「2000万円問題」の大嘘…ゆとりある老後のために必要な「本当の金額」と「正しい計算方法」

太田創

 2019年の金融庁の報告書によって急浮上した「老後2000万円問題」。株式会社GCIアセット・マネジメント、エグゼクティブ・マネジャーの太田創さんは、「老後にゆとりある生活を送るには、3000万円が必要」と警鐘を鳴らす。太田さんが語る、無理なく3000万円を貯める上で欠かせないこととは――。全4回中の1回目。 

老後に必要なのは「3000万円」

 資産形成のゴールは、やはり自分自身の老後のためでしょう。定年後の老後生活は、それまで築いてきた資産を少しずつ取り崩し、それに公的年金を合わせて、日々の生活費にするのが現実的です。では実際のところ、老後に必要なお金はいくらあればよいのか。こちらは概算になりますが、生命保険文化センターの調べによると、65歳で定年を迎えた後、平均で何年生きるのかを示す「平均余命」は、男性が約20年。女性が約25年と言われています。 

 一般的に、老後の生活で必要とされるお金は、夫婦で月々22万円。ゆとりある生活を送ろうとするならば、月々35万円と言われています。25年間ずっと月々35万円でゆとりある生活を送るという前提で計算すると、65歳以降、必要とされる金額は1億500万円になります。 

 「1億円!?」と驚かれる人もいるでしょうが、実際は年金を受給できますから、その分を差し引けます。モデル年金の受給額は毎月22万1千円ですから、これを25年間、受給し続けるとした場合、受給できる年金の総額は約6600万円。この額を1億500万円から差し引くと、3900万円程度足りないことが分かります。この3900万円が、自分の老後のために用意するべきお金の額になります。 

 「いやいや、3900万円は絶対に貯まらない」という方もいらっしゃるでしょう。確かに3900万円を、ゼロからつくるのは大変かも知れませんが、幾ばくかでも退職金が得られるとしたらどうでしょうか。退職金の額を保守的に見積もり、その額が900万円だとしたら、自助努力でつくらなければならないお金は3000万円まで圧縮できます。 

預貯金では「月々8万円超の貯金」が必要に

 35歳で資産形成を始めたとして、定年を迎える65歳までの時間は30年間。30年で3000万円の資産を築くことができるのでしょうか。この目標を達成するために預貯金のみしか使わなかったとしたら、そして、預貯金の適用利率が今のまま続くと仮定すると、30年間で3000万円をつくるためには、毎月8万3000円という決して少なくない金額を積立に振り向けなければなりません(ちなみに15年後に3000万円をつくろうとしたら、月々の積立額は16万7000円になります)。 

 でも、もし運用利回りをもう少しだけ高くできたらどうでしょうか。運用利回りが1%に上がるだけで、毎月の積立額は1万円も圧縮できます。年平均5%で運用できれば、月々の積立額は3万6000円になります。こうなると「3000万円」という目標額が、かなり現実味を帯びてきたでしょう。30年という時間があれば、3000万円は十分、射程距離なのです。 

 さて、問題はどうやって運用するかです。今の金利情勢で、元本割れしないように運用しようとしたら、銀行預金か、もしくは個人向け国債で運用するしか方法はありませんが、現在の利率では資産形成になりません。 

 月々の積み立て負担を少しでも軽くするためには、より高いリターンが期待できるもので運用しなければなりません。もちろん、年3%、あるいは年5%といったリターンを得るためには、何らかのリスクを取らなければなりません。端的に申し上げますと、「価格変動リスク」を取ることによって、より高いリターンを目指すのです。 

「投資信託は無意味」と考える人へ伝えたいメリット

 では、価格変動リスクのある運用対象には何があるのでしょうか。もっともイメージしやすいものだと株式ですが、他に投資信託、FX、貴金属や農作物の先物を売買するコモディティ、不動産投資などが価格変動リスクのある運用対象に含まれます。 

