化工の事件だった。同社が製造した抗真菌薬に睡眠誘導剤が混入し、健康被害が出た。その後も品質管理の違反が続き、2024年4月までに21社が業務停止や業務改善などの行政処分を受けた。経営管理や社員教育が甘かった会社の責任は重い。
問題を大きくしたのは、1社が止まると他社まで止まりやすい生産体制だった。ある薬が出荷停止になると、同じ成分、同じ規格の薬を作る別の会社へ注文が殺到する。受け皿になる会社も工場を普段から高い稼働率で回しているため、急に2倍、3倍には増産できない。在庫が尽きるのを防ぐため、今度はその会社も出荷量を絞る。厚労省は、出荷停止になった品目の数倍に限定出荷が広がったと記している。
15年間で35%から80%へ急拡大 国策の医療費抑制が生んだジェネリック市場
政府は長年、医療費を抑えるためジェネリックの利用を強く後押ししてきた。特許が切れた先発薬と同じ有効成分を使い、安く売る薬である。後発品がある薬のうち、実際に後発品が使われる割合は約15年間で約35%から80%まで上がった。
市場は大きくなったが、メーカーは強くならなかった。2023年の後発品企業は190社。主に後発品を扱う105社のうち86社が中小企業だった。数量シェアでは上位9社で50%を占め、残り181社が残り半分を分け合う。さらに、取扱品目が9品目以下の会社が49%ある一方、51品目以上を抱える会社も24%ある。
後発品業界で問題になっている「少量多品目生産」とは、この姿を指す。同じ会社が多くの薬を少しずつ作れば、薬を切り替えるたびに設備の準備や洗浄が必要になる。製造記録や品質検査も増え、工場は忙しいのに生産量は伸びにくい。別会社の薬が止まって注文が流れ込んでも、すぐ増産できない。
2005年薬事法改正が招いた乱立 安易な参入と甘かった政府の能力審査
この形を広げたのも制度だった。2005年の薬事法改正で製造委託や共同開発がしやすくなり、後発品を市場に出す費用が下がった。厚労省の報告書は、参入する会社に十分な製造能力を求め、安定供給できる量を確保させる仕組みを政府が取ってこなかったとも書いている。
参入した後は事情が逆になる。薬価に載った後発品には少なくとも5年間の安定供給が求められ、医療上必要ならその後も簡単にはやめられない。新しい薬は出しやすかったのに、売れなくなった薬を整理するのは難しかった。品目が積み上がり、工場は少量多品目になっていった。
そこへ薬価の引き下げが続く。薬価は、健康保険で薬を使うときに国が決める価格である。実際には病院や薬局がそれより安く仕入れることがあり、国は市場でいくらで売られているかを調べ、次の薬価を下げる。後発品は同じ成分、同じ効能なので違いを出しにくく、値引き競争にもなりやすい。安く売れば、その価格が次の薬価に反映される。