第三十九話「見えない道の先」連載小説「奪われるースパイ天国・日本の敗戦ー」
スパイ防止法がないこの“天国”・日本で、知らない間に国が「奪われる」──。
表向きの歴史やニュースの裏側に潜む、冷酷な国際諜報戦と、個人の運命が国家間の巨大な陰謀に巻き込まれていく壮大な安全保障サスペンス小説、ここに爆誕。
舞台は、女性初の内閣総理大臣・高地きみえが熱狂的な支持を背景に「強い日本」を目指す日本。彼女は長年の懸案である日本人拉致被害者の奪還を決意し、極秘裏に北朝鮮の金正恩総書記との会談に臨む。しかし、その外交交渉の裏側では、すでに北朝鮮の体制に「影」が差し込み、巨大な隣国・中国の思惑が絡み合っていた。
第三十九話「見えない道の先」
翌朝、今泉謙太郎と坂崎翔の2人は予想外の展開に戸惑いながらも、期待に胸を膨らませていた。高麗ホテルの窓からは平壌の街並みが見え、雲ひとつない青空が広がっていた。「まさか本当に金正恩総書記に会うことになるとは・・・」。坂崎がつぶやくと、ノックの音が響いた。ドアを開けると李天佑が立っていた。
「準備はいいかね? 金正恩総書記が待っている。急ぐぞ」。天佑が用意した黒塗りの車に乗り込んだ3人は、朝鮮労働党の最高幹部のみが知る平壌郊外にある施設に向かった。坂道を登るにつれ、周囲の警備が厳しくなり、通行人も少なくなる。車が静かに停車し、促されるまま車から降りると天佑が2人に耳打ちした。
「ここから先は発言に注意しろ。特に政治的な発言は絶対禁止だ」。広大な玄関ホールを抜け、長い廊下を進むと豪華な装飾が施された大きな会議室に到着した。中央には楕円形のテーブルがあり、すでに何人かの北朝鮮高官とみられる男たちが席についていた。そして最も奥に座るのが、金正恩総書記だった。