なぜ、東京の金持ち家庭は「大学付属校」を選ぶのか。庶民に見えないメリットの正体
日本の受験界において、首都圏で独自に発達したエリートコースがある。大学付属校だ。
早稲田や慶應、MARCH(明治、青山、立教、中央、法政)には、系列の中学校や高校があり、一部は小学校も設置している。一度入学できれば大学まで、ほぼ無条件で進学が可能だ。
「付属校といえば、かつては大学受験を避けられることが、最大のメリットだと捉えられていました。ところがAIの登場で学力の捉え方そのものが変わりつつあるいま、一貫教育の魅力があらためて見直されています」
そう語るのは進学塾VAMOSの代表で、『AIに潰されない頭のいい子の育て方』などの著者である富永雄輔氏だ。
開成や桜蔭のような「東大進学者数を競う進学校」にはない独自の魅力があるという大学付属校。その強みについて聞いた。連載全3回の第1回。
首都圏にだけ存在するエリートコース
首都圏の受験がほかの地域ともっとも違う点は、「大学付属校」の存在でしょう。早稲田、慶應、MARCH(明治、青山、立教、中央、法政)などの有名私立大学には付属の小学校、中学校、高校があり、どれも最難関クラスです。
小学校受験では、2026年度入試で慶應義塾横浜初等部が志願者倍率12.6倍、慶應義塾幼稚舎が10.0倍、早稲田実業学校初等部が11.2倍、学習院初等科が9.0倍と、少子化のなかでも高い水準が続いています。志願者数を公表していない青山学院初等部も、7倍近いと見られています。
かつて付属の小学校には「経営者や芸能人がわが子を通わせる」という閉鎖的なイメージがありましたが、近年は一般家庭にまで裾野が広がっています。
中学受験でも付属校の人気は続いており、開成・麻布・武蔵・桜蔭・雙葉・女子学院といった御三家を狙える学力帯の家庭が、付属校を第一志望に据えるケースも増えています。
高校受験の場合、公立と私立で科目数や内申書の扱いが異なるので、単純な比較は難しいのですが、慶應義塾高校や早稲田実業高校、早稲田大学本庄高等学院などの偏差値は、横浜翠嵐高校や日比谷高校、浦和高校といった公立トップ高校を上回っています。
MARCHの付属も、公立の上位校と肩を並べる難易度です。明大明治や青山学院高等部、立教新座、法政第二の偏差値は、都立西や都立立川、浦和第一女子、湘南高校といった公立の上位校と同じ水準にあります。
関係者にだけ見えるメリット
関西にも関関同立(関西学院、関西、同志社、立命館)の付属校がありますが、公立人気の高さもあってか、ここまでの人気にはいたっていません。
首都圏以外の人には、この受験文化は不思議に映るかもしれません。
「お金のかかる私立より、進学実績の良い公立のほうが良いのでは」「優秀な子なら、東大や旧帝大、医学部を目指せる進学校に通わせるほうが可能性は広がるはず」
こうした主張にも一理あります。しかし、付属校を選ぶ親御さんは違う目線を持っており、大きく2つに分かれます。
1つは、親自身が付属校の出身者というパターンです。大学受験がないぶん部活や語学に打ち込み、同じ仲間と中高大の10年近くを過ごし、大学スポーツを応援した。そうした経験が人生のプラスになったと感じ、わが子にも与えたいと考えています。
もう1つは、親自身が地方から上京してきたパターンです。地元の公立高校から東京の有名大学に進み、大企業に就職した方が多く、東京でわが子を手堅く育てたいと、歴史と伝統のある学校を選ぶ傾向があります。
前者は確信を持って選び、後者は不安を消すために選ぶ。動機は異なりますが、この2つの流れがいまの付属校人気の土台になっています。
まったく異なる2つの層を惹きつけているのは、小学校から大学までを貫く一貫教育と文化的な一体感です。そのメリットは、外からは見えにくいかもしれません。
世の中の雰囲気に左右されず、建学の理念に基づいた芯の通った教育を受ける。憧れの著名人OBの講演を聞き、甲子園や箱根駅伝で母校を応援し、親が通った教室で学び、大学名の入ったウェアで部活に励む。そうして10年をともにした仲間やOB・OGとの繋がりが生まれます。
その積み重ねが、母校への帰属意識を形づくります。
「母校愛なんて古い」「学閥なんて過去の遺物だ」という意見もあるでしょう。しかし、コミュニティとしての学校の価値は、今後ますます高まっていくと私は考えています。