相次ぐ芸人のSNS炎上から考えるお笑い界の構造ーーはっしーはっぴーを萎縮させるネットの過剰反応と、鬼越トマホーク・坂井の渡部建批判に生じた「プロレス観」のズレ
『水曜日のダウンタウン』での若手芸人の振る舞いや、SNS上での先輩芸人への批判がネット上で波紋を呼んでいる。単なる個人の暴走やモラルの問題として切り捨てがちだが、プロインタビュアー・吉田豪氏は、お笑い界の構造と世間の受け止め方に生じている決定的なズレを指摘する。番組の核を失ってもコンプライアンスの境界線を攻め続ける演出の狙いと、予定調和を拒む「生の感情を載せたプロレス」が通じなくなっているネットの空気感。芸人たちのラジオやPodcastでの後日談を交え、今のお笑い界のリアルを語る。
みんかぶプレミアム連載「吉田豪の月イチ気になる話。」
目次
松本人志の「地上波つまんない」への違和感と、ギリギリを攻め続ける『水ダウ』の凄み
ここ最近、ボクがずっと引っかかっているのは、松本人志さんが『DOWNTOWN+』で毎回のように同じような主張を繰り返していることなんです。「今の地上波はつまらない」「コンプライアンスがきつくなったから見る気がしない」「その点、そういう縛りのないこのチャンネルでは放送禁止用語も自由に言える」って感じで、今の地上波をろくに見ていないのに「つまらない」と切り捨てるのはどうかと思うし、非常にもったいないことなんですよ。最近の賞レースも全然見ていないみたいだし、粗品さんの「ツッコミスター」も見ていないと話していましたけど、コンプライアンスが厳しい地上波の中でも面白いことをやろうとしている人たちは確実にいるんですよね。
その最たる例が、まさに先日放送されて話題となった『水曜日のダウンタウン』における「僕らのバリケード戦争」という企画でした。松本さんという番組の核を失ってもなお、これだけちゃんと世間で話題になる、かなりギリギリのラインを仕掛けてくる演出の藤井健太郎さんは本当にすごい。モラル的には正直危ういし、今回話題になったはっしーはっぴー、その前週のモグライダー・ともしげさんもそうですが、2人ともSNSで「発達障害なんじゃないか」と騒がれてもいたし、そういういじっていいのか分からない境界線の人を観察して面白がる手法をとっている。
その良し悪しは置いておくとして、「今の地上波はコンプラでガチガチだから面白くできない」ではなく、「あなたの番組は、あなたがいなくなった後もそのギリギリを攻める面白いことをやっていますよ」ってことなんです。過去に番組スタートと同時に何度も問題を起こしても、修正を繰り返しながら、その時代の中で「セーフの境界線ギリギリ」のことをやってきました。本来なら出しちゃいけないゴミ屋敷の住人を出したり、鎌を片手に追い掛けてくるような人を出したりで、何度もBPOで問題視されつつも、その姿勢を失わない。それでもできないことはネット配信なりの別媒体の場でやるという割り切りも含めて、実に見事なスタンスだと思います。
吉本芸人の手堅い「チームプレー」と、他事務所芸人が持つ「サバイブ能力」の対比
「僕らのバリケード戦争」は、吉本チームのチームワークの良さと、他事務所チームのカオスさを対比させる意図が明確にありましたよね。藤井さんもあらかじめ、空気が不穏になるのが分かっているトム・ブラウンのみちおさんなんかを意図的に入れておいたはずで。
そこで見えてきたのが、吉本的なチームワークの功罪なんですよね。吉本のチームプレーって批判されることもあるけど、あのパス回しは地上波のバラエティとしてはすごく手堅くて正解だとは思うんです。ただ、そういう吉本的な流れに合わない荒削りな人たちはどんどん辞めていって他事務所やフリーになっていくから、吉本芸人のチームワークはさらに良くなっていくけれど、トラブルが起きたときの「サバイブ能力」は圧倒的に他事務所組の方が高くなる。
他事務所の芸人は、そういう事態になったときに自分がどう立ち回ればいいかを瞬時に察知して、自分の撮れ高を確保しにいく能力に長けているんですよね。みちおさんにしても、本来はトラブルメイカー側なのに周りがキレ始めたらすぐに察知してポジションを変えていたし、みなみかわさんにしてもオンエアで使えるギリギリのラインでいじりつつ、自分は絶対にキレずに静かに立ち回って一番目立っているわけです。吉本組が身内同士のチームワークに特化してバリケード作りの作業がスムーズになりすぎていた分、どうやって目立とうかを考えている他事務所組の個のサバイブ能力が際立っていたと思います。