「wakatte.tv」批判の九大教授が指摘「学歴信仰がカルト化し、学生や親を苦しめている」「学歴のエンタメ化は、日本社会の病理を可視化し、さらなる分断を生み出している」

「wakatte.tv」批判の九大教授が指摘「学歴信仰がカルト化し、学生や親を苦しめている」「学歴のエンタメ化は、日本社会の病理を可視化し、さらなる分断を生み出している」

 従来型のペーパーテスト一発勝負の一般入試ではなく、女子枠の導入や、学校推薦型選抜の割合の増加など、日本の大学受験環境は急変している。

 他方、ネットメディアの世界に目を向ければ、一般入試による大学受験の成否を土台とした「学歴」をエンタメとして露骨に消費するコンテンツが若年層に浸透し、新たな分断を生み出しているという。

「Fラン大」などという言葉で若者を恐怖で縛り付ける現代の能力主義(メリトクラシー)は、社会に何をもたらしているのか。YouTube番組「wakatte.tv」を痛烈に批判し、学歴差別に基づいた言説を批判する運動を展開している九州大学大学院法学部の岡﨑晴輝教授に、暴走する学歴社会の病理と大学改革の最前線について聞いた。短期連載全3回の第2回。

(聞き手:受験評論家・伊藤滉一郎、みんかぶマガジン編集長・江口匠)

みんかぶプレミアム特集「学歴社会の功罪 AI時代に学歴は無意味なのか」第4回

YouTube番組「wakatte.tv」が引き起こす「カルト宗教化」と深刻な被害実態

伊藤:今回の騒動において、先生が「wakatte.tv」の表現や、それを許容する社会の空気を問題視され、声を上げられた直接のきっかけは何だったのでしょうか。学生からのSOSのような声もあったとお聞きしています。

岡﨑教授:最初に関心を持ったのは8月上旬のことです。同僚の先生があるYouTube番組で彼らの番組を批判しているのを見たのが直接のきっかけでした。その後、私がこの問題について発信を始めると、高校生・大学生、保護者・高校教諭などから直接メールやDMが届くようになりました。

 彼らから聞いたのは、「高校時代、クラスの半分は番組をエンタメとして楽しく見ていたが、残りの半分は本当に嫌がっていた」という、教室内に持ち込まれたリアルな分断です。さらに、私の元には目を疑うような深刻な被害の実態が多数寄せられています。一部の若者の間では、偏差値の上下関係が絶対的な価値基準であるかのように、まるでカルト宗教のように思い込まされてしまっているのが現状です。

恐怖で縛り付ける教育の限界と、東大・京大至上主義の悲劇

江口:「深刻な被害の実態」とは、具体的にどのようなケースがあったのでしょうか。

岡﨑教授:例えば、「Fラン大学にだけは行きたくない」と恐れるあまり、精神的に追い詰められて病気になってしまった学生がいます。親友と「Fランに行かないよう頑張ろう」と励まし合っていたにもかかわらず、希望通りにいかなかった一人が心を病んでしまったという痛ましいケースです。

 また、現役である国立大学に合格したにもかかわらず、番組の影響で「東大・京大でなければダメだ」と学歴に異常な執着を持ち、仮面浪人をした若者もいます。その結果、東大・京大に落ちただけでなく、在籍していた大学も単位不足で中退してしまったのです。さらに深刻なのは、東大・京大を目指して浪人中の子が「次落ちたら自殺する」と言っていて、親御さんが困り果てているというSOSです。

 親の側が番組の価値観に洗脳されてしまっているケースすらあります。「東大か京大の理系以外は行かせない」と親から強要され、本来は文系志望だった女子高生が精神的に完全に追い詰められ、勉強が手につかなくなっているという相談もありました。

伊藤:「良い大学に行けば可能性が広がる」という親心や、低年齢化・過熱化する中学受験からの競争環境が、そうした極端な学歴偏重の価値観と悪魔合体してしまっているように感じます。

岡﨑教授:「Fランに行ったら世間からバカにされるぞ」という恐怖を利用して子どもに勉強させるのは、教育として論外です。恐怖を動機づけにしてしまうと、失敗した時の精神的なダメージが大きすぎます。

 それに、恐怖に追い立てられて仮に良い大学に入れたとしても、入学後にモチベーションが続かなくなってしまう。「あとは適当に単位を取って卒業できればいいや」と燃え尽きてしまう学生が、九州大学にも一定数存在しているのが現実なのです。

「努力したから偉い」という歪んだ能力主義と自己責任論

伊藤:学歴をエンタメとして消費し、他者を見下す土壌の根底には、日本社会に蔓延する「能力主義(メリトクラシー)」の歪みがあるようにも見えます。

岡﨑教授:おっしゃる通りです。「自分は努力して良い大学に入ったのだから、高い地位につくのは当然だ。逆に、努力できなかった人間は地位が低くて当然であり、バカにされても仕方がない」という、非常に歪んだ能力主義、いわゆる強者の自己責任論を内面化してしまっている人が少なくありません。実際、私のところには弁護士などを名乗るエリート層から、そうした露骨な選民意識に満ちたダイレクトメッセージが届くこともあります。

 一部のトップ層で「自分は純粋な努力のみによって今の地位を得た」と信じて疑わない人は、努力できなかった(あるいは努力できる環境になかった)人を「自己責任だ」と冷酷に見下す傾向が強い。これは現在の、親の経済力や文化資本が大きく影響する受験偏重のシステムが作り出してしまっている側面もあると思います。学歴のエンタメ化は、そうした日本社会の病理を可視化し、さらなる分断を生み出しているのです。

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この記事の著者
岡﨑晴輝

1968年生、茨城県出身。政治学者。現在、九州大学大学院法学研究院教授、放送大学客員教授を務める。また、全国大学高専教職員組合中央執行委員、いのち支える自殺対策推進センター監事なども務める。

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