1億5000万円の魚が一夜で消えた。それでも養殖を続けた女性社長の「会社を強くする決断」
急性骨髄性白血病を乗り越え経営の現場に戻った株式会社ふく成の平尾有希氏。その後も危機は続き、熊本地震、コロナ、水害、赤潮による養殖魚の全滅が襲う。出荷まで数年を要する養殖業にとって、失った売上はすぐには戻らない。2〜3年の赤字を耐え抜いた判断と、経営を好転させた技術について聞いた。全4回の第3回。
みんかぶマガジン連載「バリキャリ女性社長のワークライフ・ルール」
生け簀の魚が全滅。一夜で1億5000万円が消えた
平尾氏の経営者人生は、危機の連続だった。本人も苦笑まじりに振り返る。
「白血病を乗り越えたかと思えば熊本地震があって、コロナがあって、そして水害もありました。その後は赤潮が6年ぐらいずっと続いています」
赤潮は、プランクトンが異常に増えることで海の環境が変わる現象を指す。2022年、その被害が最大の形で現れた。
「養殖場の生け簀の魚が、すべて赤潮で全滅したんです。1億5000万円ぐらいが一気に飛びました」
育てている最中の魚がまとめて失われれば、在庫がゼロになるだけでは済まない。餌代も人件費も、それまで注ぎ込んできた時間も労力も、まとめて消える。
2〜3年の赤字。それでも彼女が魚を仕入れて売り続けた理由
養殖業の難しさは、失った分をすぐには取り戻せない点にある。
「真鯛は出荷するまでに3年かかります。トラフグでも2年です。それをまた一から養殖し直さなければいけないので、その間はずっと投資をしながら、他の業者から魚を買って、それを売るという形になります。そうすると利益は半分以下になるんですよね」
自社で育てた魚を売れば、生産から販売までの利益が丸ごと手元に残る。他社から仕入れて売れば、その差益しか残らない。それでも、取引先への供給を止めない道を選んだ。
「利益が薄くても続けていかなければいけないと、その手段を取りました。会社としては本当に2年か3年はずっと赤字です。銀行に支えてもらいながら、周りに協力してもらいながらやってきました」
ここで効いたのが、平尾氏が22歳で選んだ回り道だった。信用がないなら自分が銀行員になればいい。そう考えて金融の現場に身を置いた経験が、赤字が続く局面で金融機関と向き合う土台になっている。父の代からの取引に頼るのではなく、自ら数字で説明できる経営者になっていたことが、資金の支えを引き出す力になった。