 種類が多くて選べませんか。大丈夫です。この中から選ぶべき運用対象はたったのひとつしかありません。それは「投資信託」です。投資対象を「分散」させるため、高いリスクを取らずともリターンが期待できるのが大きな特徴です。また、100円や1000円といった少ない資金から始められる利便性の高さもあります。手間をかけずにストレスなく3000万円の「プライベート年金」をつくるには、投資信託が一番です。 

 「投資信託より個別株のほうが儲かるのでは」という意見もありますが、個別株は、知識と経験を積んだファンドマネジャーですら利益を出すのが難しい世界です。株式の場合、まず銘柄を選ぶのにかなりの手間がかかります。買った後もずっと投資先企業の業績などをチェックし、常に持ち続けるべきか、利益確定、あるいは損切りするべきかという判断を迫られます。過度に負担が大きい運用は、サラリーマンにとって現実的ではないでしょう。 

 中には、「積み立て投資は無意味」と主張する人もいます。その理由は、「積み立て投資をしたからといってリスクが減るわけではない。将来、値上がりすると考えているから投資するわけで、分割して投資するよりも、一括で投資した方が効率的だ」というものです。一理あります。確かに、積み立て投資をしたからといって、運用対象のリスクそのものが低減されるわけではありません。 

 また、値上がりする前提で投資するのだから、分割で購入するよりも、株価が割安と思われる水準で、一括購入した方が効率的であるというのも、その通りです。それでも、特に元資金に乏しい若い人が投資信託で資産形成をする場合は、積み立て投資で臨むのが最適であると考えます。 私が積み立て投資をオススメする理由を説明しましょう。 

 積み立て投資によって得られる「ドルコスト平均効果」は、メリットのひとつ。ドルコスト平均効果とは、同じ投資信託を「毎月等金額」で購入し続けることで得られるもので、平均の買い付け単価を引き下げる効果のことです。 

 たとえば1万口あたりの基準価額が1万2000円で、これが1万円まで値下がりしたとしましょう。1万2000円で10万円分を一括購入した人は、どうなるでしょうか。この場合、1口あたりの購入価格は1.2円なので、10万円分だと8万3333口購入できます。これが1口=1円まで値下がりした場合、10万円が8万3333円になります。つまり1万6667円の損失です。 

 では、これを毎月2万円ずつ5回に分けて購入したことにしましょう。一括で買った時と同様、最初の買い付け時の基準価額は1万2000円で、5回目の基準価額は1万円ですが、分割で買っているので、買付単価を平均化できます。 

 ちなみにこのケースだと、一括購入と同じく投下した金額は10万円ですが、買付口数は10万2937口になります。これに対して一括購入の場合の買い付け口数は、投下資金10万円に対して8万3333口。この時点で、口数は1万9604口の差があります。これが効いてくるのです。これは平均の買付単価を計算すると分かります。一括購入した場合の買付単価は1万2000円で変わらずですが、分割で購入した場合は、買付単価10万円に対して買付口数が10万2937口ですから、平均の買付単価は1万口あたり9715円になります。 

 一括購入の場合、基準価額が1万円まで下がった時点で1万6667円の損失が生じていますが、1回目から5回目まで、このケースの基準価額で購入すると、2937円の利益が出ているのです。もちろん実際には、こんなに都合良く基準価額が動くはずもないのですが、あくまでもシミュレーションということで、ご容赦ください。若い人ほど「時間」があるので、この「つみたて投資」の威力が大きいのです。積み立ての効果をご理解いただけたでしょうか。

この記事の著者
太田創

株式会社GCIアセット・マネジメント エグゼクティブ・マネジャー。関西学院大学卒。1985年、三菱銀行(当時)入行。1988年より約10年間、英国およびブラジルで資金為替・デリバティブ等の運用、投資信託の管理業務に携わる。その後、2000年から2015年までシティグループ(米)、UBS(スイス)、フィデリティ(米)において投資信託のマーケティング・商品企画を統括。2015年にGCIアセット・マネジメントに移籍。投資信託をはじめとする金融商品のほか、海外での資金ディーラーとしての豊富な経験を活かし、市況や金融市場に関する幅広い著述、寄稿、講演を数多く手がける。著書に『ETF投資入門』(日経BP社)等。

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