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台湾有事は「すでに始まっている」 峯村健司氏が警告する中国の“エスカレーション・ラダー”

台湾有事は「すでに始まっている」 峯村健司氏が警告する中国の“エスカレーション・ラダー”
(c) AdobeStock

 台湾周辺の緊張は、これまでとは違う段階に入りつつある。ジャーナリストでキヤノングローバル戦略研究所上席研究員の峯村健司氏は、「台湾有事はすでに始まっている」と警鐘を鳴らす。台湾をめぐる現状と、日本が備えるべき課題について聞いた。全2回の第1回。

 みんかぶプレミアム特集「中国崩壊か 習近平の黄昏」

目次

中国はエスカレーション・ラダーを登っている

 「台湾有事はすでに始まっている」。私はかねてから、そう言ってきました。

 有事というのは、人民解放軍が台湾に上陸した日、ミサイルが撃ち込まれた日から突然始まるものではありません。中国側の圧力は、平時から武力衝突に至るまでのグレーゾーンで段階的に強まる「エスカレーション・ラダー」として捉えるべきです。

 認知戦、法律戦、心理戦、海警局や海事局を使った海上での圧力、経済的威嚇、軍事演習――。そうした圧力が積み重なり、ある段階を超えると、武力行使を伴う軍事行動に移行していくのです。

 たとえば6月6日、中国交通運輸部は、福建海事局や広東海事局などを動員し、台湾島東部海域で海上交通の「特別法執行活動」を実施しました。これは簡単に言えば、海上交通に関する取締りや巡航、船舶への確認などを含む行政執行です。中国側はその理由として、「日本とフィリピンが『中国・台湾島』以東の海域で海洋境界画定交渉を開始し、中国の領土主権と海洋権益を著しく侵害した」と説明しています。

 もちろん、この特別法執行活動が、日本とフィリピンに対する報復的な動きであることは否定しません。ただし、それだけで捉えるべきではない。これも、エスカレーション・ラダーの中で説明できる動きだからです。

 高市早苗首相の「存立危機事態」発言に対する中国の反応もそうですが、「これをやったから、中国がこう報復した」という一対一対応だけで見ていると、中国側の長期的な狙いは見えません。

 今回の特別法執行活動で重要なのは、中国が台湾東方海域にまで自らの管轄権を及ぼそうとしている点です。これはかなり大きな問題です。

 中国はいま、着実にエスカレーション・ラダーを登っています。

 私が想定するエスカレーション・ラダーは第七段階まであり、第七段階を超えると戦争状態に入ります。台湾に対する断交圧力によって始まる第一段階から、現在は経済制裁、軍事演習、ミサイル実弾演習、海上での法執行活動などが重なる第四段階の後半に入っている、と私は見ています。第五段階に近づいているというのが、いまの私の認識です。

 しかも、このラダーは第五段階に入ると、速度を増していきます。だからこそ、「まだ有事ではない」と言っている場合ではないのです。

2027年は重要な節目になる

 やはり大きな節目となるのは、2027年です。2027年は、習近平氏が党総書記として入った3期目の節目であり、第21回共産党大会が見込まれる年です。同時に、人民解放軍の建軍100年にもあたります。自身の正統性を誇示したい習氏にとって、台湾統一を諦める理由はありません。

 すべての物事は、エビデンスをもとに考えなければなりません。中国の公式文書、軍の人事、海警局や海事局の活動、米中交渉の中身、台湾周辺での認知戦。そうした材料を丹念に見ていけば、中国が何を準備し、どの段階まで進んでいるのかが見えてきます。

 ところが日本では、エビデンスに基づかず、「自分はこう思う」という思い込みだけで台湾有事を語る人も少なくありません。少し前まで「台湾有事なんて起こるはずがない」と言っていた人たちが、最近になって急に「備えなければならない」と言い始めている。

 私は数年前から同じことを言い続けています。それは、中国側のエビデンスを見ているからです。議論をするなら、根拠を示さなければいけません。根拠のない思い込みでは、議論はかみ合わない。台湾有事をめぐる日本の議論がなかなか深まらないのは、そこに大きな原因があると思っています。

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この記事の著者
峯村健司

キヤノングローバル戦略研究所主任研究員。北海道大学公共政策学研究センター上席研究員。1974年、長野県生まれ。朝日新聞入社後、北京・ワシントンで計9年間特派員を務める。ハーバード大フェアバンクセンター中国研究所客員研究員、朝日新聞編集委員を経て現職。2011年、優れた報道で国際理解に貢献したジャーナリストに贈られるボーン・上田賞を受賞。著書に『十三億分の一の男』(小学館)、『潜入中国』(朝日新聞)など、監訳書に『中国「軍事強国」への夢』(劉明福著、文春新書)がある。

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