サナエトークン、金融庁も実態把握へ!この騒動が抱える本当の闇とは…被害総額25億円は本当なのか?経済誌元編集長が疑義

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 2月末、特定のYouTubeチャンネルが主導するプロジェクトから「サナエトークン(SANAE TOKEN)」という暗号資産(仮想通貨)が発行された。公式サイトには高市早苗首相のイラストが掲載され、あたかも首相公認のプロジェクトであるかのように宣伝されたことで、価格が一時的に急騰した。しかし、2026年3月2日、高市首相本人が公式Xにおいて「私は全く存じ上げません」「我々が何らかの承認を与えさせていただいたこともございません」と関与を完全に否定する声明を発表した。この高市首相本人による明確な否定をきっかけに、サナエトークンの価格は暴落し、市場は大きな混乱に陥った。この問題について経済誌プレジデントの元編集長で作家の小倉健一氏が解説する――。

目次

被害総額25億円は本当なのか

 今回の騒動の中で、一部のインフルエンサーやSNSの匿名アカウントが「サナエトークンの発行者は市場から25億円を荒稼ぎした」「被害総額は25億円だ」と発信し、それが広く拡散されている。しかし、この「25億円」という数字はブロックチェーンの取引メカニズムを根本的に誤解した不正確な情報である。このように、検証されていないフェイクニュースがインフルエンサーの手によって真実かのように拡散されてしまうSNSの現状も、この騒動における一つの「闇」と言える。

 なぜ「25億円」という数字が独り歩きしたのか。この「被害総額25億円」という情報がいかにDEX(分散型取引所)の仕組みを無視した誤りであるかについて、山野祐介氏は自身のX記事(3月6日)にて、次のように核心を突いた解説をしている。

「『25億円』というのはトークン1枚あたりの価格×発行枚数を掛けた時価総額が最大で25億円相当になったというだけで、サナエトークンの発行者が25億円を市場から抜いたということではありません(中略)時価総額の計算式は『トークン1枚の現在価格 × 総発行枚数』です。プールに1万円しか入っていなくても、買いが殺到して価格が100倍になれば、時価総額は『100倍になった価格 × 総発行枚数』で計算されるので、実際にプールに入っている金額とはまったく別の数字になります。(中略)つまり、時価総額のピーク値=市場から抜いた金額、という等式は絶対に成立しません。市場に入金された以上の金額を抜くことは物理的に不可能です」(山野祐介氏のX記事より引用)

サナエトークンは「自由」の裏返しであり、完全な自己責任の世界

 山野氏が指摘する通り、DEX(分散型取引所)における価格は「流動性プール」と呼ばれるインターネット上の「池」の比率で自動計算される。池に最初に入れる資金が数十万円程度の少額であっても、少し買い注文が入るだけで価格は簡単に跳ね上がる。「時価総額」は単なる計算上の数字に過ぎず、実際に25億円の現金が市場に投入されたわけでも、発行者が25億円を現金化して持ち逃げしたわけでもない。市場から抜き取れる最大の金額は、買い手が実際に支払って池に貯まった金額だけである。

 普通の仮想通貨の取引所(例えばコインチェックなど)は会社が運営するCEX(中央集権型取引所)であり、利用者を守るサポート体制がある。一方、サナエトークンが取引されたDEX(Solanaブロックチェーン上のRaydiumなどのような分散型取引所)には、運営する会社や管理者が存在しない。プログラム(スマートコントラクト)がすべての取引を自動で処理している。

 DEX(分散型取引所)は完全に自由な世界である。世界中の誰でも、どんなコインでも自由に上場させることができ、国境を越えて瞬時に取引ができる。しかしその反面、詐欺師に騙されてお金を送ってしまっても誰も助けてはくれない。サナエトークンのような危険なコインが誰の審査もなく簡単に売買できてしまうのも、この「自由」の裏返しであり、完全な自己責任の世界である。

「仮想通貨を作るだけ」であれば直ちに違法とはならない

 今回の騒動を受け、「個人で仮想通貨を作ること自体が犯罪だ」と考える人もいるかもしれない。しかし、現在の日本の法律(資金決済法)では、「ただ仮想通貨を作るだけ」であれば直ちに違法とはならない。

「Pump.fun」のような海外のサービスを使えば、数百円の手数料を払うだけで数分でオリジナルのコインを発行できる。誰でも自分の価値をインターネット上で手軽に表現できる技術そのものを、日本の法律は禁止していない。

 金融庁が厳しく規制しているのは、そのコインを「仕事(業)」として不特定多数に売買・交換・管理する「暗号資産交換業」である(資金決済法第2条第7項・第63条の2)。作ったコインを日本国内で大々的に宣伝し、継続的に販売して利益を得ようとすれば、金融庁の許可を得ていない「無登録営業」として違法になる可能性が高い。

金融庁も国会質疑等を通じて本件の実態把握に

 さらに、著名人の名前やイラストを無断で使い「公認である」と嘘をついて資金を集める行為は、パブリシティ権の侵害や詐欺罪に問われる。現在、金融庁も国会質疑等を通じて本件の実態把握に乗り出している。

 また、「仮想通貨はすべて価格が乱高下する詐欺まがいのものだ」というのも偏見である。

 サナエトークンのようなものは「ミームコイン」と呼ばれ、価値を裏付ける財産が何もない。ただの投機(ギャンブル)の対象であり、価値が突然ゼロになるリスクを常に抱えている。

 一方、日本には「JPYC」のような極めて安全なデジタル通貨も存在する。これは法律上「電子決済手段(ステーブルコイン)」と呼ばれ、常に「1 JPYC = 1円」の価値を保つ。発行会社(金融庁登録業者)が、利用者から預かったお金を銀行預金や日本国債などで100%裏付け資産として保管することが法律で義務付けられているからだ(資金決済法に基づく分別管理義務)。これらを同じ「怪しい仮想通貨」として十把一絡げに批判するのは、技術に対する正しい理解とは言えない。

「25億円の被害」といった扇情的な情報に踊らされないように

 サナエトークンのように、著名人を騙って投資家を誤認させる悪質な行為は、法律に基づいて徹底的に調査し、厳しく取り締まるべきである。金融庁が利用者保護の観点から監視を強化する姿勢は評価できる。

 しかし、「犯罪が起きたから」といって、「DEX(分散型取引所)をすべて禁止しろ」「個人でのトークン発行を違法にしろ」と過剰な規制に走るべきではない。DEX(分散型取引所)やスマートコントラクトは、管理者がいなくても世界中の人々が瞬時に低コストで価値を交換できる、次世代の金融インフラになり得る革新的なテクノロジーである。一部の悪用例を理由に技術そのものを否定すれば、日本は世界の金融イノベーションから完全に取り残されてしまう。

 私たち利用者に求められているのは、SNS上の「25億円の被害」といった扇情的な情報に踊らされず、山野氏が指摘するような正しい技術的仕組みや、金融庁の公式発表を確認する情報リテラシーである。「本当の闇」である詐欺的な手口や無責任な情報拡散は断固として排除しつつ、誰もが自由に挑戦できる「分散型金融」のテクノロジーの芽は、過剰な規制で摘み取ることなく社会全体で冷静に育てていくべきである。

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この記事の著者
小倉健一

1979年生まれ。京都大学経済学部卒業。国会議員秘書を経てプレジデント社へ入社、プレジデント編集部配属。経済誌としては当時最年少でプレジデント編集長就任(2020年1月)。2021年7月に独立。現在に至る。 Twitter :@ogurapunk、CONTACT : https://k-ogura.jp/contact

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