第三十七話「極秘ミッション」連載小説「奪われるースパイ天国・日本の敗戦ー」
スパイ防止法がないこの“天国”・日本で、知らない間に国が「奪われる」──。
表向きの歴史やニュースの裏側に潜む、冷酷な国際諜報戦と、個人の運命が国家間の巨大な陰謀に巻き込まれていく壮大な安全保障サスペンス小説、ここに爆誕。
舞台は、女性初の内閣総理大臣・高地きみえが熱狂的な支持を背景に「強い日本」を目指す日本。彼女は長年の懸案である日本人拉致被害者の奪還を決意し、極秘裏に北朝鮮の金正恩総書記との会談に臨む。しかし、その外交交渉の裏側では、すでに北朝鮮の体制に「影」が差し込み、巨大な隣国・中国の思惑が絡み合っていた。
第三十七話「極秘ミッション」
焦燥感に駆られる高地きみえ首相だったが、1つの可能性に望みをかけていた。ワシントンを訪問する直前、内閣情報官の辻田徹が「極秘ミッション」の承認を求め、首相官邸の執務室を訪れた。辻田はこう言った。「警察庁の新人である今泉謙太郎という職員は、北朝鮮の政権中枢に中国共産党幹部が影響力を行使している疑いがあると言っています。公安の方でも確認しましたが、李天佑という共産党幹部は習近平国家主席の親戚であり、北朝鮮の金ファミリーとも近い存在のようです」。
「それで?」。高地が話の先を催促する。「今泉は、李天佑の娘と結婚間近までいった関係にあり、天佑とも顔見知りです。もちろん、リスクは承知の上ですが、この今泉を外務省職員と共に北朝鮮に派遣し、何らかの方法で李天佑と接触させてみるのはどうでしょうか?」。高地は敏感に反応した。「つまり、今泉君を北朝鮮に外交官の一員として送り、向こうの外務省と協議するフリをして李天佑と秘密裏に会うということね?」。「はい、その通りです」。辻田のシナリオは危険であるものの、高地はその可能性に賭けてみることにした。「すぐに行かせて!」。
警察庁出身の谷川崇志官房副長官が秘密事項であると前置きした上で今泉謙太郎に打診すると、彼はすぐに了解した。「ぜひやらせてください!」。彼はかつて中国共産党幹部である李天佑の娘と交際していたことがあった。謙太郎は、大学時代の先輩である外務省アジア大洋州局の坂崎翔と共に北京へ飛び、そこから北朝鮮に渡った。滞在する高麗ホテルに到着すると、なぜか北朝鮮側は外務省ではなく国家保衛省の人間が応じるという。従来の日朝交渉から見れば異例だった。