競馬で勝った金で実家への借金140万円を返済中。俳優志望の30歳男性「俳優で食っていくのは本当にきつい」それでも俳優をやめる選択肢がない理由
「華やかな芸能界の裏側で、表現者たちはどう生計を立て、何を糧に生きているのか」――。
さまざまな職種、経歴の方のリアルなお金事情をあらいざらい暴露していくみんかぶプレミアム連載「あなたの給与明細 見せてください」。
第1回は、俳優として活動する30歳の男性の実存を探る。俳優としての年収は120万円。アルバイトは一切せず、俳優業一本で生活しているという。
アニメの聖地巡礼から始まった意外なキャリアのきっかけから、サイゼリヤを「おふくろの味」と呼ぶ等身大の食生活、そして「人を助けることもあれば、傷つけることもある」という表現者としての覚悟まで。
夢と現実の狭間で揺れる、30歳俳優のリアルな告白をお届けする。短期連載全3回の第2回。
目次
「人間とは何か」を追求したい。大学で哲学を学び、見出した俳優という道
高校を卒業して進路を決めるとき、正直、将来やりたいことが見つかりませんでした。周りの先生たちは「無難だから経営学部か経済学部に行け」と勧めてきましたが、僕はどうしてもそれを学びたいとは思えなかったんです。自分が生涯にわたって必要とする知識は何だろうと考えた末に行き着いたのが、「俺は人間なんだから、人間について学ぼう」という答えでした。
そうして進学した大学では、西洋哲学や倫理学、心理学を4年間学びました。幼少期からずっと人が好きで、人についてもっと知りたいという知的欲求が強くあったんです。今の僕にとって、俳優という職業はまさにその「人間の研究」の延長線上にあります。
そんな僕に転機が訪れたのは、大学4年生の時でした。当時アルバイトをしていたラーメン屋さんでスカウトされたのが、役者の道を志す最初のきっかけです。
実はそれまで、僕は西武鉄道の広報部に就職したいと考えていました。学生時代にアニメ『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』が大好きになり、舞台である埼玉県秩父市へ何度も聖地巡礼に通ううちに、秩父という街そのものの魅力に惹かれていったんです。ある時、西武鉄道の車内広告を見て「僕ならもっと秩父を上手く宣伝できる、秩父に貢献したい」と強く思いました。
就職活動もその方向で進めていたのですが、そんな最中に舞い込んだスカウトのお話。ふと、「俳優になれば、観光大使のような形で、鉄道会社の広報よりもさらに幅広く、秩父の魅力を発信できるのではないか」という可能性を感じ、この世界に飛び込むことを決意しました。
殺人犯から被害者遺族まで。フィクションだからこそ到達できる感情のリアル
俳優という仕事の素晴らしいところは、自分以外の様々な人間の人生を「疑似体験」できる点にあります。タクシーの運転手、パティシエ、建築家、時には殺人犯や被害者の遺族に至るまで、役を通してでなければ決して気づくことのできなかった感情や価値観に触れることができます。人間という存在の深淵を覗き込むような、非常に不思議で魅力的な仕事です。
一方で、言葉や感情を扱う職業である以上、その表現が人を救うこともあれば、時に誰かを傷つけてしまうリスクも常に隣り合わせです。他人の感情を自分の心に引き写す作業は決して平坦な道のりではありません。映画『ダークナイト』でジョーカーを怪演したヒース・レジャーの例が有名ですが、役柄にのめり込みすぎるあまり、精神的な負荷に耐えきれず心身を病んでしまう役者も少なくありません。人間の繊細な部分を素手で触るような仕事だからこそ、常に強い覚悟と自制心が求められると感じています。
そして何よりシビアなのが、やはり金銭的な現実です。「まともに飯が食えるようになるまでが地獄」というのが、僕の偽らざる実感です。同世代のサラリーマンのように、月々20万から30万円を安定して稼げるようになるまでの道のりは本当に険しい。生活のために耐え忍ぶ日々は、精神的なタフさを必要とします。
父親からの借金は140万円。それでも「やめる」という選択肢はない
現在、僕には父親から借りているお金が140万円ほどあります。自分の懐事情に合わせて、競馬で勝った時などに少しずつ返済はしていますが、実家の中で生活費をやりくりしながらの返済なので、増えたり減ったりを繰り返しているのが現状です。もし俳優の仕事に見切りをつけて別の仕事に就けば、この金銭的な苦しさはすぐに改善するのかもしれません。しかし、僕の心の中に「俳優を辞める」という選択肢は微塵も存在しません。
たとえ生活が苦しくても、不安に駆られる夜があっても、僕は俳優という仕事が心から好きなんです。もう、この表現の世界から逃げ出すことはできない。体が動く限り、一生俳優として生きていくことしか考えていません。苦しいなら、別の道を探すのではなく、俳優としての実力をつけてこの世界で這い上がる、それだけです。
僕の直近の明確な目標は、日本アカデミー賞の新人俳優賞にノミネートされることです。主戦場にしたいのは映画の世界。銀幕の向こう側で、観客の皆さんの折れそうな心をそっと支えられるような、そして一瞬でも日常を忘れられるような娯楽を届けられる、息の長い映画俳優になりたいと思っています。