核問題はどこへ消えた?イラン戦争の本当の焦点が「ホルムズ海峡」に移った理由と戦争の行方
アメリカとイランが6月に結んだ停戦合意は、わずか1カ月足らずで崩壊した。また核開発の阻止やイランの体制転換から始まったはずの戦争が、いまやホルムズ海峡の支配権をめぐる争いへと姿を変えている。東京大学公共政策大学院教授で地経学研究所長の鈴木一人氏が、イラン戦争をめぐる現状について解説する。
みんかぶプレミアム連載「鈴木一人 地政学×経済安全保障=地経学」
イランに有利すぎた「14項目の停戦合意」
6月、アメリカとイランは停戦合意を結びました。このとき結んだのが、14項目からなる「イスラマバード覚書」です。具体的には、軍事行動の停止、アメリカによる海上封鎖の解除、イラン産原油への制裁緩和、凍結資産の解除、復興支援などを盛り込む一方、イランの核問題については最終合意に向けた交渉へ先送りされました。
この覚書は、「トランプはしっかり中身を確認したのか」と疑問を抱くほど、イランに利する内容でした。14項目中、イランにとってのデメリットは「船舶の安全な航行への協力と機雷除去などの必要な対応」の1項目だけです。
アメリカはなぜ、ここまで譲歩したのか。ここには、原油価格やガソリン価格高騰への危機感があったとみることができます。ホルムズ海峡を開放しない限り、原油やガソリンの価格が上がり続ける。トランプとしては、それだけは避けたかった。
そのため、「核問題だけはひとまず先送りにするが、それ以外はイランの要望に従う」といった流れの中で、覚書が結ばれたのではないかと考えています。
もちろん、この決定にアメリカ軍部とイスラエルが反発することは、容易に想定できました。今回、ネタニヤフ政権は今回アメリカをイランへの攻撃に引き込みましたが、これは長年にわたるイスラエルの悲願でした。イスラエルはイランのレジームチェンジが行われるまでは戦争を終わらせたくない。そのような圧力と政治的な事情がありつつも、ガソリン価格を何とかして下げたいトランプは、ずっと板挟みの中にいます。
しかも現在、アメリカは交渉に有効なレバレッジを、ほとんど失ってしまっています。そこでアメリカとしては、いったん覚書を破棄して攻撃を再開し、「爆撃されたくなければ交渉に応じろ」という軍事的圧力を、新たなレバレッジにしようとしているのではないかと考えられます。
攻撃再開について、アメリカ側は「イランによる攻撃への報復だ」と説明しました。また一部報道では、アラグチ外相やガリバフ国会議長ら、交渉を重視する実務派と、革命防衛隊を中心とする強硬派との間で対立が生じているとも指摘されています。
しかし、現時点で、イラン指導部が明確に分裂していることを裏付ける材料は出ていません。むしろイラン側の発言と行動には、一定の一貫性があります。発言や方針が行き来しているのは、イランよりもアメリカ側です。