370兆円は国民のためではない? 高市政権「積極財政」の正体を専門家が解説
7月21日に「経済財政運営と改革の基本方針2026 「責任ある積極財政」元年 ~日本の挑戦を起動する!~」(骨太方針2026)が閣議決定された。高市早苗首相は「責任ある積極財政」をスローガンに掲げていた通り、「AIや半導体など17分野・62の重要製品・技術への370兆円超の投資構想」を記すなど、財政出動に前向きな姿勢を見せている。ただ、高市政権が目指す積極財政を経済学者はどのように捉えているのか。反緊縮財政の立場から積極財政の必要性を長年訴えてきた、『「上」vs.「下」の経済学』(地平社)の著者であり、立命館大学経済学部教授・松尾匡氏に話を聞いた。短期連載全4回の第2回。(聞き手・望月悠木)
「軍拡を伴う積極財政」の可能性
――「責任ある積極財政」のスローガンの通り、「骨太方針2026」では、さまざまな分野に対する積極的な投資が記されていました。この姿勢はどのようにとらえていますか?
「何が重要かは、国が決める」という姿勢を感じました。実はこの発想、高市政権が急に言い出したものではありません。もとをたどると、経済産業省が2021年に出した報告書に行き着きます。それ以来、経産省がずっと温めてきた考え方が、今回そのまま反映された印象です。
この考え方は、これまでの2つのやり方とは違います。1つは、業界団体の要望を聞きながら政治が落としどころを探る、昔ながらの自民党のやり方。もう1つは、「民間人の市場に任せておけば自然とうまくいく」という新自由主義的なやり方です。「経産省の考え方」はそのどちらでもなく、「国が課題を決め、そこにお金と人を大胆に投じていく」という、いわば第三の道を掲げています。
――「国の課題にお金を出してくれる」というのは良いことのように思いますが。
370兆円という投資額だけを見ると、思い切った積極財政に見えるかもしれません。しかし、中身をよく見ると、結局は「国が『これが正しい成長分野だ』と決めたところに、重点的にお金を配る」という話にすぎません。
実際、その17分野の多くは安全保障や軍事に関連したものが目立つ一方で、これから高齢化でますます必要になる介護や、災害に備える防災インフラへの投資などの優先順位は高くないです。「国が決めた分野にお金を集中させる」というこのやり方は、「軍拡を伴う積極財政」という色合いが強く、私たちの暮らしを豊かにするための方針とは言い難いです。